あの園子温監督が『ラブ&ピース』(6月27日公開)というタイトルで特撮を用いた映画を作った、というと驚かれる方も多いのではないだろうか。園監督といえば『冷たい熱帯魚』から『ヒミズ』『希望の国』、昨年は『地獄でなぜ悪い』など、観た者に強烈な印象を残すストーリーと役者の素材感をむき出しにする表現力で、映画界に衝撃を与えてきた。その人物が、なぜ"ラブでピース"で特撮なのか。

主演の長谷川博己(左)と園子温監督

しかし、実は同作の台本は25年前園監督自身によって書かれたものだという。"なぜ"と思ってしまったのなら、見ている我々の方が自分たちの思い描いた園監督像に囚われていたということに他ならない。ジャンルも作家性も、本当は結果でしかない。常に前作の成功を踏み倒すかのように新しいものを創り出すのが、園監督の個性だ。今、日本で最も多忙な映画監督にお話をうかがった。

25年前に実現したかった、自分らしい映画

園子温監督 撮影:大塚素久(SYASYA)

――園監督初の近年の作品とはガラッと印象が違いますが、実はこのイメージの方を先にお持ちだったんですね。

そうですね。25年前に自分が商業映画のために書いた最初の台本なので。そういう意味では、自分がやりたかったことの原点が全部詰まっています。

――25年経って、原点に戻ったということでしょうか。それとも、新たな挑戦だったのでしょうか?

まあ、戻ったと言う気持ちの方が強いかもしれません。その時実現したかった本当の自分らしい作品を作れたことが大きいですね。

――ご自身の若い頃に書かれた台本を、今の視点でご覧になっていかがでしたか?

すごく細やかに書かれているというか、今の自分では書けないような感じで、きれいに書いてあったね。昔の自分と今とでは考え方が全然違うというところも多々ありましたけど、そこはあまりいじらずに、昔の自分=27歳の新人脚本家に抵抗せずにやってみようと。だからある意味、27歳が作った映画なんですよ。

――昨年公開された『地獄でなぜ悪い』に引き続いて、監督ご自身をモデルにした主人公・鈴木良一役を長谷川博己さんが演じていらっしゃいます。

何となく、流れでそうなりました。(役作りも)"園"の時の長谷川君という感じで。

――何をやってもうまくいかない良一が、カメと出会ってから人生が変わり始めます。なぜカメだったのでしょうか?

それは個人的な理由でしかないんですけど……。台本を書いた25年前、その頃の僕は20代後半で映画も撮れず、ずっとくすぶっていて。ペットショップの前を歩いていた時に、そこにいたカメと目が合っちゃったんです。それで、カメを買って帰ろうかと思ったんですよね。話し相手になってもらおうと。

でもその時、そういうヤツを主人公にしたらどうかとふと思いついたんです。寂しくて、友達もいなくて、話し相手もいないからカメを飼って暮らしているうちに……と。それで、カメは買わずに家に帰ってその台本を書いたんです。