ラジオ業界に関わる様々な人を掘り下げる連載「ラジオの現場から」。今回登場するのは、文化放送の太田英明編成局長だ。1986年の入社以来、アナウンサー一筋だったが、昨年10月付けで編成局長に就任。番組内で辞令が発表されるという前代未聞の出来事が話題になった。

アナウンス以外まったく経験がない状態で編成局長に就任。不安も付きまとうが、だからこそできることがあるはず。そんな太田氏が考える今後の文化放送とは? そして、ラジオ業界の未来とは?

■パーソナリティに向いている人とは…

  • 太田英明氏

    太田英明氏

――ラジオに対する面白さや楽しさという部分で、吉田照美さんや大竹まことさんといった、いろいろな方に影響を受けていらっしゃったんですね。そういう意味でいうと、太田さんはアナウンサーとして珍しいタイプなのかもしれません。

そうですね。同じジャンルがなくて。例えば、選挙特番も何回か担当したことがあったんですが、安倍晋三さん、小泉純一郎さんにもインタビューしましたし、野球のスタジオも担当しましたし、セクシー女優の方とも番組をやりましたし、これだけ幅広くいろんな番組をやらせてもらったアナウンサーはいないのかなという。恵まれてましたね。

――最近で言うと、壇蜜さんの『壇蜜の耳蜜』でもアシスタントをやられていました。

壇蜜さんとも7年ぐらい一緒に番組をやってました。最初の出会いは、壇蜜さんが芸能界で右肩上がりに急上昇している時で、なかなかスケジュールが取れない中、壇蜜さんが「ラジオをやりたい」とおっしゃっていると。そこで特番をやることになり、ようやくもらえたスケジュールがあって。番組のスタッフが「こういうことをやっていただこう」と綿密に考えて、打ち合わせに臨んだところ、「そういうことは一切やりたくない」と壇蜜さんがおっしゃったんです。

でも、収録のスケジュールはそこしかなくて、放送日も近づいてますので、この日に録音しないと放送できない。じゃあ、とりあえずオープニングをやってみましょうと、壇蜜さんの対面に私が座って、ディレクターがキューを振りました。そのとき、壇蜜さんが何を言ったかというと……「私、目隠しされているんですけど……。ここ、どこですか?」って急に話し始めたんです(笑)。

――壇蜜さん、さすがですね(笑)。太田さんとしては動揺するしかないでしょうけど。

それまで一切そんなこと言ってなかったのに、急に言い出して。「いや……ちょっと……。ラジオの放送に出ていただくために、ら、ら、拉致されたんです、あなたは」みたいに必死に返して、何とか番組になったんですね。それで気に入ってもらえたのか、ウマが合ったのか、それからずっと一緒に番組をやらせてもらいました。私のラジオ人生の中で、打ち合わせなしでいきなりそんなこと言いだしたのはあの人だけだったので、強烈なインパクトがありましたね。

――太田さんはどういう方がパーソナリティに向いていると思いますか?

タレントさんにも当てはまるかもしれませんが、いい意味での勘違いをし続けられる人だと思います。あんまり客観的に、冷静に自分を見ちゃうとしゃべれなくなってしまうところがあるので、「これが正しいんだ」「これが面白いんだ」と思ったら、周りの状況や空気を読まずに、突っ走るところがないといけないのかなと。

何を言っても、半数近くの人は批判してくるので、そこに気を遣ってまろやかな表現にすると、「面白い」と言ってくれる残り半分の人も失って、100%の人に無視されるということにもなるので。反対されることを恐れずに、自分の思っている信念を突っ走ってずっとしゃべり続けられる人がすごいのかなと思いますけどね。

――そういうパーソナリティのアシスタントをやられることも太田さんは多かったと思いますが、どんな部分を特に気をつけていましたか?

もちろん放送に乗せることを考えなきゃいけないので、バランス感覚はキチッと持たないといけないなとは思いましたけど、媚びたり、ヨイショしたり、おもねったりしないようにしようと考えていて。そういう突拍子もない人ほど、ゴマをすったりしない私を気に入ってくれるケースが多かったんです。石倉三郎さんや泉谷しげるさんのような強面の方にも、ゴマをすらないで普通に接していたら、気に入ってもらえたという経験が多かったですから。

■アナウンサーとして大事にしていること

――アナウンサーとして、自分の中で大事にしていることはなんでしょう?

それはラジオを聴いている方たちへのサービス精神というか。マイクの前に座れるんだったら、1人しか聴いている人がいなくても、全力でやろうといつも思っていますね。誰かに向けて発信しているのを忘れないようにしたいなと思います。さきほど話題に挙がった乃生さんとの番組(「ラジオの現場から」第10回参照)も、それほど長くやっていませんでしたが、それでもちゃんと覚えてくださっている方がいる。自分なりに全力でやることを大切にしてきたからこそ、そうやって思い出に刻んでくれている方がいるんだなあと、あらためてお話を聞いて思いました。

――そのリスナーの方は、太田さんとアイドル、太田さんと徳永さんという形の番組が好きで、今でもそういうスタイルの番組を聴きたいとおっしゃっていました。

私もやりたいですけどね。「あんまりやるな」と会社から言われてしまって(笑)。徳永さんとはいずれ『From C Side』を特番でもいいので復活させたいと思っているんです。ずっと文化放送には出てくださっていないんですよ。コンサートがあるたびにうかがって、「やりましょう」と言ってきて。

一昨年のツアーのときに、手紙も書いて、ライブにもおうかがいして、終わったあとにその話をしたら、「わかったよ。来年に新しいアルバムを出す予定だから、その時に行くよ」と言ってくれたんですけど、コロナで難しくなってしまって。私もこの立場でどこまでやっていいのかわからないんですが、心残りではありますね。