“琥珀色”という言葉は、ウイスキーの代名詞といっても過言ではない。味と香りに強烈な個性を発揮するウイスキーは、“大人の酒”として古くから、そして洋の東西を問わず愛されてきた。国内ではビッグブランドが浸透しているウイスキーだが、東京都心から直線距離で70kmほど離れた秩父の山中にひっそりたたずむマイクロ・ディスティラリーが、いま日本の、いや世界の注目を浴びている。

ハイボールブームでウイスキーが復権

1980年代前半の絶頂期、30万キロリットルを超えていた日本国内のウイスキー出荷量。ピークから年々減り続け、2000年代に入ってからは10万キロリットルを割る年も多かった。ビールや日本酒、ワインに比べてアルコール度数がグンと高く、価格帯も一般的に高価という印象のあるウイスキー。酒を気楽に、手軽に、そして安価に楽しむ傾向の強かったこの国では、爆発的な浸透が難しかった面もたしかにあることはある。

ところが近年のハイボールブームで、ウイスキーは盛り返しつつある。2014年は、NHK朝の連続テレビ小説「マッサン」の影響もあり、市場がさらに回復。いま、高級人気ブランドには品薄の声すら聞こえてくる。

日本のウイスキーというと、長年、サントリーとニッカの2大グローバルブランドが牽引してきた。小さなメーカーもあることはあったが、構図としては、明らかにこの2社の寡占であった。それが、世に乙類焼酎のプレミアムブームが訪れ、地ビールや日本酒の地酒も続いてブームとなった。地ビールには“クラフトビール”という呼び方も生まれた。

ひとり残された形のウイスキー界。本場スコットランドのシングルモルトやアメリカのバーボンがひそかな人気を呼んでいたものの、スコットランド、アイリッシュ、アメリカン、カナディアンと並んで世界5大ウイスキーのひとつに数えられるジャパニーズ・ウイスキーの名は、依然としてサントリー、ニッカの2大カンパニーのみが背負い続けていたといえるだろう。

ビールは大資本が強さを発揮する一方で、小さな醸造所も日本中に乱立する状況を呈している。日本酒や焼酎、泡盛の蔵もカウントするのが大変なぐらいの社数がある。それに比べて、ウイスキーは初期投資が大きいだけでなく、立ち上げから最初の出荷までも熟成のために長い時間がかかる。“ビジネス”として考えると、小資本の勝算は薄いと思い込んでしまうのも当然といえる。

秩父の山間にたたずむベンチャーウイスキー

しかし、スコットランドに行けば人里離れた原野でも小さな蒸溜所が細々とウイスキー造りを続けているし、アメリカにもそういうところは多い。小規模蒸溜所=マイクロ・ディスティラリーは、日本であっても、けっして夢の話ではなかったはずだ。地ビール、地酒、今後は“地ウイスキー”ブームもやってくるのだろうか……。ここ埼玉県秩父市に一軒の小さな蒸溜所がある。日本のマイクロ・ディスティラリーの若き旗手、「ベンチャーウイスキー」である。