【レポート】

国内初にして最大となる空港運営権売却で、関空・伊丹はどう変わるのか?

 

新関西国際空港会社(以下、新関空会社)は関西国際空港(以下、関空)と大阪国際空港(以下、伊丹空港)の運営権を民間企業に売却し、2016年1月をめどに事業開始を目指している。その1次入札期限を5月22日、2次入札の期限は6月22日と定めているが、2次入札の期限を延期する動きもあるという。

関空は2016年に民間の手によって生まれ変わる

同社の安藤圭一代表取締役社長兼CEOは5月14日、決算会見で「45年間で運営会社が支払う総額2兆2,050億円というのは、その現在価値総額を会社に残る年間キャッシュフロー額(EBITDAと資産・事業の価値)で割ると11.5倍で決して高すぎない」と述べているが、名乗りを挙げた民間はオリックスを除き、及び腰になっているのが現状だ。ここで一度、国内では最大となる空港運営権売却の意味と影響を整理してみたい。

なぜいま「運営権売却」なのか

「コンセッション」と言われる空港などの公共施設の運営権を民間に売却する方式は、欧米では広く用いられてきたものの、日本では2011年に法整備がされるまではその基盤がなかった。日本の地方空港はというと、国が運営・設備投資を管理し、自治体が出資し動かしている空港ビル会社が経営してきたため、古くからの利権者なども絡んで革新的な空港運営事業の改革は難しかった。このような空港運営の手詰まりを打開すべく、全国的な地方空港の民営化や運営権の売却が議論に上るようになったというわけだ。

今回の関空運営権売却の主眼は、今のままでは国がこれまでに投じた巨額の建設費の回収ができないので運営を民間に売却しこれを回収するとともに、将来の空港運営のリスクを国から民間に転化することにある。一方、購入する民間側にとっては、空港という地域寡占型のインフラビジネスが行え、商業モールや住宅開発などの事業拡充余地が大きいという魅力がある。

国は伊丹空港を統合した新関空会社を発足させ、運営権売却を成功させようという機運を盛り上げてきたし、少なくとも150社以上が集まった2014年8月の方針説明会までは当初のもくろみに沿って進んでいたように見えた。

2014年8月の方針説明会では150社以上が集った

一般利用者のメリットは?

少し目を転じてみよう。今回の運営権売却に関して、利用者のメリットは目に見えたものがないように感じる人もいるかもしれない。実際、民間が運営権を取得してまず行うことは、収入拡大とコスト削減に直結する施策を打つことだろう。収入は大きく分けると2通りあり、「エアライン等からの空港使用収入」と「来場旅客が使う商業収入」である。

新民間事業者になってできることといえば、「エアライン誘致のための今まで以上に大胆な着陸料・賃料の割引」「商業施設の組み替え・拡張」「空港ハンドリング事業の自社化、外注先の変更」「免税事業の入札化」などが浮かぶ。しかし、この施策の直接の相手は旅客ではなく、航空会社やハンドリング会社、商業店舗などであり、民間はまず"B2B"から動いていくこととなる。

だからといって利用者へのメリットが出てこないわけではない。楽しく買いやすいショッピングモールができたり、保安検査にかかる時間が短くなったり、航空旅客以外の市民が集まってきて空港がにぎわうようなイベントが続々登場するなど、新たな打ち手が具体化されてくる日も遠くはない。その一方で、伊丹空港のターミナルビル改修で新しく空港施設使用料を払うようになるというデメリットも想定される。

入札に二の足を踏ませる運営リスク

2014年夏以降、企業側の応札意欲が急速になえているとの報道が続くようになった。その理由として、45年間の長期にわたって毎年490億円、総額2兆2,050億円もの使用料をコンスタントに支払い続けなくてはいけないにも関わらず、これまで国が負っていた国のリスクを全て民間で負うことへの不安が大きいことがあげられる。

そんな中、国交省や新関空会社は2014年夏以降民間側から上記の不満や不安が示されていたにもかかわらず、現在に至るまでも具体的な方針や要領の変更は示していない。その結果、空港運営の代表企業となるべき日本企業の腰が一斉に引けてしまったのが現状だ。

一方、共同事業者となる海外オペレーターは、さほど総額の巨大さや長期のリスクに対して神経質になっていないようだ。これは事業として参加する意味がなくなれば撤退するまで、という割り切りがあるからで、国家の大プロジェクトに手を挙げた以上「無責任」と言われるような撤退や縮小はできないと考えている日本側企業とは事情が異なる。

そのため、例えば空港運営において想定されうるリスク(天災や経済破綻、感染症など)にも配慮し、リスクに連動した支払い方法の弾力性や事業撤退条件の明確化など、民間への明確な対応がないと事態の打開を図ることは難しそうだ。

また、民間には株主説明責任もある。冒頭の新関空会社が言う「EBITDA倍率11.5倍から見ると決して高すぎない」は、現在価値への割戻率を5%に置いており(推定)、かつ回転率の算定に関係ない現在資産価値が分母に含まれている。これを是正して割戻率2%での運営権対価EBITDA倍率は20倍まで増加するので、投資対象として妙味のある数値とは言えない水準になってくる。

空港運営において想定されうるリスクへの支援も求められる(写真は関空)

今後東京オリンピックに向けて、日本への外国人の来訪はさらに加速することは確実だ。これまで新関空会社は継続的に新規参入会社・地点を増やし、空港価値を高める努力を行ってきた。現在の新関空会社の実動部隊は基本的に新運営者に引き継がれ、最前線で改革を実行していくことになるのだが、「運営者が替わらなくてもしっかりした空港運営はできる」との気持ちはあろう。

他方、長年別会社であった伊丹空港の運営改革はこれからだし、関空での各種契約の透明性を高めることや、数多くある関連会社の効率化という課題もある。民間資本・ノウハウの導入による空港運営の改革は待ったなしの局面にさしかかっている。

3カ月延長した1次入札期限の5月22日が迫ってきた。オリックスの意思表明で入札不調のおそれは薄らいだように見えるが、1社でリスクを取りきれないと判断した場合の企業連合組成が間に合うのか、最終的に契約締結まで進むことができるのか、予断を許さない状況が続く。

※写真はイメージ

筆者プロフィール: 武藤康史

航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上におよぶ航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。
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