フォトリアルのCGへ。シミュレーションベースのCGへ。~パーフェクトストーム
この後、ILMは、CGを使ったキャラクター表現だけでなく、シミュレーションを取り入れた、より高度なCG表現に乗り出す。
この技術を取り入れた作品が1996年の「ツイスター」だ。
この映画では、竜巻の挙動、そして竜巻によって破壊される建物の表現をシミュレーションベースのCG表現で実現している。
「最終的な映像のレンダリング前に、シミュレーションを行うプロセスを経るが、これには何台ものワークステーションを動員して1日掛かった。今ならばiPhoneでリアルタイムで出来るかも知れない(笑)」(Kerris氏)
それまでの成果が高く評価され、映画におけるCG導入が当たり前となっていく中で、1998年にはILMはマシンルームを大幅にパワーアップさせている。この時はSGI製のグラフィックワークステーションが主体で、NVIDIA製ハードウェアは無し。この時のマシンパワーは、新三部作の一作目となる「スターウォーズ」、「ハムナプトラ」の制作に貢献した、とKerris氏は振り返る。
Kerris氏によれば、シミュレーションベースの映画向けCGの在り方に変革をもたらしたのは2000年の「パーフェクトストーム」だったとのこと。
それまでは、ILMスタッフが、何日も、場合によっては何カ月も掛けて制作したCGシーンが、監督の一声で「気に入らない。やりなおし」ということが珍しくなく、制作効率の問題が浮き彫りになってきたのだ。
パーフェクトストームでは、150フィート(約45メートル)もの高波に揉まれる漁船の姿が描かれるというコンセプトのため、ILMのチームは海洋における波のシミュレーションを開発。しかし、シミュレーション設定を誤れば、何日も掛けて算出したシミュレーション結果で、150フィートどころか、たかだか80フィートの波で船が転覆してしまうこともあったという。
シミュレーションした波に船を浮かべてみる。たかだか80フィートの波で転覆。欲しいシーン描写のための結果を得るためにシミュレーションを最初からやり直し。テスト映像クオリティであっても、その結果を得るためには数時間かかる。効率が悪すぎる |
そこでILMは、監督とCGアーティストが同席して、カメラアングルやセッティングをインタラクティブに設定できるバーチャルシステムを開発。これによって、監督の意図するCGシーンが作りやすくなった。この時にはマシンパワーも上がっているため、ワイヤーフレームであればシングルマシンでインタラクティブな操作ができたとKerris氏は追想している。
2005年にはルーカスフィルムはサンフランシスコの北西部プレシディオ地区へと移転。
統合的なコンテンツ制作が行えるように、と、かつては分散して存在していたILM、ルーカスアニメーション、ルーカスアーツなどの関連企業を一カ所に集約させている。
この際には、レンダーファームを大規模化。占有面積にして10,000平方フィート、CPU数は7,000コア、ストレージ容量はペタバイトのオーダーにまで達している。
このシステムではシミュレーションスケールを大幅に拡大化させることに成功。
このシステムは2006年の「ポセイドン」のCG制作において大きな働きをもたらした。
この映画に出てくる超大型豪華客船ポセイドン号の航海シーンは波、水しぶき、船、空、海全体が全てCGによるもの。シーンの総水量は100万ガロン、船舶大きさは1,100平方フィートに及び、これまでのような限定的なシーンではなく、巨大なバーチャルセットでのシミュレーションベースのCG生成を可能にした。
シミュレーション速度も向上しており、同年の「パイレーツ・オブ・カリビアン(2)/デッドマンズ・チェスト」における巨大な渦潮内で繰り広げられる15分に及ぶ海戦シーンは、渦潮や船舶のシミュレーションはわずか5分でこなせるようになったという。ただし、水面、水しぶき、泡など、全てを付加して最終フレームをレンダリングするのには1フレームあたり約20時間が掛かっているとのこと。この時期には「トランスフォーマー(1)」などが、このシステムにて制作されている。