フランスでは、赤ちゃんと親は別々の部屋で寝るのが一般的だ。産後間もなく退院してきたタイミングからという家庭も多く、産後3カ月もすれば、ほとんどの家庭で赤ちゃんを別室に寝かせる。添い寝はできるかぎり避けられ、むしろ「タブー視」されているのだ。

出産しても夫婦の寝室はふたりのもの

保健所からも「ひとり寝」を指導

フランスの保健所(PMI)でも、赤ちゃんを寝かせる場所は別室を前提にしている。やむをえず同室になる場合にも、親から離れた空間にベビーベッドを置くよう指導される。このため、フランス在住の日本人ママの中には、添い寝がやめられずに叱られる人もあるという。

一般のフランス人の考えも、添い寝にはネガティブだ。数年前にテレビの育児番組で拾った言葉が分かりやすい。授乳のために添い寝をした経験を語る出演者が、添い寝についてこう語っていた――「添い寝は一種のタブー。友だちには言えない」「(添い寝をしていることが知られると)子どももまともに育てられない人間と思われる」。

赤ちゃんはひとりで寝かせるもので、添い寝は避けるべきという考え方は、フランス社会では常識として浸透している。他のヨーロッパの国々やアメリカ、オーストラリアなどでも同様で、先進国に限れば、日本のように添い寝や川の字になって寝る姿はむしろ珍しい。

「夫婦だけの時間や空間はキープすべき」

別室であっても、決して赤ちゃんの様子に無頓着なのではない。基本的に、泣けば駆けつけて授乳や世話をする。元来、母親は赤ちゃんの声に敏感なものだし、ベビーモニターで別室の赤ちゃんの声や様子が分かるようにしている家庭も多いので、異変に気づかない心配はない。しかし、それほどまでに赤ちゃんを気遣いながら、より便利な添い寝を避けるのはなぜだろう。

まず、よく耳にする理由としては、「子の自立心を育てるために、赤ちゃんであってもひとりで寝かせるべき」という考え方がある。自立を重んじるフランスでは、この理由はなかなか揺るぎそうにない。「ひとりで寝かせることでひとりで寝られる子になる」との声も聞く。添い寝における、赤ちゃんを押しつぶしたり窒息させたりする不安や、産後の母親が十分な休息をとれないなどのデメリットも無視できない。

愛する赤ちゃんはベビーベッドでおねんね

さらに夫婦に視点を移すと、「子どもがいても夫婦だけの時間や空間はキープすべき」という強い意志が働くようだ。夫婦のプライベート空間である寝室を大事にするあたりは、日本人とは大きく異なる点かもしれない。さすがアムール(愛)の国・フランスである。

添い寝か別室か、それが問題だ

フランス人のほとんどが、子どもと親とを別室する部屋割りを好む一方、添い寝か別室かの選択にとことん悩むのが日仏カップルだ。それぞれが異なる文化を背景に持ち、子育てについての"常識"が違うからだ。この選択をめぐって、深刻な夫婦げんかに発展することも多い。

日刊紙「ル・モンド」によると、フランスでも近年、添い寝をする母親がじわじわと増えているらしい。驚きをもって報じられるほどに少数派ではあるが、それほど話題性があるのが添い寝なのだろう。

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筆者プロフィール: 岡前 寿子(おかまえ ひさこ)

東京在住の主婦ライター。ご近所の噂話から世界のトレンドまで、守備範囲の広さが身上。渡仏回数は10数回にのぼり、2年弱のパリ在住経験がある。所属する「ベル・エキップ」は、取材、執筆、撮影、翻訳(仏語、英語)、プログラム企画開発を行うライティング・チーム。ニュースリリースやグルメ記事を中心に、月約300本以上の記事を手がける。メンバーによる書籍、ムック、雑誌記事も多数。