背景や嗜好は違っても、求めるものは同じ

今回、大幅に機能強化されたiTunes Storeについて米国アップル社、iTunesアジア太平洋地域 & カナダ担当シニア・ディレクターのピーター・ロウ氏に詳細を聞いた。

ロウ氏によればiTunes Storeは現在、世界51か国で展開していて、2,000万曲を販売している。2011年10月4日までに累計で160億曲の販売実績があり、世界でもっとも多くの曲を販売するストアとなっている。

日本では米国から2年遅れて2005年8月にサービスがスタートし、今年で7年目を迎えるが、アップルのハードウェア製品が世界同時発売をする中、iTunes PlusなどiTunes関連のサービスの日本国内展開にはタイムラグが生じる。昨年、iTunes in the Cloudが発表されたときも、日本で大きな話題になったものの、日本で実現するのは数年先になるだろうという声が識者の間でも多かった。

正直、米国でのサービス開始から半年弱で日本でもiTunes in the Cloudがスタートしたことに、ほとんどの人が驚いたのではないだろうか。これは日本の音楽レーベルからのiTunes Storeへの評価が変わってきたということなのだろうか。

ロウ氏はレーベル側からの評価についての言明は避けたが、以下のように答えた。

「日本の音楽業界は、色々な点で他の国とは違っていると思います。人気楽曲の傾向も世界の他の国とは違っていますし、また音楽業界がたどってきた歴史も、他の国々とは大きく異なっています。ただ、消費者が求めている機能やサービスといったものについては、世界中、どこの国でもそれほど大きな差がないとも思っています」

「音楽を買う体験が素晴らしくて困る人はいませんし、人々は一度、音楽を買ったら、その音楽をいつでも、思い立った時に思い立ったデバイスで聞けることを望んでいます。例えハードディスクがクラッシュしても、それをまた取り戻せることを望んでいるでしょうし、音楽をより高い音質で聞きたいと望んでいるはずです。日本はこの傾向が、ことさら強いかもしれませんね」

「いずれにしても、ユーザーが望む機能や方向性に関しては国をまたいでも、それほど大差がないのです。それは音楽レーベルの方々も承知しており、これらの機能が海外で成功を収めていることで、こうした機能をできるだけ早く提供できるようにと音楽レーベルの側も非常に協力的になってくれているのです。我々は西洋の音楽レーベルとの関係も非常に良好ですが、日本のレーベルとも非常に良好な関係をつくることができています。本日、これだけたくさんの機能を一斉に始めることができたのは、その何よりの証拠でしょう」

iTunes Matchも年内提供が目標

iTunes Storeを展開している他の50カ国と比べて、サービス内容で少し遅れていた日本のiTunes Storeが、今日1日で一気に追いついた――少なくとも米国を除く49カ国には――ことには、正直ビックリした人も多いだろう。

とは言え、まだ米国のiTunes Storeでしか提供されていないサービスも多い。2011年に始まったiTunes Matchもその1つだし、初心者から通向けまで、さまざまなジャンルの楽曲を厳選して提供するiTunes Essentialなどもそうだ。

iTunes Matchは、年間利用料を払えばiTunes Store以外から入手した曲もiTunes in the Cloudを通して利用できるようにする、というサービスだ。曲認識機能を使って、iTunes Storeで提供済みの曲であれば、iTunes Storeで販売しているものがダウンロード可能になる。iTunes Storeで扱っていない曲については、iCloudのストレージにアップロードをし、保管してくれる。

日本ではまだサービスが開始されていないiTunes Match

これらのサービスの日本展開はどうなのだろうか。

「iTunes Matchについては日本でも年内に始められる方向で調整中です。iTunes Essentialなどのエディトリアル系のプログラムについては、国ごとの展開に任せてあります。そもそもiTunes Storeはグローバルなサービスではありますが、国ごとに提供するコンテンツの量や種類も異なっているので、同じ形での提供はできないのです。ただ、世界共通の機能やサービスという点では、今や日本は世界の他の国とまったく同じレベルになったはずです」

機能的には世界と横並びになったという日本のiTunes Storeだが、実績の方はどうなのだろう。

「国ごとの細かな実績については明かすことができませんが、日本のiTunes Storeは、他の国のiTunes Storeと比べても、かなり好調なストアの1つです。日本の音楽業界の売上が落ち、これまで注目を集めていた従来型の携帯電話向けの音楽配信も横ばいか下り坂にあることを考えると、日本のiTunes Storeが年々業績を拡大し、成長し続けていることは凄いことだと言えるでしょう。我々も、そして日本の音楽レーベルの方々も、この成長が、今回提供したいくつかの機能、特に3G経由での楽曲販売によって、さらに加速されることを期待しています。なぜなら、日本は世界的に見ても、もっともモバイルでの音楽購入が進んでいる国で、既に人々の間で携帯電話から音楽を買うという習慣が根付いているからです」