日本で最も売れているボルボ車「XC40」でもプラグインハイブリッド車(PHEV)が選べる。価格は649万円で国産のPHEVよりは高価だが、同じXC40のマイルドハイブリッド車(MHV)と実際の出費を比べると、最上位グレードとの差額は10万円程度。価値ある選択肢なのか、試乗で確かめた。

  • ボルボ「XC40」のPHEVモデル

    ボルボ「XC40」のPHEVモデル「XC40 Recharge Plug-in hybrid T5 Inscription」

ボルボの電動化に歴史あり

欧州メーカーの電動化シフトの早さは想像以上のものがある。中でも、「Drive-E」と呼ぶパワートレインで独自のアプローチを見せたボルボはいち早く先鞭をつけ、2017年には全ての車両を電動化する旨を表明した。これをあたかも電気自動車(EV)専門メーカーになるかのような誤ったニュアンスで報じたメディアもあったが、正しくは、全ての車種になんらかの電動駆動の要素を取り入れていくという意味だ。

実は、ボルボが電動パワートレインの開発に着手した時期は1970年代にまでさかのぼるという。「安全」と「環境問題」に熱心だったボルボにとって、決して唐突な方針転換ではないのだ。排出ガスを可能な限り低減し、持続可能な自動車社会を目指していくという意思を、明確かつ具体的に示したと受け取ればよい。

具体的な電動駆動化について見ると、ミニマムなほうは48Vマイルドハイブリッドシステム(MHV)を搭載(グレード名が「B~」のモデル)。本格的なほうではすでに、100%BEV(バッテリーEV、電気自動車のこと)である「XC40 リチャージ」のデリバリーが欧州で始まっている。

  • ボルボ「XC40」のEVモデル

    欧州ではEV「XC40 Recharge(リチャージ)」のデリバリーが始まっている。フル充電での航続可能距離はWLTPモードで400キロとのこと

DCT復活! PHEVの実力は?

MHVとEVの架け橋となるのがPHEVだ。ボルボはPHEVにいち早く取り組んでおり、90/60シリーズでは数年前からラインアップしてきた。「XC90」「V90」「XC60」には最高出力318psを発生する高性能版の「T8」、「V60」「S60」には同253psの「T6」というターボとスーパーチャージャーを組み合わせ2.0リッター直列4気筒のDrive-Eエンジンを搭載して前輪を駆動。後輪は65kWのモーターと10.4kWhのリチウムイオンバッテリーで回すセパレート式のAWDとしている。

さらに、2020年夏には日本で最も売れている「XC40」にもPHEVを追加した。そのシステムは既出の90/60シリーズのものとは全くの別物だ。しかも、1.5リッター3気筒のDrive-Eエンジン(180ps)に、偶数ギア側の出力軸に60kWのモーターをマウントした7速DCTを組み合わせ、前輪を駆動するという仕組みだと聞いて驚いた。ここまで読んでピンときた人もいることだろうが、この構造、ホンダが小型車向けに開発して世に送り出すやたびかさなるリコールに見舞われ、すでに廃止する旨を示している「i-DCD」に非常に似ていたからだ。

  • ボルボ「XC40」のPHEVモデル

    「XC40」PHEVのボディサイズは全長4,425mm、全幅1,875mm、全高1,660mm、ホイールベース2,700mm。10.91kWhのリチウムイオンバッテリーを積んでいて、フル充電であれば約41キロのモーター走行が可能だ

一時期のボルボはDCTを積極的に導入していたが、故障や耐久性への懸念から、いち早く廃止の方向に舵を切っていた。当時、すでに出来のよいトルコンATを工面できていたボルボにとって、DCTを使うメリットはないと判断したからだ。それが、こうした形でDCTが復活したことも興味深い。

なお、PHEVについてボルボは、前輪をエンジン、後輪をモーターで駆動し、前後に分かれた動力源を持ち、双方とも主役であるとの認識から「ツインエンジン」と呼んでいたが、現在はBEVを含め、外部から充電可能なタイプは全て「リチャージ」と呼称を統一し、プラグインハイブリッドについては「リチャージ プラグインハイブリッド」と呼ぶことにしている。

その「XC40 リチャージ プラグインハイブリッド」は、果たしてどんな走り方をするのか。興味津々の思いで走らせてみると、DCTにありがちなギクシャク感はなく、危惧していたことも全く気にならなかった。いたってシームレスな加速フィールを実現していることには感心した。

  • ボルボ「XC40」のPHEVモデル

    パワートレインは最高出力180ps、最大トルク265Nmの3気筒1.5リッター直噴ガソリンターボエンジンに81ps/160Nmの電気モーターを組み合わせる

バッテリーに電力が十分に残った状態であれば、ごく普通に走るぶんにはモーターのみが稼働する。スルスルとなめらかに走り出し、DCTが変速する際にもモーターが微妙にアシストしているようで、トルクの途切れや変動も気にならない。アクセルを踏み込むとエンジンがかかり、より力強く加速することができる。

モーターによるアシストは、よほどでなければほぼ2速に固定されると思ってよいが、条件がそろうと2速から4速に変速する仕組みで、変速時にはややタイムラグがある。

奇数段ではなく偶数段にモーターを配する点がホンダのi-DCDとの大きな違いで、回生時には1速よりも2速のほうが減速比が小さいため、回収できる電力も小さくなるわけだが、アクセルのオン/オフで生じがちなカクカクとした動きも小さく、スムーズに走れる点でメリットは大きいように思えた。

パッケージング面では、もともとこのプラットフォームは本格的な電動化を視野に入れて開発されており、エンジンルーム内にインバーター、トンネルコンソールにリチウムイオンバッテリーを配置するなどしているおかげで、車内空間や荷室への影響がほとんどないことも特筆できる。

  • ボルボ「XC40」のPHEVモデル

    「XC40」のPHEVは649万円、MHVは409万円~589万円だ

アラを探すと、強めの加速を要求してエンジン回転が高まったとき、3気筒特有の音がやや安普請に感じられることと、バイワイヤのブレーキフィールに若干のクセがあるぐらいだが、大きな問題ではない。それと、XC40のMHV版では選べるスポーティーな「R-DESIGN」がPHEVでは選べない。

現状、PHEVは「T5 インスクリプション」のみの設定で、MHVのようにスポーティーな「R-Design」や走破性に優れるAWDの設定はないが、装備の違いや税制面での優遇、補助金などにより、MHVの最上級グレードである「B5 AWD R-Design」との実質的な価格差は10万円程度と小さい。むろんMHVも魅力的ながら、経済性や先進性はもとより、快適な乗り心地や意のままに操れる素直な操縦性といった1台のクルマとしての完成度も、PHEVは印象的な仕上がりであることを念を押してお伝えしておこう。