タモリは『笑っていいとも!』の頃から若手芸人や駆け出しのタレントも分け隔てなく接し、彼らから慕われてきた姿を見てきた視聴者の信頼は厚いものがある。

さらに言えば、ハラスメントのイメージがみじんもなく、「老害」という言葉が最も似つかわしくない大物と言っていいのではないか。その点は同世代のレジェンド司会者たちと明らかに違うところだろう。このところ「老害」「ソフト老害」という言葉がしばしば話題になるが、そのたびにタモリが中高年層はもちろん、若年層からも愛される理由を感じさせられる。

『笑っていいとも!』『タモリ倶楽部』『ミュージックステーション』を筆頭にタモリの番組は長寿番組が多く、それは「頑張らない」「無理しない」を公言するタモリのスタンスによるところも大きいのだろう。かつて芸人は破天荒や波乱万丈、あるいは押しの強さを売りにする人が多かったが、タモリはその真逆。特に『笑っていいとも!』終了後は「芸人であろうとしているか」すら分からないほど笑いを取りに行こうとしない姿を見せていて、それが時代に合い、年齢を超えて現在の視聴者に支持されやすいように見える。

タモリと言えば、浪人や会社員の経験があり、30代で芸能界デビューした遅咲きで、「芸風が気持ち悪い」と言われるなどの苦労話が語られることもあるが、これらは今なお愛されていることと関係ないだろう。それより「約50年も前から、大きな組織に属さず、師匠を持たず、できるだけ誰にも頭を下げず、自己主張せずに仕事をこなしていく」という令和の今こそ支持を集めそうなスタンスを先取りし、貫いてきたことが大きいように見える。

余談だが、タモリは『水曜日のダウンタウン』(TBS)の「日本人知名度ランキング」で3回すべて1位を獲得。これは10~70代の全世代2,000人に尋ねたアンケートであり、アスリートや政治家などを含めた日本人トップだった。同じ“お笑いBIG3”のビートたけし、明石家さんまのように前へ出てボケなくてもトップに立っていることが、いかに愛されているかの証しと言っていいのではないか。

  • 「第60回ギャラクシー賞」では放送批評懇談会60周年記念賞を受賞(2023年5月31日)

    「第60回ギャラクシー賞」では放送批評懇談会60周年記念賞を受賞(2023年5月31日)

『Mステ』の価値はさらにアップ

今春以降、タモリのレギュラー番組は『ミュージックステーション』のみになる。

その他では、不定期特番の『タモリステーション』(テレ朝、3月23日に最新作放送)、年2回放送のドラマ『世にも奇妙な物語』(フジ)、正月恒例のタモリと鶴瓶の特番(今年は『タモリと鶴瓶のテレビDEお正月2024』)がある程度。また、健康の不安などがなければ『ブラタモリ』は特番として復活することが有望視されている。

これを「少ない」と思うか、「貴重」と思うかは個人差あるだろうが、現在タモリは78歳。生放送の『ミュージックステーション』で元気な姿を見られることの価値は確実に増している。

出演数が減った分は、プライベートや体調管理に時間を割くのかもしれないが、もしかしたら別の番組でこれまで以上に自由な姿を見せてくれるかもしれない。かつてのディープな芸や毒舌で往年のファンを喜ばせてくれる可能性だってゼロではないはずだ。

例えば、もはや伝説の芸になりつつある4か国語麻雀、ハナモゲラ、イグアナの形態模写などをゴールデンタイムで披露したらトレンドワード入りするだろう。実際のところ「やるとしても黒柳徹子がいる『徹子の部屋』くらいかな」とは思いつつ、もしゴールデンタイムの特番でそんな姿を見せたら、ますます愛されてしまうかもしれない。