テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第56回は、1日に放送された『テレビ朝日開局60周年記念 ミュージックステーション 3時間SP』(テレビ朝日系、19:00~)をピックアップする。

今回の放送では、2020年12月31日での活動休止を発表したばかりの嵐が出演したほか、ZARD・坂井泉水が最新の映像技術でよみがえり、親交のあった倉木麻衣と夢の共演。さらに、「テレビ朝日に保管されている60年分の貴重な映像が見られる」という。

局を挙げた大型特番の内容はもちろん、通常放送についてもふれていきたい。

  • 『ミュージックステーション』MCのタモリ(左)と並木万里菜アナウンサー (C)テレビ朝日

新曲より過去のヒット作が好まれる時代

オープニングのテーマ曲は、オーケストラによる豪華版。「テレビ朝日開局60周年記念番組」らしい華やかな幕開けとなり、嵐、Superfly、乃木坂46、GENERATIONS、大塚愛、ORANGE RANGE、ジャニーズWEST、秦基博、倉木麻衣の順で登場した。

ここで渦中の相葉雅紀が、「おさわがせしてしまって申し訳ございません。でも今日は120%でやらせていただきます」と、さわやかにコメント。生放送というMステの強みがいきなり表れた。

この日のセットリストは、THE YELLOW MONKEY「太陽が燃えている」、秦基博「ひまわりの約束」、ジャニーズWEST「ホメチギリスト」、大塚愛「さくらんぼ」、ORANGE RANGE「花」、GENERATIONS「AGEHA」、Superfly「force」、ZARD・坂井泉水&倉木麻衣「負けないで」、乃木坂46「シンクロニシティ」、嵐「君のうた」「感謝カンゲキ雨嵐」。

新曲はジャニーズWESTだけで、他のアーティストはすべて代表曲を披露。「リリースから数年を経た歌唱や演奏の変化をライブで感じられる」のが、『Mステ』特番の醍醐味となっている。

ただ、エンタメの多様化や嗜好の細分化などでヒット曲が出にくい時代になって以来、「新曲より過去のヒット曲のほうが好まれる」という傾向は、音楽番組にとってつらいところ。「知名度の低いアーティストをキャスティングしづらく、“テレビ番組で火がついたニュースター”が生まれない」ことが、音楽番組からパワーを感じない一因となっている。

子どもへのインタビューに見える努力

今回の特番における事実上の目玉企画は、「テレ朝60年 奇跡の発掘映像ランキング」だった。

これは「テレビ朝日60年分の映像素材を幅広い世代に見せてアンケートを取り、衝撃度順にランキング形式で紹介する」という企画。「奇跡のスペシャルパフォーマンス」「衝撃ハプニング」「あのアーティストがこんなことを…」「お宝カバー&ものまね」「超貴重! あの人気者も歌ってました」と、5つのカテゴリーに分けて放送された。

もはやお約束となった「t.A.T.u.のドタキャン」から、観客席へ豪快に落下するサンプラザ中野くん、鼻血を出す生島ヒロシ、『Mステ』モチーフのドラマで演技する浜崎あゆみ、子どもから山口百恵に「三浦友和さんを本当に好きなんですか?」の質問、花の中三トリオやピンク・レディーのカバー曲歌唱まで、ただの懐メロではなく幅広い年齢層が楽しめる仕上がり。過去映像の粗い画質がほとんど気にならない繊細な演出も素晴らしかった。

近年、『Mステ』は小・中・高校でのインタビューを採り入れた企画を放送しているが、子どもたちのコメントは率直かつ柔軟で視聴者の予想を超えてくる。さらに、従来からのターゲットである若年層に加えて、親子間のギャップを楽しむファミリー視聴をうながすなど、地道な努力が成果につながっているのではないか。

過去には優れた企画も多く、なかでも、この日も少し紹介された「アーティストの免許証拝見」、ある1年のヒット曲をその年に生まれた人に聴かせて反応を見る「BIRTH YEAR SONGS」なども復活させてほしいところ。タモリが健在な限り続く可能性の高い同番組なら、長い年月の中で企画の出し入れが可能だろう。

『Mステ』にあって他番組になかったもの

今回は嵐がトリを務め、「感謝カンゲキ雨嵐」の歌唱中に、松本潤「みんなこれからも一緒に楽しんでいこうぜ!」、二宮和也「まだまだ僕らと遊んでいきましょう!」、相葉雅紀「2020年まで前を向いて!」、大野智「5人で走っていきます!」、櫻井翔「さあ同じ夢を見よう!」と、それぞれのメッセージを盛り込み、肩を組んで熱唱。最後に大野が「引き続き嵐をよろしくお願いします」と締めくくる大団円となった。

これも生放送ならではのパフォーマンスであり、嵐の魅力と現在の姿を届けられる『Mステ』の持ち味だろう。

これまで『Mステ』は、古くは『ザ・ベストテン』(TBS系)や『歌のトップテン』(日本テレビ系)から、その後も『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』(フジテレビ系)、『うたばん』(TBS系)、『速報!歌の大辞テン』(日テレ系)まで、同時期に放送していた他局の音楽番組が終了していく姿を見送ってきた。言わば、生き字引のような番組であり、過去から現在まで音楽シーンを語る資格を持つ唯一の番組と言っていいだろう。

『Mステ』だけが生き残ってこられたのは、繰り返しになるが、やはり生放送の臨場感にこだわってきたからであり、現在各局が季節ごとに生放送の音楽フェス番組を放送していることが、その正しさを物語っている。何度か打ち切りの危機が叫ばれた中、そこにこだわって続けてきた忍耐力も含め、局全体の功績と言えるのではないか。

NHKの『うたコン』は別として、同じ環境下にある民放キー局でプライムタイムの音楽番組はゼロ。『徹子の部屋』『タモリ倶楽部』らと並んで、「テレビ朝日が最も終わらせてはいけない番組」の1つであり、タモリの健康を願わずにはいられない。

次の“贔屓”は…次代のスターアナ発掘なるか!?『明石家さんまのFNS全国アナウンサー一斉点検』

明石家さんま

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、9日に放送されるフジテレビ系バラエティ特番『明石家さんまのFNS全国アナウンサー一斉点検』(21:00~)。

番組のコンセプトは、「車に車検があるように…フジテレビ系列アナウンサー351人を明石家さんまが一斉点検」。VTRに加えてフジのアナウンサー25人とFNS系列アナウンサー16人をスタジオに集めてトークを繰り広げるという。

「さんまがMCを務める」=「笑いを求められる」=「ヤバイアナウンサー決定戦」になること必至。さんまから徹底的にイジられ、スターアナとして発掘されるのは誰なのか? このところ「フジはスターアナ不在」と言われがちなだけに、ニュースターの誕生に期待したい。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。毎月20~25本のコラムを寄稿するほか、解説者の立場で『週刊フジテレビ批評』などにメディア出演。取材歴2,000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日の視聴は20時間(2番組同時を含む)を超え、全国放送の連ドラは全作を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』『話しかけなくていい!会話術』など。