テレビ解説者の木村隆志が、今週注目した"贔屓"のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第7回は、13日に放送された『すイエんサー』(NHK Eテレ、毎週火曜19:25~)をピックアップする。

同番組は、「日常生活の中で抱くちょっとした疑問や思いに、少女タレントで結成した"すイエんサーガールズ"が体当たりで挑む」教育バラエティ。番組タイトルが「サイエンス」のアナグラムっぽいだけあって、「謎の科学(?)エンターテインメント番組」とうたっている。

少女たちは元世界王者に勝てるのか?

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    『すイエんサー』(左から)春香クリスティーン、白本彩奈、ユージ=2月20日の放送では、食パンと残り物のカレーでカレーパンを簡単に作る方法を探る

番組冒頭、力士から「横綱、おつかれさんです」と声をかけられて1人のキュートな女子大生が登場。彼女は立命館大学相撲部の野崎舞夏星さん(21歳)だった。どうやら『世界ジュニア女子相撲選手権大会』で優勝した「美しすぎる相撲選手」らしい。

ただ、今回のテーマは相撲ではなく、手押し相撲。「すイエんサーガールズの3人が手押し相撲で元世界チャンピオンから1勝を奪う」ことが目的という。なんとまあユルい……と思いきや、さらに「"もえ技"で勝つ」とユルさを上積みしてくるのが、いかにもこの番組だ。

ここで動作メカニズムを研究している了徳寺大学理学療法学科の柊幸伸教授が、行司のコスプレで登場。「足を平行にそろえて立つと下半身の関節が動きやすく、体が不安定になる」「内またで立つと内ももの筋肉に力が入り、その筋肉は股関節とひざにつながっているため、下半身が動きにくくなる」と解説する。つまり、「メイドの内またをマネすることで、ディフェンス力が上がる」らしい。

ディフェンスの次はオフェンス。相手を強く押すためのヒントを探るべく、胸キュンドラマがはじまった。ガールズ「私はユージだけのマネージャーじゃない」、男性「ちょっと待てよ」で突き上げるような壁ドン……。柊教授いわく「まっすぐ押すと腕の力だけだが、下から押すと足腰の伸び上がる力も使える」とのこと。

さらにガールズたちは、相手が押して来た瞬間、手を引いて前に倒す「つっぱりすかし」、変顔で笑ったスキに押す「福笑い」、まず押されてよろめいたと見せかけ、相手の目の前に顔を近づけて驚いたスキに押す「ふり子うっちゃり」という3つの必殺技を伝授された。はたして、3人の少女たちは元世界チャンピオンに勝てるのだろうか。

学校でちょっとだけ優位に立てる

番組序盤、ガールズたちは元世界チャンピオンに秒殺されたが、今回は学んだ技を生かして大熱戦。まな、ひかるは惜しくも敗れたが、のあは100回の打ち合いを経て制限時間の5分が過ぎ、引き分けとなった。

ガールズは進歩こそしたが、結局勝てず……。「何と正直な演出」と感心していたら、スタジオでMCたちの手押し相撲がはじまった。対戦は、今回の技を知っている横山だいすけ、白本彩奈vs技を知らないユージ。しかし、技を知っている横山と白本が負けて番組は終了した。

まさに、カタルシスなんて二の次。予定調和なんてクソくらえ。同番組のメインターゲットである学生たちに「世の中そんなに甘くないよ」と伝えるべく結末こそ、この番組の魅力なのだ。民放のディレクターが同番組を見たら、「そろそろ過剰なエンタメ演出やカタルシス主義を見直すべきなのかもしれない」、そう感じるのではないか。

過去の放送を振り返ると、「超かわいいウインクをバッチリ決めた~い!」「前髪・くせ毛をなんとかした~い!」「激ウマ!黒板アートテクニック」「鬼ごっこ&なわとびスゴ技SP」「らくらくスイスイ平泳ぎ」「ドッジボールSP」など、学校絡みのちょい技が多い。やはり学生たちにとっては、「これを見ておけば、ほんのちょっとだけ学校で優位に立てるかも」という番組なのだ。

だから番組は終始、分かりやすく、明るく、ほほ笑ましく。良質かつ贅沢なネット動画のような印象を受ける。すイエんサーガールズに、男子生徒が「カワイイ」、女子生徒が「憧れる」と感じるティーンモデルを選んでいることも含め、彼らにとって取っつきやすい番組なのだろう。

実際、同番組は今春で放送10年目に突入。広く知られてこそいないが、ティーンたちには浸透した番組であり、視聴者の高齢化が叫ばれる民放各局にはヒントになるのではないか。

来週の贔屓は…放送5年でアウトに陰りはないか?『アウト×デラックス』

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矢部浩之(左)とマツコ・デラックス

来週放送の番組からピックアップする"贔屓"の番組は、22日に放送される『アウト×デラックス』(フジテレビ系、毎週木曜23:00~)。同番組は、「偉人たちは総じて型破りで"アウトな人"だった」という仮説をもとに、現代のアウトな人々を迎えるトークショー。

前回放送では、夏菜が「フジテレビのスタッフは、自分に自信があるのか、打ち合わせで目を離さない。売れたらすぐ囲いたがる。タレントとワンチャン狙ってそう」と物申したほか、「朝ドラヒロインって言われるのが嫌」とこぼして爆笑をさらった。アウト軍団のコメントも含め、これを超えるインパクトに期待したい。

■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。