テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第122回は、17日に放送されたテレビ東京系バラエティ番組『緊急SOS! 池の水ぜんぶ抜く大作戦 巨大最恐モンスター捕獲の瞬間16連発 まさか!坂上どうぶつ王国の池からお宝発見』をピックアップする。

17年1月の特番スタートから18年4月の月1レギュラー化を経て、すでに3年半・30回の放送を数えるなど、今やテレ東の看板番組と言ってもいいだろう。しかも今回の放送はフジテレビ『坂上どうぶつ王国』とのコラボであり、坂上忍やサンドウィッチマンも参戦するという異例の内容。坂上が動物の保護施設用に購入した土地の巨大池は「番組史上最悪のヘドロ地獄」であり、「絶滅危惧種が発見される」というだけに期待は募る。

「新型コロナウイルスの影響で各局が厳しい対応を迫られている」「しかし、外出自粛でテレビ番組の視聴機会が増えている」などと番組制作をめぐる状況が動いているときだけに、局の垣根を越えたコラボの可能性についても追求したい。

  • 5月22日放送の『坂上どうぶつ王国』(19:00~)では、『緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦』とのコラボロケの裏側を公開 (C)フジテレビ

■ワニガメvs的場浩司のド迫力ファイト

番組は『池の水ぜんぶ抜く』の田村淳、田中直樹、前園真聖、大家志津香が、『坂上どうぶつ王国』の坂上忍、サンドウィッチマンと合流するシーンからスタート。直後、ヘドロに苦しむ坂上、足を取られて転ぶ伊達みきお、絶滅危惧種のウナギをつかんだ淳らの姿をフラッシュで映してタイトルバックへ。

「さあスタート!」と思いきや、画面が左右に2分割され、リモート出演する淳と田中のトークがはじまった。ほどなく映し出されたコーナータイトルは、「これまで抜いた全83池から出た最恐モンスター捕獲の瞬間16連発」。つまり、『坂上どうぶつ王国』とのコラボではなく、これまでの総集編から始めるということだった。

肩すかしであり、視聴者をじらす構成・演出は前時代的な感が否めないが、そんな不満は最恐モンスターたちの強烈なインパクトで吹き飛ばされてしまった。下記にその16連発を挙げていこう。

17年9月3日放送 神奈川県座間市 ワニガメ(全長90㎝、体重30kg)
18年11月18日放送 福岡県北九州市 ワニガメ(全長1m10㎝、体重35kg)
20年3月22日放送 茨城県土浦市土浦城 ハクレン190匹
19年3月24日放送 愛知県知多市佐布里池 ハクレン86匹(最大全長1m20㎝)
19年12月22日放送 栃木県宇都宮市とちのきファミリーランド コイ650匹
18年1月2日放送 神奈川県横浜市 ミシシッピアカミミガメ117匹
19年5月19日放送 千葉県館山市茂名溜池 ウシガエル10匹
17年11月26日放送 大阪府寝屋川市 アリゲーターガー(全長1m14㎝)
18年12月9日放送 広島県東広島市 アリゲーターガー(全長1m25㎝)
計4回放送 千葉県印旛沼 カミツキガメ36匹(最大甲長40㎝)
18年7月22日放送 沖縄県本部町 オオウナギ30匹(最大全長1m50㎝)
17年9月3日放送 千葉県千葉市 ヌマガイ17匹
20年4月12日放送 鳥取県南部町 オオサンショウウオ(全長70㎝)
19年8月4日放送 スペイン ヨーロッパオオナマズ(全長2m10㎝)
19年11月3日放送 アメリカ アリゲーターガー(全長2m27㎝)
20年3月22日放送 カナダ チョウザメ(全長2m66㎝)

いわゆる「おいしいところ取り」した映像集だけに、外来種捕獲シーンの迫力は強烈。「これぞ映像の力」「ロケはこうでなくちゃ」と思わせるパワーであふれ、現地の群衆から自然に巻き起こった拍手にそのすごさが表れている。中でも、ワニガメvs的場浩司の格闘シーンはテロップやナレーション不要の面白さがあった。

その間、捕獲・保護した生物の紹介や、静岡大学農学博士の加藤英明氏から「ワニガメの目にはどんな特徴がある?」というクイズがはさまれるなど、知的好奇心を満たす最小限の情報を織り交ぜていた構成も巧妙。これほど父子でのファミリー視聴がイメージしやすい番組はそうそうないだろう。

■「ヘドロのマーメイド」大家志津香

放送から約1時間がすぎたころ、坂上の池を抜くロケがようやくスタート。まずは「広さ3000坪の池」「150年以上の歴史がある」「動物の保護ハウスを作りたい」「番組史上最悪レベルの汚さ」などの基本情報を紹介したあと、「まさかのフジテレビ!坂上の池から絶滅危惧種33匹!」というコーナータイトルが表示された。絶滅危惧種が二ホンウナギであり、33匹獲れたことまでネタバレするのはもったいないように感じたが、「すごいから最後まで見て」ということなのだろう。

