秘境、天然記念物、犬という3つのキーワードから連想するものとは……? 犬好きの人ならば、一度はオオカミの血を継ぐと云われる長野県の天然記念物「川上犬」(註1)の噂を聞いたことがあるかもしれない。今回、偶然インターネット上で見つけた川上犬の類まれな凛々しい立ち姿に魅せられ、一時は絶滅しかけたこの犬をカメラに収めるべく一路長野県へと向かうことにした。

川上犬のルーツ

川上犬は、オオカミの血を継ぐと伝承されている日本犬。隔絶された山村であった川上村にて猟犬として飼育されていた川上犬は、1921年に国の天然記念物に認定。だが、外部との交流がはげしくなるとともに雑種化が進み、 天然記念物指定を解除されてしまう。その後川上犬保存会などの働きかけにより、純系繁殖の基盤が確立し、現在は約350頭まで個体数を増やしている。なお川上犬の純系種は、1983年に長野県の天然記念物指定を受けている。

川上犬 ※イメージ

特長は、三角形の小さな目と鼻梁の線に対してほぼ直角に立つ小さくて厚い耳。また広い額と太い尾を有する。体形は信州柴犬よりやや大きめで、たてがみを所有する犬もいるという。性格は、帰家性と忠順性が強く番犬向きともいえるそうだ。

註1:川上犬の天然記念物指定は「種」に対してではなく、「個体」に対するもの。よって全ての川上犬が天然記念物として指定されているわけではない

選ばれし川上犬

訪れたのは長野県南佐久郡川上村。長野県の東端に位置し、日本百名山の金峰山・甲武信ヶ岳をはじめとする名山に囲まれるのどかな村である。ここ川上村の村役場に隣接する「川上村林業総合センター(森の交流館)」で麗しの川上犬に会えるという。

JR小海線・信濃川上駅。川上村はレタス生産量日本一を誇る

東京から鈍行電車に揺られること約5時間。目的地であるJR小海線・信濃川上駅の看板に川上犬の姿を見つけ、はやくもテンションがあがる。駅前のバス停にバスが来る気配もないので、川上村林業総合センターまで一時間の道のりを歩いて向かうことに。

村のいたるところに川上犬を発見!

のんびりと歩くこと一時間半……。ようやく見えてきた川上村林業総合センターに一礼し、はやる心でドアを開ける。中に進むと川上犬の飼育室を発見。飼育室内に入ると「森風(しんぷう)」くんが飛び出してきた。近づくなり尻尾をふって頬をなめ出すなど、オオカミをイメージさせる凛々しい顔立ちに反して、とっても人懐っこい。

森風くん。立ち姿も勇ましい

鋭い目力ながら愛くるしい立ち居振る舞い

川上村林業総合センター内にある川上犬保存会犬舎で飼われている川上犬たち

川上犬保存会 のたかはしるりさんは「全国で血統書つきの川上犬は約350頭。そのうち川上村では約80頭が飼われているんですよ」と説明してくれた。

ただし、川上犬と言っても一概に全てが県指定天然記念物に指定されるわけではないという。天然記念物に指定されるのは、川上村内にて飼育される成犬の中から、体格、体型、体毛、尾の形、血統、飼育状態などの審査を通過した犬のみ。先ほど会った森風くんは、川上犬の特徴をよく継いでおり、現在審査をパスして申請を出している段階なのだという。

天然記念物に指定された川上犬たち

続けて「せっかくならば生後60日の仔犬にも会ってきたらどうかしら? 県指定天然記念物の川上犬同士の子どもたちですよ」と提案を受ける。飯山市戸狩温泉の瀬木民宿街にて開催されている「戸狩ふれあいアート展」(5月3日~5日)にて、川上犬の仔犬を見ることができるというのだ。予定にはなかったが仔犬には是非とも会いたい!と、森風くんたちにお別れを告げ、開催地である戸狩温泉へ向かう。