「ゲームソフトを借りていった友人が翌日に引っ越しをし、ゲームソフトが戻ってこなかった」――。こういった理不尽な状況に遭遇して沸々とした怒りを覚えた経験を持つ人もいるのではないだろうか。

このケースのように、日々の生活において社会通念上、「モラルに反するのではないか」と感じる出来事に遭遇する機会は意外と少なくない。そして、モラルに欠ける、あるいは反していると思しき行為であればあるだけ、法律に抵触しているリスクも高まる。言い換えれば、私たちは知らず知らずのうちに法律違反をしている可能性があるということだ。

そのような事態を避けるべく、本連載では「人道的にアウト」と思えるような行為が法律に抵触しているかどうかを、法律のプロである弁護士にジャッジしてもらう。今回のテーマは「新幹線の指定席の無断利用」だ。

  • 指定席の乗車券を持たずに、空いている指定席を利用するのはセーフ? アウト??

東京のとある出版会社に勤める42歳の男性・Dさんは毎年、お盆と正月に福岡県にある実家に帰省している。不惑を過ぎても独身でいることに両親は「いい加減に結婚を……」と口うるさく言ってはくるが、それでも自分を育ててくれた恩も感じているため、年に2回は欠かさずに実家に顔を出すようにしている。

ある年のお盆休み。普段だったらかなり前もって新幹線の指定席を購入するのだが、そのときは仕事が多忙だったこともあり、チケット購入のタイミングがいつもより大幅に遅れてしまった。チケットの手配をしようと思ったときには、希望する便はグリーン車を含めてすべて満席となっており、自由席での帰省を余儀なくされてしまった。迎えた帰省日当日。乗車率は150%とあり当然、自由席に空きはない。しかも、タイミングが悪いことに帰省の3日前、ランニング中に足首を痛めてしまっていた。立ったり歩いたりはできるが、痛みが伴うため、いつも以上に座席に座りたい気持ちに駆られていた。「博多までの約5時間を立ちっぱなしで耐えないといけないのか……」。Dさんは乗車後間もなくにして気がめいってしまった。

だが、ふと指定席の車両に目を向けると1席分の空きスペースを発見した。人が座っている気配はない。新幹線は既に新横浜駅を通過していたため、通常であれば次に停車する名古屋駅までは人の乗り降りはない。「誰も使っていないのであれば……けがもしているし、ちょっと足を休めるだけだ」。そう思ったDさんは指定席のチケットを持たずにその余っている席に腰かけ、名古屋駅まで座ったまま移動してしまった。

このようなケースでは、Dさんの行為は法律違反にあたるのだろうか。安部直子弁護士に聞いてみた。