次に映し出されたのは、4日前からはじまった水抜きの様子。超巨大ポンプとフローティングポンプを使い、約8,000トンの水を4日間かけて抜いたという。映像が捕獲作戦日に戻ると、自然環境保全・生物調査の専門家としてNPO「birth」の久保田潤一氏が登場。その後、外来種のコイをつかまえたところで、画面下部に「※捕獲作業は専門家の指導のもと行っています」の文字が表示されたが、自然や生物を扱う以上、「番組を守る」という意味でこれくらいハッキリ見せておくべきだろう。

けっきょく池で見つかったのは、外来種コイ78匹、外来種ライギョ18匹、国内外来種ゲンゴロウブナ159匹、外来種ブルーギル1匹、外来種ウシガエル1匹、外来種ミシシッピアカミミガメ32匹、外来種クサガメ2匹。さらに、在来種モツゴ76匹、在来種ナマズ5匹、在来種二ホンウナギ33匹、在来種ギンブナ24匹、在来種エビ類56匹、在来種ヨシノボリ属12匹、在来種ヌマチチブ8匹、在来種ボラの幼魚・ハク、在来種オオバン。合計で外来種7種類291匹、在来種9種類241匹が捕獲・保護された。

7人の中で最も目立っていたのは、紅一点で現役アイドルの大家。「池の水センター」として凶暴なライギョを手づかみで獲りまくり、「ヘドロのマーメイド」として泥の中を泳ぎながら進み、結果発表のシーンでも泥まみれの顔をまったく拭いていなかった。大家は当番組での活躍で自然や生物系の仕事が増えている。すでに28歳の高齢アイドルだが、体当たりロケで見せる思い切りのよさは、同年代の朝日奈央に続く可能性を秘めているのではないか。

■「実現したら面白そう」な他局コラボ例

番組は終始、楽しそうでたくましい『池の水ぜんぶ抜く』メンバーと、苦しそうで頼りない『坂上どうぶつ王国』メンバーという図式。コラボ相手の楽しげな顔を見た坂上は、「こんな大変なことやってたんだ。尊敬」「本当に助かりました。本当にありがとうございます」と圧倒されっ放しで、サンドウィッチマンも含めほとんど見せ場はなかった。

「一方の良さばかり目立った」という点でコラボとしては物足りないが、両者に経験値の差がある上に生物が関係している以上、いたずらに対決図式をあおったり、ボケたり暴れたりなどの演出は考えにくい。それでも「『坂上どうぶつ王国』の次回放送でこのロケをどうとらえているのか」は興味深く、そこでは坂上とサンドウィッチマンが活躍しているのだろう。今回はコラボを実現させただけで両番組に拍手を送っている人が多いのではないか。

最後に話を「局の垣根を越えたコラボ」に広げると、各所への調整、リスク、プライドなどの理由はあるとしても、クオリティファースト、視聴者ファーストを考えたら、もっと実現してもいいはずだ。

たとえば無責任にコラボ例を挙げると、テレ東の『池の水ぜんぶ抜く』と日本テレビの『ザ!鉄腕!DASH!!』は今すぐにでもコラボできそうだし、難問系クイズ番組ならTBSの『東大王』とテレビ朝日の『Qさま!!』、街ぶらロケ番組ならTBS『ぴったんこカン・カン』と日テレ『火曜サプライズ』、同じ内村光良MCで構成の似たフジ『痛快TV スカッとジャパン』と日テレ『THE突破ファイル』、同じ明石家さんまMCのトーク番組で日テレ『踊る!さんま御殿!!』とフジ『ホンマでっか!?TV』、同じマツコ・デラックスMCで幅広いジャンルを扱うTBS『マツコの知らない世界』とテレ朝『マツコ&有吉 かりそめ天国』など、視聴者レベルで「実現できたら面白そう」と思わせるものは多い。

外出自粛で動画配信サービスがジワジワと浸透しているほか、YouTubeやインスタライブなどで演者の発信も活発化するなど、テレビ番組の競合コンテンツが増えている。ビジネスモデル的に局を挙げての大同団結が難しいとしても、番組単位での交流すらできないのであれば視聴者に飽きられかねず、苦しい戦いを強いられるのではないか。

■次の“贔屓”は…「スマホだけで作る」驚きの深夜バラエティ『よなよなラボ』

岡崎体育(左上)とヤバイTシャツ屋さんのメンバー=NHK提供

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、23日に放送されるNHKのバラエティ番組『よなよなラボ』(24:05~25:05)。

ミュージシャンの岡崎体育とヤバイTシャツ屋さんが「みなさんの想像以上にスマホだけで作る」番組として先月にスタート。土曜深夜にチャット、検索、SNS投稿でつながって“じぶん的無敵ライフ”を考えるリモートが前提の番組だが、「新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化する前から、この企画は決まっていた」というから驚かされる。

次回放送では、「日本よりフィットする国がある気がする」という岡崎体育がスマホで世界旅行へ。SNSでつながる友人、岡崎慎司選手、鬼龍院翔、フワちゃんも登場し、ベストフィットの国を探していくという。さらに、世界中の人と日本語だけでトークできるアプリにも挑戦するなど、深夜番組とあなどれない期待感が大きい。