既にコンピューターの核となるCPUはもちろん、Windows OSも64ビット化し、数年経ちました。今後、64ビットOSが主流になるのは誰の目にも明らかでしょう。そこで、現在Windows XPを使用し、そろそろコンピューターのリプレースを考えている方に、64ビット版Windows OSの長所や短所を含めた64ビットの世界を紹介いたします。
コンピューターとビットの関係
コンピューターの入門書に、「コンピューターは0と1でできている」と書かれている一文をご覧になったことはありますか。これはコンピューターが扱うデータの最小単位が二進数であり、オンとオフを表現する「0」と「1」で様々なものを表現してきたからです。何げなくコンピューターを使っているとピンと来ないかも知れませんが、今目の前にしている文字を一つ取り上げても、オンとオフで構成されています。これらのデータ単位を英語で表記にすると「binary digit」となり、この略称からbit=ビットと呼ばれるようになりました。
ビットを語る上で重要なのがハードウェアの存在です。コンピューターの構成で核をなすCPU(Central Processing Unit)は中央演算処理装置と和訳されるように、数多くの計算を担うパーツであり、現在のコンピューターは多数のプロセッサを集積回路で実装したマイクロプロセッサが主流となりました。このマイクロプロセッサの歴史をひも解くと源流に数えられるのがIntelの4004。1971年に登場し、日本人が開発に携わったことでも有名な同マイクロプロセッサは4ビットでした。
ここから歴史を重ね、1990年代から市場に64ビットマイクロプロセッサが登場するようになりますが、コンシューマー市場で普及するようになるのは、まだ先の話。さて、マイクロプロセッサとビットの関係について少し説明しましょう。一般的にマイクロプロセッサが内部演算回路やデータパスで扱うビット数を「ビット幅」と称し、「○○は○ビット」と言うのは、このビット幅を指しています。つまり、前述したIntel 4004は4ビット幅を持つマイクロプロセッサなのです。
もう少し平たく述べれば、4ビットマイクロプロセッサは一度に扱えるデータの幅が4ビットですが、64ビットマイクロプロセッサは十六倍のデータ幅があるため、処理できる範囲も拡大し、単純処理も高速になります。我々の日常生活に当てはめれば、細い道路と太い道路を想像するとわかりやすいでしょう。道幅が広ければ広いほど一定時間の間に通過できる車の数は増え、車も到着地へ素早く移動できます。細かいことを述べると語弊もありますが、単純にビット数の多さは高速化につながると思ってください。
ここで対になるOSの進化に目を向けてみましょう。基本的にOSが現行のマイクロプロセッサに追従するのは難しいことではありません。乱暴な言い方をすれば、そのマイクロプロセッサに最適化するコンパイラ(ソースコードをコンピューターが実行可能なマシン語に変換するためのソフトウェア)を用意できれば済む話です。
日本で好評を博したWindows 3.1は16ビットOSでしたが、当時市場に投入された32ビットマイクロプロセッサに追従するため、32ビットアプリケーションを動作させるWin32sというモジュールを追加し、現在のWin32(32ビット版Windows OSで用いられるAPI群)につながっています。
その後、世界的なヒット商品となったWindows 95からWindows Me。ビジネスユーザー向けとなるリリースされていたWindows NTもすべて32ビット。実は64ビット版Windows NTも存在したようですが、リリースには至らず、筆者も目にしたことはありません。
2003年に登場した64ビット版Windows OS
本格的な64ビット版Windows OSが登場したのは、Intelが2001年にリリースしたItanium(アイテニアム)という64ビットマイクロプロセッサに対応させた「Windows XP 64-bit Edition」です。同マイクロプロセッサは独自構造も優れていましたが、当時リリースされていた他社製マイクロプロセッサと比べると価格性能比が低かったため、普及に至りませんでした。そのため、2003年にリリースされた同OSも市場を賑わすこともなく、当時Windows専門誌に属していた筆者も目にする機会はありません。
コンシューマーレベルで64ビット版OSが登場したのは、AMDの独自構造「AMD64」を搭載した64ビットマイクロプロセッサに合わせて登場した「Windows XP Professional x64 Edition」です。2005年に登場した同OSは、比較的安価で入手可能だった同マイクロプロセッサと相まって、一部の好事家が導入を試みました。しかし、ハードウェアベンダーは足並みをそろえられず、64ビット版デバイスドライバーをリリースせず、多くのソフトウェアも導入できなかったため、実用レベルで運用するのは骨が折れる作業だったことを覚えています(図01)。
32ビット版OSであるWindows XPが栄華を極めていた数年間、既に大容量画像や動画の編集に必要とする物理メモリを確保できず、ハードウェアは進化しつつも、OS側の制限で作業効率は向上しません。そこで登場したのが2007年のWindows Vistaです(図02)。
シリーズ初の64ビット版を同時提供し、大容量の物理メモリを必要とするユーザーは上位エディションを選択することで、広大なメモリ空間が使用可能になりました。(Home Premiumは16GB。Business/Ultimateは128GBまでサポート)。
先進的かつ有用なOSでしたが、ハードウェアスペックにおもねる設計が仇(あだ)となり、商業的に奮わなかったのはご存じのとおり。そして現在のWindows 7へと至りました。Windows Vistaのカーネルを元に改良を加えたWindows 7も同じように、Home Premium以上のエディションは64ビット版を同こんし、物理メモリのサポートはProfessional以上のエディションに限り、192GBまでサポート。
詳しくは次回以降に述べますが、サポートする物理メモリ容量の拡大は64ビット版OSの大きなアドバンテージであると同時に、ユーザーの利便性を大きく向上させます。Windows Vista登場から数えて約五年経った現在、デバイスドライバーに関する不安もなくなり、ソフトウェアも64ビット版が増えてきました。
多くの読者には直接関係ありませんが、Windows Server 2008 R2からは32ビット版の提供が停止され、64ビット版のみとなることを踏まえても、時代は64ビットOSに移行していきます。現在Windows XPを使用し、コンピューターのリプレースを予定している方は、是非64ビット環境への移行をご一考ください。
阿久津良和(Cactus)