暑い暑い夏、ひんやり涼しい劇場で熱い熱い舞台を楽しむのはいかが? 毎月、数多ある舞台の中から、ホットな話題作を厳選してお届けするこの演劇コーナー。8月も、見逃すわけにはいかない3作品をご紹介します。

『女教師は二度抱かれた』 - 松尾スズキが調理する極上の大竹しのぶ

ブラックな笑いの中に人間存在を鋭くえぐり出す作風で、劇作家・演出家・俳優として演劇シーンの最先端で活躍するのみならず、映画監督、作家としても注目を集める松尾スズキ。3年ぶりの登場となるシアターコクーンで作・演出を手がけるこの新作も、大いに話題を呼んでいる。

というのも、今回の作品は何と、バックステージもの! 歌舞伎界の異端児といわれる女形(阿部サダヲ)とタッグを組み、新しい歌舞伎の創造を目指す小劇場界の風雲児(市川染五郎)の前に、高校時代、肉体関係にあった演劇部顧問の女教師(大竹しのぶ)が姿を現し、彼の前途に大きな影を投げかけてゆく――。染五郎と阿部が実際の立場を取り替えるような役柄に扮し、大竹が何とも魅惑的な設定で登場するのも楽しみながら、演劇界の"毒"が鬼才・松尾の手によってどこまで現実とシンクロする形で描かれるのか、興味津々。昨年秋に手がけたブロードウェイ・ミュージカル『キャバレー』でも、舞台の世界の人々とそれ以外の人々との生きる"リアル"の大いなるズレを切ないまでにあぶり出す演出が光った松尾のこと、"演劇"を描く演劇で今いったい何を問うのか、しかと見届けたい。

『女教師は二度抱かれた』
日程 2008年8月4日(月)~27日(水)
会場 Bunkamuraシアターコクーン(東京・渋谷)
作・演出 松尾スズキ
キャスト 市川染五郎、大竹しのぶ、阿部サダヲ、市川実和子、荒川良々、池津祥子、浅野和之、松尾スズキほか
料金 S席 9,500円、A席 7,500円、コクーンシート 5,000円

『ガラスの仮面』 - ニナガワが発掘した期待の新人登場!

演劇に人生をかける二人の少女を描く傑作少女漫画が、巨匠・蜷川幸雄の手で、音楽劇になって登場! 『ガラスの仮面』といえば、1976年に連載が開始された国民的人気漫画。一見平凡ながら並外れた演劇の才能をもつ主人公・北島マヤと、彼女の永遠のライバルである演劇界のサラブレッド・姫川亜弓が繰り広げるドラマティックな演技バトルを描くこの作品、今までにアニメ化、舞台化、ドラマ化されてきたものの、音楽劇となるのは初の試み。映画『ゲド戦記』や宝塚歌劇団星組公演『エル・アルコン-鷹-』等の作品に壮大なスケールの楽曲を提供してきた寺嶋民哉が、今回の作曲を担当している。

2,000人を超えるオーディションの中からマヤ、そして亜弓役に選ばれたのは、ミュージカル等で活躍中の大和田美帆と、今回が初舞台となる新人の奥村佳恵。二人の少女が主人公の役柄をかけて争う幻の名作「紅天女」の上演権をもつかつての大女優・月影千草役で、強烈な個性を放つ夏木マリがどんな演技を披露するかも見もの。演劇に情熱をかける女たちの生き様を描く物語を、演劇に情熱をかけてひた走り続ける演出家・蜷川はどう舞台に乗せるのか。この作品、おもしろくならないはずがない!

音楽劇『ガラスの仮面』
日程 2008年8月8日(金)~24日(日)
会場 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール(埼玉・さいたま)
青木豪
演出 蜷川幸雄
キャスト 大和田美帆、奥村佳恵、川久保拓司、横田栄司、立石凉子、月影瞳、原康義、月川悠貴、黒木マリナ、岡田正、夏木マリほか
料金 S席 6,000円、A席 4,000円

『幕末純情伝』 - 石原さとみが沖田総司に!? 幕末の切ない恋物語

幕末の志士、沖田総司は女だった!? そんな奇想天外な設定が話題を呼び、映画化もされたつかこうへいの傑作戯曲『幕末純情伝』が5年ぶりに舞台にお目見え。1989年の初演以来再演を重ねてきた人気演目ながら、原作者のつか自身が演出を手がけるのは18年ぶりのこと。演出家として新橋演舞場&京都・南座に初進出を果たす今回、大劇場の空間でどんなつかワールドを繰り広げるのか、期待に胸はふくらむ。

舞台では藤谷美和子や広末涼子が、映画では牧瀬里穂が演じたヒロイン沖田総司に扮するのは石原さとみ。2006年、『奇跡の人』のヘレン・ケラー役で初舞台初主演を果たして以来となる舞台、しかも一筋縄ではいかないつか作品に挑んで、どう新たな魅力を開花させるのか、楽しみな限り。彼女の恋のお相手、坂本龍馬を演じるのは、宝塚月組トップスターとして活躍し、退団後はライヴ中心に多角的に活動中の真琴つばさ。宝塚時代、スマートな男役ぶりで人気を博した真琴が、退団後初めて演じる男性役で拓く新境地にも期待したい。一風変わった男女の愛の形を、猥雑かついとも切なく描き出すつか作品に、フレッシュなキャストがどんな新風を吹き込むのか、要注目。

『幕末純情伝』
日程 2008年8月13日(水)~27日(水)
会場 新橋演舞場(東京・銀座)
作・演出 つかこうへい
キャスト 石原さとみ、真琴つばさ、吉沢悠、舘形比呂一、橘大五郎、矢部太郎、トロイ、若 林ケン、早坂実、山崎銀之丞、宇津宮雅代ほか
料金 1等席 9,000円、2等席 6,800円、3階 3,500円

あひるのひとりごと

夏休みも取らずに8月も観劇三昧の予定のあひること藤本真由です。『ガラスの仮面』といえば、少女の頃からのあひるの愛読書。一番心に残っているのは、卑怯な手で北島マヤを芸能界から追放した女優を、姫川亜弓が舞台上で演技によって叩きのめすエピソードですが、今回の舞台には出てくるのか。
さて、8月はいよいよ、宝塚星組によるブロードウェイ・ミュージカル『スカーレット・ピンパーネル』の日本初演の舞台が東京宝塚劇場で開幕。フランス革命の混乱の中、無実の罪で捕らえられた貴族たちを救おうと奮闘する正義のスーパーヒーロー、パーシー・ブレイクニー役で、実力派の呼び声高い星組主演男役・安蘭けいがどんな演技を見せてくれるのか、期待大!
藤本真由

舞台評論家。東京大学法学部卒業後、新潮社に入社。2001年に退社し、フリーに。以後、演劇を中心に国内はもとより海外公演のインタビュー・取材を手がけ、新聞・雑誌・公演プログラム等に記事を寄稿している。藤本真由オフィシャルブログ