子宮頸がんワクチン、乳がんなどの話題から、女性特有の疾患について関心が高まる昨今ですが、月経前症候群(PMS)について、聞いたことがある人はどのくらいいらっしゃるでしょうか。

女性特有の「生理」にまつわる体調・精神面の不調、ハードワークに陥りがちな女性クリエイターには身に覚えのある方も多いかもしれません。症状に見舞われる本人の創作が阻害され、さらには当事者だけでなく周辺にも影響を与えることもある「PMS」。いったいどんな特徴があり、どんな「治し方」があるのでしょうか。

この連載では、忙殺され身体を酷使しがちなクリエイターが「健康的に創り"続ける"」ための知識を公開。敷居が高いイメージになってしまった「健康」を広く手の届くものにすべく活動されている鍼灸師・若林理砂さんが、忙しいクリエイターにもできる「健康への第一歩」につながるエピソードを語ります。第9回は、「生理前症候群(PMS)」が起こる仕組みや実態、症状を和らげる方法について語っていただきました。


若林理砂
1976年生まれ。鍼灸師・アシル治療室院長。高校卒業後に、鍼灸免許を取得し、エステサロンの併設鍼灸院で、技術を磨く。早稲田大学第二文学部卒。2004年、アシル治療室開院。著書に「養生サバイバル」「安心のペットボトル温灸」など。好きな漫画/アニメは「進撃の巨人」「FSS」「おそ松さん」。一昔前は腐っていました。「どの宮崎アニメにも必ず出演している」顔立ちといわれています。夫はクーロンズ・ゲートの人。TwitterID: @asilliza

月経前症候群(PMS)というものをご存じでしょうか。女性の月経周期にまつわる不調は「生理が重い」など感覚的に言われがちでしたが、症候群としての認知は少しずつ広がりつつあります。2014年にはゼリア新薬から「PMS」治療のための薬が発売され、CMを流すなどしていたので、それで目にした人もいるかもしれません。

忘れた頃にやってくるPMS

PMSの症状としては、月経前の数日から一週間ほどの間、イライラしたりちょっとしたことで悲観的になったり。それ以外に身体的な症状としてはお腹が痛い・張る、乳房が張って不快、便通が悪くなる、頭痛が出るなどなど。女性は一カ月の3分の1程度、このような不快感を抱えて生活しているのです。

ただ、これだけ認知は広がったものの、女性自身が「体調不良はPMSが原因」と気づきにくいのものまた事実、だったりします。

というのも、私自身が最近 「なんとなくイライラする」症状に襲われたからなのですよ。何が原因でイラついているのかわからないまま、数日が経過 ……そして、月経が再開しました。ここに至って、「ああ、なんだPMS(月経前症候群)か!」と思いだしました。私は現在1歳児の子育て中で、妊娠から出産を経て産後11カ月になるのですが、妊娠中~産後までおよそ2年近くも月経が止まっていたので、PMSがどんな感覚だったかをすっかり忘れていたのでした。

産後は月経が止まっている、ということをご存知ない方も多いかもしれません。母乳育児を続けていると、早い方でも産後数カ月、長い場合は授乳が終わる1歳~2歳前後まで月経が停止するのです 。そうでなくても、月経は女性にとって毎月のことで、よくも悪くも「いつものこと」になりがち。生活に支障があるレベルの強い症状がでない限り、つい見逃しがちになります。

PMSの症状と原因

PMSの原因は、月経前に大きく変動する女性ホルモンです。女性ホルモンには大きく二種類、エストロゲンとプロゲステロンがあります。排卵前にエストロゲンが多くなり、月経直前にはプロゲステロンが多くなり、月経になると両方とも急激に減少します。ホルモンは変動する際に体内の環境がかき乱されやすくなるのですが、特に排卵・月経直前のプロゲステロンに絡む変動が、自律神経失調を起こしやすいのです。

PMSが知られるようになる前は、月々の体調不良から出血量までひっくるめて「生理が重い人、軽い人」という言われ方が主流でした。表現としては曖昧なところはありますが、体調面はもちろん、月経血の量にもこうした個人差は確かに存在しています。

とはいえ「個人差」に関して、確かめるのは至難の業ですから、「いったいどのくらいの月経血の量で異常だって考えたらいいんだろう?」という疑問を持っていらっしゃる方は多いようです。月経血に関して、夜用ナプキンでも全然もたなくて寝具を汚してしまう、日中1時間もたない、貧血を起こしてしまう……なんてことがあったら必ず一度病院へ行くことが大切です。腹部の痛みも、鎮痛剤なしでは過ごせない、動けなくなるほどの痛みがあるなら病院へGo!です。

「なんとなく調子が悪い」に東洋医学で対処する

病院へ行くほどの不調ではないけれど、毎月どうもPMSの不調がはっきり出て困るという方は、東洋医学の出番かもしれません。このような症状にはお灸や漢方がよく効くことがあります。

お灸は、拙著「ペットボトル温灸」の「生理痛・月経不順」の項目を利用します。症状が出る前でも、PMSの予防として、同じ経穴(ツボ)を使っていただいてOKです。およそ排卵前後から施灸をしてやったほうがPMS軽減にはよく効くのですが、なんとなく不調が出始めたくらいから始めてもそれなりの効果はあります。

ペットボトル温灸のやり方は簡単。ホット専用ペットボトルに水を3分の1入れてから、沸騰直前まで沸かしたお湯を3分の2入れます。これを、三陰交→腎兪→血海→帯脈、この順番に当てましょう。じーっと当て続けるのでなく、数秒当てて「アツッ」と感じたら離すのを数回繰り返します。

めんどくさかったら三陰交だけ毎日やってください。一穴だけ使い続ける場合は、毎日行うことが大切です。

また、漢方を利用する場合は、婦人科の医師か漢方を取り扱っている薬局の薬剤師に相談するのが大切です。婦人科三大処方と言うのがありまして。この三つです。

・加味逍遥散
・桂枝茯苓丸
・当帰芍薬散

これらは婦人科の医師の処方があれば保健調剤が可能。非常に古くから使われている処方ですが、適切に体質を判断した上で処方すると、シャープな効き目を表すことがしばしばあります。PMSを軽減するための手段として低用量ピルもありますが、飲むのに抵抗がある方は、漢方から試してみるのも手ではないかなあと思います。

最後に。PMSは、ひどい月とそうでもない月があるな……と感じていらっしゃる方も多いかと思われます。これはストレスや生活習慣の乱れが、月経前のホルモンバランスによる自律神経失調を助長するから。東洋医学的に考えるなら、夜更かしや、過労、ストレスが多かった場合にPMSが悪化する傾向が出ると判断します。ですから、月経と諸症状だけに意識を向けるのでなく、ワークライフバランスや生活習慣を見直してみることも大切ですよ。

参照リンク

日本産婦人科学会「病気を知ろう:婦人科の病気/月経前症候群」