5月に入り、自動運転に関するニュースが海外で立て続けに報じられた。5月6日、ボルボは一般参加者による自動運転実験計画を発表し、GoogleとFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)は自動運転車での提携を発表した。同じ日にGM(ゼネラルモーターズ)とリフトは自動運転タクシー公道実験を発表している。

自動運転に関するニュースが続々と報じられた(写真はイメージ)

米国では、自動運転車を開発する5社が法整備などを働きかけるロビー団体を設立したとも伝えられている。4月25日から5月4日まで開催された北京モーターショーでも、自動運転車は何台も公開され、目玉のひとつになっていた。

自動運転車の開発に各社がしのぎを削っていることはよく知られているが、これほど早いタイミングで複数の大きな動きがあると予想した人は少ないのではないだろうか。部分的に自動運転を実用化したモデルも多数発売されているとはいえ、やはりドライバーのいないクルマなど遠い未来の話と思うのが普通だ。

しかし、現実は時としてSFを超えてしまうようだ。ボルボは数年前から「ドライブ・ミー」と呼ばれる自動運転の開発プロジェクトを推進している。2年前には地元であるスウェーデンのイェーテボリ市で、100台もの自動運転車を走らせる実証実験を実施した。日本ではあまり知られていないが、自動運転にかけてはトップを走っている企業のひとつだ。今回は英国のロンドンで2017年に大規模な自動運転実証実験を行うと発表した。ボルボにとってアウェイであり、世界有数の大都市での実験は注目を集めるだろう。

ボルボの自動運転の特徴は、明確に「安全」にフォーカスしていることだ。ボルボは「2020年までに、新しいボルボ車での死亡者や重傷者をゼロにする」という安全目標「VISION2020」を掲げており、自動運転もその実現のための手段というわけだ。ボルボは自動車メーカーとしては小規模な部類だが、スウェーデン政府の全面的なバックアップを受けているという強みがある。

GMも自動運転に注力 - あの企業への対抗か?

何年も前からコツコツと開発を続けてきたボルボと対照的なのがGMだ。今回、自動運転タクシーの公道試験走行を1年以内に開始することを発表したが、その運営は自動車相乗りサービスのリフトが担当。肝心の自動運転技術はクルーズ・オートメーションの技術を活用する。GMはクルーズ・オートメーションを10億ドルで買収する予定で、リフトには5億ドルの出資をする予定。自動運転のために合計約1,600億円を出すわけだ。

さらに、GMは自動運転車として電気自動車のシボレー「ボルト」を利用する計画で、自動運転と電気自動車を一挙に普及させる目論見だという。しかし、自動運転車の開発がまだ道半ばである中で、先走りすぎという気がしないでもない。

GMが突如として自動運転に注力し、先を急ぐのには理由がある。自動運転でトップを走るGoogleに対抗するためだ。そのGoogleはFCAとの提携を発表した。Googleはこれまで、トヨタ・レクサスのモデルを自動運転車に改造、または自社で開発した車両を使用してきたが、今後はクライスラーのハイブリッドミニバン「パシフィカ」を使用する。

Googleはトヨタと提携していないので、トヨタ車については購入し、独自に改造していた。今後は「パシフィカ」の提供を受け、自動運転車への改造もクライスラーとの共同開発になる。当然、自動車としての完成度は高まるはずだ。これを量産するという発表はないが、量産を前提とした開発だったとしても、もはや驚くには値しないだろう。

世界中の自動車メーカーが自動運転に力を入れる理由は

その他にも、アウディが無人のレーシングカーをサーキットで走らせ、驚異的なラップタイムを記録したり、ジャガー・ランドローバーがスマホでラジコンのようにコントロールできる機能(人間の操作に従いつつ、障害物や歩行者に衝突しないよう自律走行する)を発表したりと、それぞれ個性的なアプローチで自動運転を開発している。

こうした自動運転車の開発競争の中心にいるのは、やはりGoogleだ。日本では実感しにくいが、米国のインターネット企業の猛威はすさまじい。インターネット自体が米国で生まれたものだが、政府はこれが成長分野とみると、その黎明期からインターネット企業の育成に力を注いだ。その結果、Google、Yahoo、Facebook、Twitterなど、世界規模のインターネット企業はそのほとんどすべてが米国の企業となっている。

参考までに、株式時価総額を見ると、世界のすべての企業のランキングで1位にApple、2位にアルファベット(Googleの親会社)が最近の定位置となっている。アルファベットの時価総額は、世界一の自動車メーカーであるトヨタ自動車の約2倍だ。生産台数ならトヨタに拮抗するGMの時価総額はその数分の1でしかなく、最近ではインターネット系のベンチャー企業であり配車サービス(乗合いタクシー)事業を行うウーバーがGMの時価総額を上回ったことがニュースになった。

つまり、現在の状況はトヨタやGMから見ても「自社よりはるかに巨大な資金力を持つ企業が、自分たちの業種に参入してくることがほぼ確実な状況」なのだ。それを認識すれば、世界中の自動車メーカーが自動運転に力を入れるのは当たり前ともいえる。自動運転車が市販されるのは2020年頃といわれるが、そこで主導権を取るのはGoogleか、それとも既存の自動車メーカーなのか、興味が尽きないところだ。