いよいよ、1番札所の霊山寺に到着する。奈良時代、霊山寺は行基という僧侶が建てたお寺だ。空海が天竺(インド)の霊山を日本(和国)にうつすということから天竺の「竺」+和国の「和」で、この寺を「竺和山(じくわさん)霊山寺」と名付けて、第1番の霊場としたそうだ。

「竺和山 霊山寺」の本堂

着いたはいいが、どこでどうしたらいいのか勝手がよくわからない。お寺の周りにはお遍路のグッズ屋さんがあちこちに並んでいる。そこでグッズを買うべきか? とも思ったが、とりあえずお寺の本堂に向う。さすが1番の札所だけあって、本堂の中にお遍路さん用のすべての品がそろう売店が併設されていた。本堂の売店に行くとお客は誰もいなかった。どうも、私が訪れた6月は梅雨時でお遍路のシーズンオフに当たるらしい。

ようやく白装束に身を包み、お遍路モードに

売店で暇そうにしているお店の人に「お遍路の道具を一式揃えたいんですけど……」と言うと「いるのは、まずこれ」といって"白衣"を差し出された。そして、「杖もいるわね。カバーがあるタイプとないタイプがあるので好きなのを選んで」と言われ、値段が安いカバーなしを選ぼうかと思ったけれど、やはりカバーがあったほうが持ちやすいかなと思い直し、紫色のカバーのついた杖をチョイスする。杖の先端はよくお墓で見かける卒塔婆のような刻みが入っている。卒塔婆は元々、お釈迦さまの遺骨が埋められた五輪塔の簡略されたもので、空、風、火、水、地を表し、全体で仏教の宇宙を表現しているという。だから実際にはこの杖のカバーは持ちやすくするためのものではなくて、この卒塔婆を保護するためのものだと後ほど知った。杖は、弘法大師さま(つまり空海さま)の身代わりでもある。歩いている間、弘法大師さまと2人という意味で、「同行二人」と書かれているのである。

そして「笠もいるわね。値段は気にせず、大きいのと小さいのをかぶってみて合う方を選びぃ 」といわれる。値段が小さいのは1,300円大きいのは3,150円と値段が約2倍違う。しかもかぶってみてもどっちが合うのかわかんなくて迷っていたら、お店の人が「リュックに笠はあたる? 」と聞いてくる。私のリュックはかさ高ではないので、笠はリュックにあたらなかった。続けて「歩き? 車? 」と聞かれる。「歩きです」と答えると「歩きやったら女の人は日焼けのこともあるし大きいほうがいいのとちゃう? 」と言われ、大きいのを選ぶ。「ゴムだと車の風にあおられて飛びやすいからヒモつけたるな」と手際往くヒモまでつけてくれ、「梵字の書いて有るほうが前な」と丁寧に教えてくれる。その後、「納経帳もそこにあるから好きなのを取って」をといわれ、小型のものをチョイス。首にかける輪袈裟も色を選ぶのに迷うがとり合えずオレンジを選ぶ。そして、お寺に納めるしおりお札や納経帳をいれる白い"さんや袋"、白いズボンも買う。ズボンはジャージ素材で歩きやすそうだ。ロウソクと線香は100円均一であらかじめ買っておいたし、お数珠も持参したが、それでもなんやかんやで1万7,000円もかかった。「頭汗をかくからこれ笠に巻いてつかい」と霊山寺の手ぬぐいをサービスとしてつけてくれた。

お遍路で必要なものは意外と多い

てきぱきとお遍路の道具を揃えてくれ、オマケまでつけてもらえて、さっそく四国ならではのお接待を受けた気分だ。最後にお店の人に「パンフレットに書いてあるお経のココを読んで、それからココを3回ずつ読んで、そのお寺のご本尊さんの真言を読んでお経を読んで終わり」と説明を受ける。「あのう、ズボン履き替えたいんですけど」と言うと「奥の座敷で着替えてき」 といわれ奥の座敷で、今まで着ていたTシャツも白いシャツに着替え、ズボンも着替え、白装束になる。すっかりお遍路ぽくなって気分も盛り上がった。

白装束に着替え、霊山寺の立て看板と

手水場で手と口を清める

ふと気がつくと、売店の隅の畳のテーブルのところでいつの間にかいた4人の女性客が、 白い札に自分の名前と住所を書いている。そうだ! 各お寺の本堂と大師堂にお札を納めるんだから、私も書かなきゃと、そのお客さんに交じっていっしょに名前と住所を書く。しかし、住所を全部書いてしまうと個人情報が漏れてしまうのではないのかな……と思ったりもしたが、住所全部は書かなくてだいたいでもよかったらしい。そうして住所と名前を書いた札を、買ったばかりの白いさんや袋に入れ準備万端。

本堂に戻り、お店の人に貰ったパンフレットを広げてどぎまぎしていると、今度は本堂内の隅にある売店のおばちゃんが「これからお経を唱えるの? いっしょに唱えよ」と言ってくれ、「お数珠は、弘法大師の絵が入っているほうが右ね。あら、おねいちゃんのには何も描かれてないのやね。ほんならどっちでもいいわ。で、右手の人差し指に数珠をひっかけて一回ひねって左手の薬指にかけんや。そしてすりあわせて拝む。そして左手にお数珠をかけて、お経を唱えるんよ。まず、ここを唱えてね」と拝むべきお経の部分を指さして教えてくれ、一緒に唱える。

納札を収めているところ

納経しているところ

そのおばちゃんは途中でお客さんが来たため、一時お経を中断したが最後まで一緒に唱えてくれた。ウワサに聞いていたとおり、四国の人は親切である。おかげで、何となくだがお経の読み方もわかった。次は大師堂に向かい、ロウソクにライターで火をつける。他の人のロウソクから火を貰うと、そのロウソクの人の災難も引き受けることになり良くないらしい。ロウソクは後の人がロウソクを立てやすいように奥の方に挿す。 そして線香3本に火をつける。なんで3本かというと、人間の貪り・ 怒り・愚かさの三悪を懺悔するためとされているほか、仏(お釈迦様)・法(その教え)・僧(その教えを正しく伝えるもの住職他)の三宝に感謝するため、過去・現在・未来へ供養するため、有縁仏・無縁仏・ご本尊様にお供えするためなど様々な意味があるとされている。1番目の札所でお遍路の具体的な作法も身につけられたので、これから先も何とかなるかな、と思った。ここで知人とも別れ、いよいよたった1人だ。

次は、2番札所「極楽寺」を目指す。

門前で合掌、一礼。2番札所へ向かう