映画『ゼロ・グラビティ』が第86回アカデミー賞の作品賞を逃したことで失意のどん底まで落ち、そこから見事に這い上がったdビデオ宣伝担当のY氏。その絶頂と転落、再生の物語を先月伝えたばかりだが、そんな彼からある日、編集部に突然の連絡が入った。指定する場所に来いというのである。

涙活女子会に参加したY氏

か細く、思いつめたような声だったため、急を要すると判断。スケジュールを調整し、現場へ急行した。場所は、住みたい街ランキングでも上位常連の東京・恵比寿。駅から徒歩数分、目的地付近でY氏らしき人影を発見した。うなだれながら、道をフラフラ。と思いきや、ガチャガチャの前で立ち止まり100円を投入。紛れもなくY氏本人だったが、その姿は以前の自信と希望に満ちあふれていた出で立ちとはまるで違った。

たまらず駆け寄ると、Y氏は「なんだ、マイナビニュースさんか」と心ここにあらずといった様子。何事かとたずねると、この日、dビデオ主催で"涙活女子会"なるイベントが開催されるという。"涙活"は、能動的に涙を流すことで、心のデトックスを図る活動。"なみだ先生"こと感涙療法士の吉田英史氏、女医でタレントの西川史子先生が登壇し、30人の一般女性と共に、dビデオの作品を通して"涙活"を行う。

その宣伝を担当するY氏。メディアを呼ぶのは当然のことだが、何をそこまで思いつめているのか。「実は、女性にフラれましてね。今日は僕も参加して、思いっきり泣いてみようと思うんです」というのがその理由。その模様をレポートすれば結果的にdビデオの宣伝にもなり、一石二鳥というのが狙いらしい。ちなみに、これは「女子会」である。

プライベートのことを仕事に持ち込みながらも、それを逆手にとってプラスに転換させる。さすが、前のめりに倒れながら思わぬ動きをする男・Y氏。その姿勢に胸を打たれ、彼が泣くまでの一部始終を追うことにした。結果、泣けなかった場合でも正直にそのことを伝えることも、Y氏は承諾。スタッフの心配をよそに、「今日の僕は落ち込んでいるんです。泣けないはずがありません」と自信満々のY氏。しっかりと気持ちを作って臨んでいることが、ある意味で冷静でいられるゆえんのようだ。

そして、いよいよはじまった涙活女子会。なみだ先生が「泣ける話」、西川先生が怪我をした際の友人エピソードをそれぞれ披露し、参加者の涙を誘った。30人の女性たちに混じって真剣に聞き入っていたY氏だが、泣くそぶりはない。トークショー後には、dビデオ作品を鑑賞しながらの"涙活"が控えているため、「まだその時ではない」と捉えているようだ。Y氏は徹底して自分を追い込むタイプなのだろう。

なみだ先生と西川先生が降壇した後、参加者はタブレット端末でdビデオ配信中のミュージックビデオを鑑賞。会場が静まり返る中、間もなくすすり泣く声が聞こえはじめる。スタッフはY氏の「有言実行の男泣き」の画を押さえるべく、隣にピッタリと張り付いた。眉間にシワを寄せるY氏。口をへの字にしながら目を閉じ、鼻がピクピクと動きはじめる。いよいよ「その時」が近づいていることを予感させた。

1分が経ち、5分…そして10分。司会者からイベントの終了が伝えられ、イヤホンを外しはじめる女性参加者たち。しかし、Y氏は依然、映像の世界に没頭中。涙らしきものは確認できていない。やはり、プレッシャーは想像以上だったのか。諦めかけたその時、Y氏は目頭を抑え、目元を手で覆った。泣いたのか? 涙を拭うしぐさを見せるY氏。イベント終了の合図でイヤホンをとり、他の参加者と同じように拍手を送っていた。

泣くことができたのかを尋ねたところ、「すっきりしました…」と笑顔を見せたY氏。事実と異なることを記事にしてしまうと、"過度な演出"ととられかねない。思い切って、嘘をついていないかを確認すると、「僕がそんな男に見えますか」と真剣なまなざしで逆に問いかけられた。

その迫力に圧倒されてしまったスタッフ。Y氏は充実感を漂わせ、テーブルに飾られていた花びらを手にとり、フッと笑みをこぼす。その姿は、壁を乗り越え、達成感を噛み締める男そのもの。Y氏は多くを語らないまま、会場を後にした。