撮影と掲載に関する「肖像権」の疑問

肖像権は意図に反して、「撮影されない権利」と「撮影した写真を公表されない権利」があると前述で記しました。以下では、一般的に行なわれやすい事例を挙げて、肖像権を侵害するか否か? また、トラブルの対処法はどのようにすれば良いか? を解説していきます。

Q:夏祭りで撮影した子供の写真をブログで掲載したいのですが、一緒に写っている友達の顔は消すべきでしょうか?

A:その友達に承諾をとれば、問題なく掲載できます。承諾してもらえなかったときは、掲載できません。


Q:撮影の許可は取りましたが、無断でブログに掲載したり公募展に応募しても大丈夫ですか?

A:肖像権は、撮影時と、公表時のそれぞれについて働く権利ですから、撮影時に公表の承諾まで取っていなかった場合は、公表するにあたって、あらためて、公表に関する承諾を得る必要があります。このプロセスを抜かして、ブログに掲載したり公募展に応募することは、あとでトラブルのもとになりかねませんので、気をつけましょう。


Q:飼い主の承諾なしにペットを撮影するのは違法ですか? そもそも動物に肖像権はあるのでしょうか?

A:肖像権は本来、人間の人格的権利であって、その人の所有物には及ばないとされています(法律上はペットは所有物の扱いになります)。ですが、その人の所有する庭木や花や動物が、財産的価値を持つ作品だったり、品種改良の成果であったり、希少な品種だったりする場合には、これを無断で撮影したり、その画像を公表・売買したりすることが権利侵害とされるケースもあります。これは、パブリシティ権の問題です。町の風景としての「隣の家の猫」を撮影しても、一般的には問題とはなりませんが、その猫が映画に出演した有名な猫であるといった特殊事情がある場合には、飼い主や映画製作者にその財産価値を管理する権利があるため問題になりうる、というわけです。

Q:祭りのスナップショットをコンクールに応募する。許可を取ろうにも連絡先がわかりません。そのようなときは、コンクールに応募できますか?

A:その写真の内容が、個人特定性の少ない群集写真であった場合には、問題はありません。問題となるのは、ある人物がクローズアップされ、その人物によって、作品世界が成り立っている、というような場合ですね。この場合、原則としては、本人の許諾を取る必要があります。それが無理な場合には、現実的には、その祭りの性格、趣旨などから判断して本人の不利益になることがないことをよく判断し、事後的に拒否された場合には拒否に応じなければならないことを十分覚悟した上で、応募するという方法もあると思います。祭りの性格が政治色や宗教色の強いものだったり、マイノリティ集団の自主パレードであったりする場合、そこに参加していた事実が広く公表されることを不利益と感じる人もいますから、慎重に考えたほうがよいでしょう。また、主催者から「一般の方の撮影はご遠慮ください」といった注意があらかじめ出ているようなパレードの場合には、とくに個別の許諾が取れなかった場合、無断の作品応募は、被撮影者の肖像権を侵害することになります。

Q:スナップ撮影、どのくらいの顔の大きさやピンボケ写真は肖像権侵害となりますか?

A:これは、撮影時よりも公表時の公表の態様で判断すべきことになりますが、掲載紙面で扱われた写真の大きさと鮮明さを総合して、本人個人を特定できるものとなっていた場合には、肖像権を侵害すると考えられます。鮮明な写真でも、小さく写っていて風景の一部や、群集の一部にしか見えない場合には、肖像権問題となりませんし、ある程度の大きさであっても、ピントがぼけているために、被写体個人を特定できないような写真ならば、肖像権問題にはなりません。

ただ写真の巧拙としてのピンボケというのは、肖像権問題ではカウントされませんので、写真技術的に見てピンボケであっても、本人を特定するに十分である場合には、肖像権問題となります。ブログなどPC上に掲載される写真の場合には、アクセスしたユーザーが、当該画面を拡大して見ることができます。この場合、デジタルデータ技術の発達により、小さく扱われている写真でも、ユーザー側が拡大して見ることにより、被写体の特定性が出てくる場合が考えられます。総じて、掲載時の掲載サイズは小さくても、画像が鮮明で拡大したときに本人特定性が出てくるような場合には、肖像権問題が発生する可能性がある、と考えたほうがよいでしょう。

Q:芸能人をカメラ付き携帯で撮影することは?

A:まず、芸能人の肖像は商品価値をもつものなので、これを管理し利用する権利(他人が無断でこれを利用することを拒否したり、他者に有料で使用を許諾したりする権利)が、芸能人本人または、所属プロダクションにあります。これが先にも解説した「パブリシティ権」です。また、芸能人の私生活場面を偶然に撮ったという場合には、芸能人本人のプライバシーに属する肖像を無断で撮影したということで、一般人の肖像権と同じ意味での肖像権侵害になる場合があります。

ロケ中や、サイン会会場などの公的場面で芸能人に出会って思わずカメラのシャッターを押した場合、1.撮影時から被撮影者に拒否権があるのでだめだと考える立場と、2.パブリシティ権の場合にはその商業的利用が焦点なのだから、権利侵害は無断で公表や商業利用が行なわれたときに発生する、と考える立場がありますが、写真家のほうでは、撮影時から肖像権侵害となる可能性があると考えておくのが良いでしょう。

Q:よくショッピングモールなどに「商業目的の撮影は禁止します」という立て札がある場所があります。「商業目的」とはどのようなことを指しますか?

A:ここで言う「商業目的」とは、この付近の写真をそのまま、絵葉書やカレンダー、ステイショナリーなど販売目的の商品の図柄として使うこと。および商業広告用に撮影・使用することを指します。美術性の高い建造物や、公園・遊歩道などの屋外に設置されている彫刻物などは著作物ですが、私的に楽しむ人物スナップの背景として使われるかぎりは、無断で撮影してよいものです。しかし、商業利用するときは、その所有者や著作権者に、許諾を取らなくてはなりません。