Microsoftは米国時間8月1日に開発中だったWindows 8の完成をブログを通じて発表した。GA(General Availability version:一般提供版)は10月26日と当初の予定と変わらないが、開発者向けサービスであるMSDN/TechNet購読者には8月15日から、SA契約企業には8月16日から提供を開始する。サーバーOSであるWindows Server 2012や開発ツールのVisual Studio 2012もRTM(Release To Manufacturing version:製造工程版)に達し、公式オンラインショップであるWindows Storeも有料アプリケーションの登録受け付けを開始した。このように登場まで秒読み段階まで迫ったWindows 8は、本当にデスクトップメタファーに慣れ親しんできたユーザーに受け入れられるのだろうか。今週もMicrosoftの各公式ブログで発表された記事を元に、Windows 8に関する最新動向をお送りする。

Windows 8レポート集

遂に完成したWindows 8

既に本誌でも報じているように、Windows 8のRTM版(Release To Manufacturing version:製造工程版)が完成した。ハードウェアベンダーなどにはOEM版が提供され、8月15日には開発者向けサービスであるMSDN/TechNet購読会員向けに提供開始。翌日の16日にはSA(Software Assurance:ソフトウェアアシュアランス)契約企業や、パートナーネットワーク契約企業、20日にはMAPS(Microsoft Action Pack Provider:マイクロソフトアクションパックソリューションプロバイダー契約企業に提供される。

そして9月1日にはマイクロソフトボリュームライセンス契約企業へ提供と順番に提供されるが、GA版(General Availability version:一般提供版)は、2012年10月26日と当初の予定どおり(図01)。

図01 Windows 8の完成を伝える、Windows OS公式ブログ「Blogging Windows」

Windows 8の存在が公式に明らかとなったのは、2011年1月に開催されたCES(Consumer Electronics Show:コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)である。Microsoft CEOであるSteven Ballmer(スティーブン・バルマー)氏が基調講演で開発中であることを発表したのが最初だろう。この時点では開発コード名は明らかにしなかったものの、ここから約一年半でGA版にたどり着いたのは、Windows 7とほぼ同等のスケジュールである(Windows 7は2008年5月に存在を公式に認め、2009年7月22日に開発完了)。

WindowsおよびWindows Live担当役員であるSteven Sinofsky(スティーブン・シノフスキー)氏はブログ記事で、Windows 8 Developer Previewから始まった各プレビュー版がインストールされたコンピューターの台数が1,600万台を超え、そのうち約700万台はRelease Preview版が稼働中だという。もっとも筆者のように一人で32/64ビット版を仮想マシン上で実行し、ノート型コンピューター上ではVHD(Virtual Hard Disk:仮想ハードディスク)にインストールしているケースもあるように、全てがユニークな数値であるとは言い難い。

また、Windows 7はリリース一年後の時点で販売本数が2億4,000万本を超えたことが報道されたのは記憶に新しい。プレビュー版と製品版を比較するのは公平ではないが、Windows Vistaの不振というジャンプ台があったことを踏まえても、1,600万台という数字があまり大きいものではないことは理解できるはずだ。この結果はMetroスタイルに対するユーザーの抵抗感の表れではないだろうか。

そもそも、ディスプレイ上で机上を表現する"デスクトップ"というメタファーが生まれたのは、1970年頃のAltoあたりから。そこから約40年の月日を数えた今、デスクトップメタファーを過去のものとするMetroスタイルが、これまでデスクトップ上で作業を行ってきたユーザーに受け入れる可能性は低い。確かに"デスクトップありき"のスタイルに慣れ親しんできた(筆者を含む)オールドスクールユーザーにとって、新しいスタート画面や全画面表示が前提のMetroアプリケーションに馴染むのは時間がかかるだろう。

筆者も従来のデスクトップからMetroスタイルへの移行は性急すぎる印象を覚えるが、iPadやiPhoneに搭載されるiOSが生み出したマーケットの存在や、タブレット型コンピューターの台頭は、デスクトップ/ノート型コンピューターを主なターゲットとして捉えてきた同社に厳しい状況だ。その巻き返しとして、タブレット型コンピューター上での動作を主軸にしたWindows 8や、自社製コンピューター「Surface」を市場に投入するのだろう(SurfaceのリリースはWindows 8と同じく10月26日予定)。

その一方で、Windows 8の普及を左右するのがMetroアプリケーションの存在である。コンピューターやOSに限らず、ユーザーを新しいステージに移行させるには、キラータイトルが必要だ。MS-DOSにおける一太郎やMacintoshにおけるQuarkXPressなどが例に挙げられるが、Windows 8でも"Metroアプリケーションでなければ"得られない価値や体験を提供するソフトウェアが求められる。

Windows 8と両輪の関係にあるWindows StoreもRTM版の完成に合わせて、有料アプリケーションの登録受け付けを開始した。ただし、MetroアプリケーションをWindows Storeに登録するには、RTM版のWindows 8が必要となるため、あらかじめアカウントを作成し、現行のWindows 8 Release Preview版で開発を進めなければならない。ここで各ソフトウェア企業や個人の開発者が参加し、App Storeのように広大なマーケットに成長するかどうかで、Windows 8成功の可否も決まるだろう(図02)。

図02 Metroアプリケーションの開発登録を行う「Dev Center」

"停滞が進歩を生み出さない"ことを学んだ同社は挑戦者のスタンスに立ち返り、Metroスタイルという現状を打開する新しいビジョンを打ち出してきた。この方針転換がどのような結果を生み出すのか、10月26日にリリースされるWindows 8のGA版とコンピューターの年末商戦を注視しながら判断したい。

阿久津良和(Cactus)