AMDは、台北で開催されたComputex期間中にプレス向けの説明会を開催した。ここでの発表事項は、AシリーズAPU(Trinity)のデスクトップ向けプロセッサと、Eシリーズの2製品。また、Trinityのモバイル向けは5月に発表済みだが、今回は、PCベンダーから搭載製品が発表され、それらのお披露目を行った。

説明は、米国本社グローバルビジネス事業部副社長兼ジェネラルマネージャーのLisa Su氏が行った。それによれば、Trinityは、電池による駆動時間に着目して開発された製品であり、この点で他社よりも優位であるとした。6月6日の時点で、Trinityを採用したマシンのほとんどが海外で標準的な15インチクラスの液晶を搭載したマシンで、キーボード部にテンキーが入るような「大型」のものだった。

AMD グローバルビジネス事業部副社長兼ジェネラルマネージャーのLisa Su氏。手に持っているのはTrinity

しかし、同氏によれば、17WのTrinityがあり「UltraThin」マシンを開発できるとした。おそらく、これは、IntelのUltraBookに対抗することを意味するのだと思われる。現状のTrinityマシンは、「薄く」はないが、今後は、こうした製品が登場することを示唆するのだと思われる。

17WのTrinityは、Ultrathinで唯一のクワッドコアであり、外付けレベルのグラフィックスを実現するプロセッサであるとした

もともと、海外では、クラムシェル型のモバイルPCでも液晶サイズは15インチ以上が主流で、日本のように10~13インチクラスの製品は少なく、特殊な製品という位置づけだ。また、日本のように「Note PC」ということはなく、「ラップトップ」ということが多い。

お披露目されたTrinityマシン。液晶のワイド化もあり、全体的に大型の「ラップトップ」が主流。女の子がかわいいとか、足が綺麗とかそういうものを見る写真ではありません

大きな液晶を使うときょう体サイズが大きくなり、バッテリも大型のものが利用できる。このため、あまり省電力に注力しなくとも、ある程度の動作時間が確保できる。従来は、こうして、こうしてコストダウンしたラップトップが主流だった。ネットブックは、価格低下にも寄与したが、多くのメーカーに小型、軽量のラップトップを作ることを可能にし、こうした製品に市場があることを示した。そのため、海外市場も必ずしも巨大なラップトップだけではなくなってきた。IntelのUltrabookは、リファレンス設計に従うことで、薄型軽量のマシンを作ることを可能にした。ネットブック自体がタブレットに押され、メールやWebといったカジュアル利用分野でのPC利用は、AndroidやiOSのタブレットに移行しつつある。しかし、長文作成など、PCでないとカバーできない分野の作業は相変わらず残っており、こうした分野をカバーするために、ネットブックよりも高性能で、15インチクラスのハイエンドクラスよりは安価で、可搬性に優れるクラスが構築されつつある。

AMDも17WのTrinityで、ここに参入しようというわけだ。ただし、今回は、プロセッサの話のみで、具体的な「UltraThin」マシンは登場していない。ODMメーカーであるCompalのプロトタイプをデモしてみせただけだ。このプロトタイプは、キーボード部が分離でき、タブレットとして利用できるようになっている。

着脱可能なキーボード部を持つTrinityタブレットのプロトタイプをデモ

年内にリリースが予定されているWindows 8では、タブレットがターゲットハードウェアのひとつに加えられており、今回のComputexでは、新製品が多数登場している。Windows 8は、デスクトップでもラップトップでも利用できるが、特徴のひとつであるタッチに対応するほうがアピールがしやすい。そこで、多くのメーカーがタブレット型やコンバーチブル型(クラムシェル型とタブレット型の両対応型。たとえば、ヒンジが回転してノートPCからタブレットに変形できるなど)に着目している。特にタブレット型にしようとすれば、液晶の背面にすべての部品を集めなければならない。そこには当然バッテリも含まれるため、メインボードに使える領域はそれほど大きくない。このため、TDPの大きなプロセッサは、放熱などで問題が起きるため、使いづらいものになる。

つまり、ハードウェア、ソフトウェアともに、「可搬性」、「タッチ」という方向性にあり、数年前から進んできたPCのラップトップ型への移行が、「一体型」指向から「可搬性」指向へと次の段階への移行を完了させるのが、今年なのである。日本の状況とは大きく違うが、世界的にみると、モバイルインターネットが可能になったのも最近だし、可搬性に優れたマシンが大量に作られるようになったのも最近のことなのだ。そこにWindows 8が加わることで、ソフトウェアが1段階上がり、さらにタッチという新しい要素を持ち込むことになるわけだ。

AMDもこれを理解しており、そのための製品が17WのTrinityなのであろう。ただ、今回の発表で、わざわざ「バッテリ駆動時間に着目した最初の製品」と説明するほど、AMDは、この分野への対応が遅れていた。互換プロセッサとして、低コスト、高性能であることを維持するためには、ある程度の犠牲があったのだ。Trinityは、ようやくプロセッサコア側がBulldozerベース(Piledriver)に変更された。ファブレスであるため、Intelのように他社よりも早くプロセスルールを進めることも難しく、プロセスルールを進めることによる低消費電力化(リーク電流の抑制など)のメリットを受けにくく、デザイン変更でこれらをカバーしていく必要がある。TrinityのPiledriverは、前のプロセッサコアであるLlanoと同じ32ナノメートルプロセスを採用しているものの、平均消費電力が下がっている。ここが「バッテリ駆動時間に着目した」というゆえんである。

今回は、具体的なUltraThinマシンが登場してはいないが、AMDが本格的に参入することで、薄型軽量のノートPC市場も価格などが大きく変動する可能性もある。この点では、今年のAMDの動きは注目であろう。