年明け早々に第1話が放送されたNHK大河ドラマ『軍師官兵衛』。視聴率はこの10年間でブービーの18.9%と厳しいものであり、ネット記事や口コミでも「(『平清盛』と同じように)また画面が汚い」、「ナレーションがひどい」などの酷評が目立った。

しかし、よくよく見てみると、期待できそうな要素がギュッと詰まった作品なのだ。第1話をもとに、その見どころを5つのポイントから解説していく。

大河ドラマ『軍師官兵衛』の初回完成披露試写会に登場した若山耀人(左)と柴田恭兵

【ポイント1 緩急を織り交ぜた戦国大河の鉄板】
戦国時代を描いた大河ドラマは、歴史ファン以外も見やすい"鉄板"であり、いわゆる王道。「乱世を生きる人々の絆や野望を描いた人間ドラマ」と「ダイナミックな合戦シーン」のコントラストが鮮明で、それを交互に映すことでテンポも生まれ、飽きにくい作品になりそうだ。

第1話の冒頭も、少女が遊ぶお花畑から、いきなり合戦シーンになり、続いて馬に乗った官兵衛が疾走。ますます大きな戦いに発展すると思いきや、「人は生かしてこそ使い道がある」と説得に入るなど、画面の色彩とスピード感の変化が見事だった。

【ポイント2 ビジネス作の名手と“中間管理職”官兵衛】
脚本を担当するは、あの『半沢直樹』の原作者・池井戸潤のドラマを2本も手がけた前川洋一。ビジネス界を扱う作品の名手であり、骨太な人間関係の描写を得意としている。 第1話では、主人公の黒田家だけでなく、主君である小寺家家臣たち、さらに敵対する赤松家の三家で交渉が飛び交い、予想外の裏切りがあるなど、しびれるような心理戦はビジネスドラマと通ずるものがあった。 官兵衛は、三英傑のような超ヒーローではなく、田舎のいち家老であり、会社であれば係長か主任レベル。今後、社長的な織田信長(江口洋介)、部長的な豊臣秀吉(竹中直人)、課長的な竹中半兵衛(谷原章介)らの中ではい上がる姿や、部下的な黒田家家臣たち(永井大、濱田岳、速水もこみち、高橋一生ら)と結束する姿が、見どころになりそう。また、「敵(商売敵)を殺すのではなく、命(技術や人脈)をうまく使う」という考え方は、サラリーマンの参考になるかも。

【ポイント3 「命」のワンテーマに特化した演出】
第1話で今作のテーマが「命」「生き抜く」であることがハッキリした。冒頭に花を摘んでいる少女が殺されるシーンを入れたことや、官兵衛の母を病死させ、父が敵陣に乗り込み命の危機にさらされるなどの演出は、その表れ。次々に身近な人が死んでいく中、官兵衛が「生き抜くことを第一に考える」背景が丁寧に描かれていた。官兵衛が繰り出す戦略や知恵も、「『命』や『生き抜く』ために使われる」というシンプルで見やすい流れになりそうだ。 「家族や家臣を守りたい」と奔走していた官兵衛が、数々の出会いを経て「命を粗末にする乱世を終わらせたい」という考え方に変わっていく姿も見どころになる。

【ポイント4 "等身大だけど濃く生きる"官兵衛のキャラ】
これまで黒田官兵衛は、「クセのある狡猾な男」として描かれていたが、今回は主役だけあってアカ抜けた人物像になりそう。戦国時代のドラマは、突出したヒーローの目線から描くものが多い中、官兵衛は「地方の家老で、側室を持たず一人の妻と添い遂げ、和歌や茶の湯などの文化を愛する」等身大の男。そんな等身大のキャラなのに、信念のために人一倍濃く生きているため、視聴者は「自分に重ねる」「応援したくなる」のではないか。 “等身大だけど濃く生きる”のは、『半沢直樹』と同じ。官兵衛と半沢は、「目的のために頭脳と行動力を駆使する」ところがどこか似ている。第1話で官兵衛が秀吉に説いた「人は生かしてこそ、使い道がある」は、言わば「倍返し」のような決めゼリフかも。

【ポイント5 「日本俳優のド真ん中」岡田准一を見逃すな】
主人公・官兵衛を演じる岡田は、現在映画『永遠の0』が絶好調。公開約2週間で興行収入32億円を超え、内容も絶賛の嵐で評価を高めている。ちなみに、『永遠の0』で演じた宮部久蔵も、『軍師官兵衛』の黒田官兵衛も、「命にこだわる」という点が同じであり、2人のオーバーラップ効果が期待できるかもしれない。 第1話では、豪快な乗馬のシーンがあったが、岡田は大河ドラマの話が来る前から乗馬を習って準備していたという。趣味の武術で鍛えた体さばきも含め、アクションのポテンシャルはここ数年の主演俳優を上回るだろう。さらに、「33歳のときに幽閉されて足が不自由になる」という体の変化をどう演じるかも見物。 岡田准一のドラマは、視聴率が振るわないものが多いが、作品の評価はジャニーズ俳優の枠を超えて高水準であり、『軍師官兵衛』への期待値も高い。


第1話は、時代背景やテーマの説明的な要素が強く、官兵衛のシーンもほとんど子役が演じていただけに、本当の醍醐味はこの先にある。第1話を見逃した人は、再放送かオンデマンドでチェックしてみてはどうだろうか。

木村隆志
コラムニスト、ドラマ評論家、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマは毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。