既報の通り、2013年6月7日に日本国内でも「Surface Pro」が発売される。2013年2月9日に米国で発売された同デバイスは当初、品不足が続くほど人気を博した。その後も中国やロシアなど世界各国で発売することを公式ブログの「Surface Blog」で発表しているが、そこに日本は含まれていなかった。今回の発表および発売が、ある種のサプライズだったことは改めて述べるまでもない。

日本マイクロソフトは発表前からSurface Proのティザー広告を開始(画像はTwitterの公式アカウントで公開されたもの)

筆者も関係者に状況を聞いて回ったが誰しも口が堅く、Surface Proに動向をうかがい知ることはできなかった。その変化が生じたのはSurface RTが発売された3月15日以降。とある関係者からは「(Surface Proに関して)近々お話しできる」、別の関係者からは「(5月末の発表会は)期待してよい」と聞くことができた。

米国での発売から約4カ月遅れの、このタイミングで日本市場に投入する理由として、日本マイクロソフト 執行役 コンシューマー&パートナーグループ リテールビジネス統括本部長 兼コミュニケーションズパートナー統括本部長である横井伸好氏は、「米国での反響が大きかったため、準備時間が必要だった」「ワールドワイドレベルで供給する生産体制が整ったのと、256GBモデルを最初に日本で投入することにこだわった」ためであると語った。

日本マイクロソフトのイベント「Surface Media Briefing」で展示されていたSurface Pro。付属ペンは本体側面に取り付けて持ち運べる

日本マイクロソフト 執行役 コンシューマー&パートナーグループ リテールビジネス統括本部長 兼コミュニケーションズパートナー統括本部長 横井伸好氏

Surface ProはモダンUIを活用するタッチ機能を十分に備えたデバイスであり、プライベートやビジネスシーンなどで多用するユーザーにとって"本命"となり得る。

日本マイクロソフト 代表執行役 社長 樋口泰行氏

同社の代表執行役 社長である樋口泰行氏は、5月29日のプレス向けイベントで「高い評価を得ている」とSurface RTを紹介した。Surface RTを実際に購入した筆者個人の感想として、デバイス単体としての性能や手にした時のフィット感、インボックスドライバー、Windows RTに関するサポート体制などは満足している。

だが、Surface RTは従来のx86/x64アプリケーションが動作しないため、Windowsストアアプリを中心に使用環境を構築しなければならず、現時点でのWindowsストアのラインナップでは厳しい状態が続いている、というのは正直な感想だ。そのため、Surface ProはSurfaceシリーズを欲するユーザーにとって"本命"と言えるデバイスなのである。

もっとも、すでに各ハードウェアベンダーからWindows 8を搭載したタブレット型コンピューターは多数発売されている。既存のデバイスを隅に押しやるほど、Surface Proが魅力的なデバイスか、と問われると疑問が残るのは確かだ。

話題が少々それるが、スペックレベルで各タブレット型コンピューターを比較してみる。ただし、2013年夏モデルPCの発表か近づいているため、今回は2013年3月に発売されたASUSTeK Computerの「TransBook TX300CA」の下位モデルとなるC4006Hと、2013年5月末発売の日本エイサー「Iconia W700-2」を比較対象にした。結果は下図の通りである。

ここで比較した各モデルのスペック概要(クリックで拡大)

価格帯は90,000円~120,000円と実装パーツによって差は生じているが、基本的な性能は一長一短。Iconia W700-2のバッテリー駆動時間(約9時間)のみ突出しているのが興味深い。同デバイスは4,850mAhの内蔵リチウムポリマーバッテリーを搭載しているため、この時間を実現しているのだろう。TransBook TX300CAもリチウムポリマーバッテリーを搭載しているが、容量は記載されておらず、Surface Proに至ってはバッテリー自体に関する記載がないので同じく容量は不明だ。なお、Surface Proのバッテリー駆動時間は約4時間とされるが、これは公称値ではなく、日本マイクロソフトで同デバイスを実際に使った際の体験値である。

いずれにせよ、バッテリー駆動時間はデバイスの使用スタイルによって重要性は異なってくるが、Surface Proをモバイルデバイスとして運用する際は、スリープではなく電源のオン/オフを利用した方がよさそうだ。筆者は今回Surface Proの128GBモデルを個人的に注文してみたので、機会を見て体験レポートをご報告する。

「デバイス&サービスカンパニー」を目指すMicrosoft

その一方で、Surface Proを日本市場へ投入する価値について少し考えてみたい。従来は多くの作業をデスクトップ/ノート型コンピューターで処理してきた大多数のユーザーが、タブレット型コンピューターに移行しつつあるのは、各種報道や市場調査会社のレポートでも知り得る通りである。

5月29日に行われた日本マイクロソフトの「Surface Media Briefing」でも、IDCの調査レポートをプレゼンテーションで引用し、「従来のデスクトップ/ノート型コンピューターの市場は今後も一定のニーズがあるものの、タブレット型コンピューターおよびスマートフォン市場は成長する」と、日本マイクロソフト Windows 本部 業務執行役員 本部長の藤本恭史は紹介していた。また、MicrosoftのCEO(最高経営責任者)であるSteve Ballmer(スティーブ・バルマー)氏も、来日の際に「Microsoftは『デバイス&サービスカンパニー』を目指す」と述べている。

IDCの調査レポートを紹介する日本マイクロソフトの藤本氏。白色がタブレット型コンピューター、水色がスマートフォンが占めると予測している

「デバイス&サービスカンパニー」について語るMicrosoftのSteve Ballmer氏

Ballmer氏の発言および同社の方向転換について、タブレット/スマートフォン市場の急成長と、従来のデスクトップ/ノート型コンピューターの停滞した市場が大きく影響しているのは明らかだ。今後のMicrosoftがWindows OSやOfficeといった既存のソフトウェアではなく、Surfaceシリーズやコンシューマー向けゲーム機であるXbox 360と、エンターテインメントプラットフォームを目指すXbox Oneというハードウェアを主軸に置くことは間違いない。

もっとも同社は、未来のパーソナルコンピューティングをどのようにとらえ、Surfaceシリーズをどのような立ち位置に置いているかは明言していない。だが、同シリーズの本命となるSurface Proが、最近よくMicrosoft関係者が口にする「Windowsの道」を開く重要なハードウェアとなるのは明らかだ。Surface Pro発売に対する市場動向や購入するユーザー数は、今後の同社を左右する試金石となるだろう。

阿久津良和(Cactus)