「Intuos4」に用意されている様々なオプションペン。それぞれ形状が異なったり、ボールペンが内蔵されたりと個性的だが、その中で、性能的にもっとも注目したいのが「アートペン」だ。アートペンは一見、標準のグリップペンと非常に良く似ているが、「回転検知」に対応しているのが最大の特徴だ。

アートペンは見た目は標準のグリップペンとほぼ同じ(ほんの少しだけ太い)。しかし芯は独自のもので、性能も他の電子ペンでは対応していない「回転検知」に対応している

Intuos4は電子ペンの「座標」、「筆圧」、「傾き」、「回転」の4つの情報をPCに伝えるのだが、どの検知機能に対応しているかは電子ペンによって異なる。標準のグリップペンや、前回紹介したクラッシックペン、インクペンはこのうちの3つ「座標」、「筆圧」、「傾き」にのみ対応していて、回転に対応しているのは今回紹介する「アートペン」と「マウス」のふたつだけなのだ。

「座標」「筆圧」についてはこれまでも述べてきたが、「傾き検知」と「回転検知」とはどのようなものなのだろうか。「傾き」とは、電子ペンとタブレット本体面の傾きを検知する。電子ペンをどの方向にどれくらい倒しているかを検知してくれるというものだ。実物の筆を立てて描くと細い線が描け、寝かせると幅の太い線が描けるというのに近いイメージだ。これに対して、回転とはペン軸そのものの回転を検知してくれる機能だ。

傾きは盤面に対するペンの角度及び方向。回転はペン軸そのものの回転方向。このふたつの検知は「Intuos4」の大きな特徴で、普及機である「Bamboo」には備わっていない。

これらの検知情報をどのように使うかは、アプリケーション次第。ここでは、4つの検知すべてに対応している「Photoshop CS5」を例に説明しよう。

最もわかりやすいのはファン形状のブラシだ。ファンブラシは、アナログの絵画では風景画で樹木の繁を描いたり、先がバラバラなのを利用して平行線状のストロークを引くのに使用される先端が扇状に開いたブラシ。Photoshop CS5のファンブラシはペンの傾きがブラシの接地面積、筆圧が濃さになるため、筆先ひとつで、アナログのファン筆同様、様々な向きに向けながらペイントすることができる。ペンの傾きと方向を変えると、ブラシの向きも変わるが、回転に対応していないグリップペンでは穂先が細くなってしまう。横方向のストロークなら幅広だが、縦方向だと幅が狭くなってしまうわけだ。これに対し、アートペンでは軸を回転させることで、穂先の向きを自由に変更することができる。これにより、どの方向に描くときでも、ペンだけで描ける幅を自在に調整できるというわけだ。

ファンブラシの実物(かなり使いこんだもの)。このファンブラシや、エッジのきいた平筆など扁平した筆は、向きによって幅を変えられるのが特徴

「PhotoShop CS5」のファンブラシ。PhotoShop CS5ではペンタブレットの傾きと軸の向きをリアルタイムで画面上に表示してくれる

左の黄色のストロークは「PhotoShop CS5」でグリップペンで描いたもの。ブラシが回転しないので、縦方向のストロークと横方向のストロークで幅が変わってしまっている。これに対し、右の青のストロークは「PhotoShop CS5」でアートペンで軸を回転させながら、ブラシの向きを調整して描いたもの。こちらは、どの向きでも任意の幅で描くことができる

ファンブラシほど特殊でなくても、通常の平筆(扁平した円のブラシ)でも、回転検知は威力を発揮する。通常、平筆は進行方向に向けて、自動的に回転するようになっており、描ける幅は一定。それに対し、アートペンを使えば、筆先の向きをコントロールすることができ、軸の回転ひとつで、極細と幅広を使い分けることができる。

「PhotoShop CS5」では「シェイプ→回転のジッター」のコントロールを「回転」にすることで、ペン軸の回転でブラシの回転がコントロールできるようになる。ただし、画面上のポインタ形状は回転しない場合がある

Photoshop CS5や「ArtRage」など、ほとんどのグラフィックアプリケーションでは、こういった平筆を使うときに「進行方向にあわせる」という機能が搭載されており、回転検知機能がないグリップペンでも、ブラシを動かす向きにあわせて筆先が自動で回転し、最大幅で描くことができる。しかし、これらの機能はあくまでも自動なので、仕上がりが機械的になってしまう。自分で自在に筆先の向きをコントロールすることで、自然なタッチが再現できるのだ。

ファンブラシを使って描いた樹。軸を廻すだけで穂先の向きを変えられるので、とても自然な感覚で描ける

こういった「方向性のある描画」を想定し、アートペンのペン先は標準ペンの替え芯とはまったく互換性のない形状となっている。通常のとがった形状のペン先と、マーカーのような、斜めにカットされた角形(彫刻刀型)のペン先が付属していて、それぞれ、すべりやすいポリアセタール素材と、摩擦のあるフェルト材質のペン先が用意されている。角形のフェルトペン先をつけると、イラストレーターに絶大な支持を得ている「コピックマーカー」同様の書き味となる。コピックマーカーに慣れている人にはオススメだ。

彫刻刀型の芯はサイドスイッチ側に平べったい面が来るようにセットする。これで「PhotoShop」のブラシの向きと一致する

もちろん筆圧、軸の傾きにも対応しており、PhotoShopや「comic studio」ではそれぞれの検知を筆先の向き、太さ、濃さなど自由に割り当てることができる。残念ながらストローク芯は用意されていないが、グリップペン用のストローク芯も一応流用することはできた。ただし、多少グラグラするので、使用の場合は自己責任で試してほしい。

回転機能は非常に便利だが、残念なのは対応しているアプリケーションが限られている。対応しているは「Illustrator」、「PhotoShop」、「Painter」シリーズ、「comic studio」など。もちろん通常の傾き&筆圧のみを使ったセカンドペンとしても使えるが、回転機能を使いたいなら自分が使っているアプリケーションに対応しているかどうか、しっかり確認してから導入してほしい。

次回はオプションペンのエアブラシペンを試す予定だ。

Illustration:まつむらまきお