視聴率こそ、同じ木曜21時から放送中の『緊急取調室』に及ばないが、作り手の熱い想いとこだわりが詰まった良質なドラマがある。それは、「10秒迷えば1つの命が消える」災害医療の現場を真っ向から描いた『Dr.DMAT』(TBS系 毎週木曜21:00~21:54)。ドラマ評論家として、同作があまり知られていないことは大変残念であり、今回はその魅力を紹介していく。

ドラマ『Dr.DMAT』撮影中の様子

"災害大国"日本を真っ向から描く

2週に渡る記録的な大雪が示すように、東日本大震災以降も、全国で大雨や強風などの天災が相次いでいる。また、交通・崩落・転落といった事故のニュースが連日流れるなど、日常に潜む災害の多さは、先進国の中でもトップクラスだ。

これまで災害現場の医療を描いた連ドラは、『救命病棟24時(第3シリーズ)』『コード・ブルー』があったが、バリエーションと再現度では、それらをはるかに上回る。 第1話の高速道路トンネル内での多重事故、第2話の雑居ビル火災、第4話のビル外壁崩落、第5話のイベントホール将棋倒しなど、各話の災害現場はどれもリアルだった。

これは東京消防庁の全面協力を得ているからこそであり、加藤章一プロデューサーは、「撮影可能なロケ場所探しから、事故車や火事の炎、煙などを再現するのは手間と時間がかかる。災害をここまで大規模で毎回描いた作品はなかったと思う」と胸を張る。確かに、既存の医療ドラマは病院内での撮影が大半を占めるが、『Dr.DMAT』はロケの割合が多く、美術やエキストラなど全てに渡って手間をかけた作品なのだ。

同じ時間帯で放送されていた『DOCTOR2』や『ドクターX』は、医者のキャラクターを前面に押し出すなど、エンタメ色を押し出したライトな医療ドラマだったが、『Dr.DMAT』は医療の現実を骨太に描いている。多大なリサーチと制作費用は疑う余地がなく、あえて災害医療モノにチャレンジしたことだけでも称賛に値するだろう。

"助からない"から逃げない勇気

さらにリアルさを追求しているのは、ケガ人の描写。医療ドラマは、「ラストで患者が助かって感動」というのがお約束だが、同ドラマの舞台は災害現場だけに、それほど甘くはない。「リアルを追求するなら、“助からない”シーンをしっかり描こう」というのが、同ドラマのスタンス。キャストもスタッフも精神的な苦痛やストレスから逃げることなく、“助からない”現実と向き合って撮影している。

そんなスタンスの中、熱演しているのが主演の大倉忠義。『DOCTOR2』の相良浩介や、『ドクターX』大門未知子のようなスーパードクターではなく、難手術ができないどころか内科医である点も含め、昨今の医療ドラマでは異例の主人公と言える。

朝から朝まで災害現場に集結

通常ドラマ撮影では、メインキャストが長時間全員集まって撮影することは少ないが、当ドラマは例外。要となる災害現場のシーンが毎回あるだけに、「朝から晩まで、場合によっては朝から朝まで全員で撮影をしている」(加藤プロデューサー)という。一日中、災害現場を再現した場所にいるだけでも気が滅入るし、役に入り込むほどつらくなってくる。つまり、超過酷な現場に、全員で長時間撮影と向き合っているのだ。

さらに驚くのは、東京消防庁のハイパーレスキュー隊も現場にいて、撮影の合間にキャストが災害現場の話を聞いていること。「実際に助からないことも多く、悲しく悔しい思いを日々感じながら活動されているそうです。そんな災害医療に従事する方のためにも、ドラマの中とはいえ、『無事に助ける姿を見せたい』とキャストは撮影に挑んでいます」(加藤プロデューサー)。画面から伝わるキャストの必死さやチームワークは、こんな思いから来るのだろう。

「考えさせられる」名ゼリフの宝庫

もう1点、みなさんに注目して欲しいのが、キャストたちのセリフ。医療に関するものだけでなく、命や生きることを問いかけて、考えさせられるものも多い。以下のセリフは、通常の医療ドラマでは聞けないものばかりだ。

「1人助けるってことは、1人見殺しにするってことですよね」「医者が患者の生死を気に病むのはナンセンス」「理想主義は無責任とも言います」「命を選べ。突き詰めれば、それが DMAT だ。必要なのは判断力。技術は期待していない」「医者の仕事はふたつある。命を救うこと。そして、正しく死なせること」「どっちを選んでも間違いだ。だがどっちを選んでも正しい。間違いは自分の判断に自信が持てないということだ」「医者に殉職はないんだよ。災害現場での殉職があるのは、オレたち消防士だけだ」「やっぱり僕は信じることにします。医者だけど、いや、医者だから奇跡を信じたい。僕、ごう慢みたいです」「人が苦痛に耐えられるのは、その先に希望があるからだ」

クライマックスの大災害がスゴイ

次回放送の第7話は、通り魔による“無差別殺傷”の現場。これも今や身近になったリアルな事件だが、クライマックスへ向けて“大地震”や“土砂崩れ”など、これまで以上の大規模災害が起こる。「いつ巻き込まれるか分からない」災害に遭ったとき、どう対処すべきか。誰にもリスクがあるものだけに、備えの意味も含め、見ておいて損はないだろう。

加藤プロデューサーは、「今まで知られていなかったDMATというシステムを知ってもらうことが趣旨の一つだったので、1人でも多くの人に広めたい。途中からでも見やすいように作っているので、まだ見たことのない人もぜひ」と熱っぽく語る。

木曜21時は、TBSとテレビ朝日がしのぎを削るドラマ枠として定着したが、今クールは制作現場の熱気がビシビシ伝わってくる『Dr.DMAT』を最後まで生視聴しようと思う。

木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ評論家、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。