7月20日(米国時間)、Microsoftは音声パーソナルアシスタントシステムである「Cortana(コルタナ)」を数カ月以内に日本、オーストラリア、カナダ(英語)、インドのWindows Insider Program参加者に提供することを明らかにした。同様にブラジルやメキシコ、カナダ(フランス語)にも年内の提供を予定している。

公式ブログに掲載されたCortana日本語版のスクリーンショット。最初の挨拶をしたタイミングだ

米国、英国、中国、フランス、イタリア、ドイツ、スペインの7カ国向けのCortanaは「7月29日」にWindows 10とともにデビューする。言語による公開タイミングの差を設けた理由としてMicrosoftは、「画一的なアプローチから脱却し、各国の文化に則したローカライズが必要だった」と説明した。

Cortanaは2009年頃から開発が始まり、2014年7月にリリースしたWindows Phone 8.1の検索ボタンに置き換わる形でCortana英語版(ベータ版)を搭載している。さらに当初から多言語への対応を表明していたが、当時を思い返すと、Windows Phoneのシェアが低い中国市場への参入を疑問視する声も少なくなかったように記憶している。しかし、Microsoftの判断はより遠くを見据えたものだった。

2012年10月に中国で開催したMicrosoft Research Asiaでは、スピーカーが述べた内容を音声認識した後に字幕として表示。さらに機械翻訳を用いた中国語の表示と音声発信を行っていた。このようにCortanaは、生まれるべくして生まれた機能であると言えるだろう。

Microsoft Research創業者のRick Rashidが述べた内容を英文字幕化し、さらに中国語へリアルタイム翻訳した音声を会場に流すデモンストレーション

では、Cortanaを支える技術は、どのような仕組みになっているのだろうか。Build 2014のセッションによれば、以下のようなステップで動作する。

  1. アプリケーション上でVCD(ボイスコマンドの定義)を作成
  2. アプリケーション上のVCD XMLファイルに登録
  3. ボイスコマンドの有効化と実行

ポイントとなるのは、2007年に買収したTellme Networksの音声認識技術だ。既存の研究結果とTellme Networksの技術を融合させた自然言語処理を、クラウド上で動作するセマンティック検索データベース「Satori」を経由して、適切なアクションを実行する。

あくまでもこの説明は「Windows Phone 8.1のCortana」であるため、「Windows 10のCortana」と合致しない部分も存在するだろう。数カ月内に登場する日本語版では、Microsoftが説明する「各文化の分析結果に基づいて生み出したローカライズと個性」を楽しみにしたい。

公式ブログの動画から抜粋したCortana日本語版の動作シーン。ユニバーサルWindowsアプリと連動したスケジュール情報なども示されている

Cortanaのバックグラウンドとなる知識ベース(Knowledge Base)は、情報が多ければ多いほど精度が向上する。それはSiriやGoogle Nowといった他社の音声パーソナルアシスタントシステムも同様だが、MicrosoftはCortanaのiOS版とAndroid版のリリースを予定している。

Windows 10上の「モバイルコンパニオン」。AndroidやiOSの項目を開くと、Cortanaに関しては「間もなく登場」と書かれている

やがて約19億人のスマートフォンユーザー(※)がCortanaを使うことで、Satoriなどが蓄積するデータ量は増大化し、その結果として精度の飛躍的向上を期待できるだろう。この背景には、MicrosoftはCortanaをWindows 10の一機能として捉えず、CEOのSatya Nadella氏が掲げる「インテリジェントなクラウドプラットフォームの構築」などのビジョンと連動させようとしていることがうかがい知れる。

※eMarketerが2014年12月に発表した2015年の予測値

2015年7月13日に発表した「Cortana Analytics Suite」はビッグデータや音声分析などを組み合わせた分析ソリューションだが、遠隔モニターリングや病気予測など病院のソリューションシステムとして導入されている。たとえば、老齢者から送られてきた血圧の情報をオペレーターが分析して、その結果をMicrosoft Bandに通知、老齢者は指示に従って薬を飲むといった使われ方だ。

音声による対話でデータ分析などを行う「Cortana Analytics Suite」

つまり、MicrosoftはCortanaで得たデータをユーザーに還元しつつ、より先進的なクラウドソリューションを目指している。我々は、一歩ずつ歩みを進めるMicrosoftが、10年……いや数年後に生み出そうとしている世界を注視すべきだ。

阿久津良和(Cactus)