秋まだ浅いある日、筆者は嵐電に乗り、京都の街を訪ねてみることにしました。嵐電は京福電気鉄道が運営する路面電車。嵐山本線・北野線の2つの路線があり、嵐山をはじめ、京都市内の観光に役立つ路面電車です。

嵐電は広隆寺の楼門の手前を通過していく

阪急京都線の大宮駅で下車し、階段を上って駅の外に出ると、交差点を挟んだ反対側に嵐山本線四条大宮駅の駅ビルが建っています。嵐山本線はここから嵐山駅へ向かう路線で、途中の帷子ノ辻(かたびらのつじ)駅で北野線が分岐し、北野白梅町駅へ向かいます。嵐電の電車はおおむね1両ワンマンで運行されています。

四条大宮駅を発車した電車は、専用軌道を快調に走行し、西院駅に到着します。ここも近くに阪急京都線の西院駅がありますが、阪急が「さいいん」と読むのに対し、嵐電の駅は「さい」。実際、地元では「西院」と書いて「さい」と読むらしいです。

嵐山本線の四条大宮駅。阪急京都線と接続

併用軌道区間を走る嵐電

嵐電は西院駅の次の西大路三条駅を発車した後、併用軌道となって一般道を走ります。「急停車にご注意ください」という内容のアナウンスが流れ、これが路面電車だったことをようやく思い出します。蚕ノ社(かいこのやしろ)駅で途中下車して、木島神社に寄り道しました。嵐電は全区間均一200円ですが、500円のフリー乗車券を買うと1日乗降り自由となります。これを持っているおかげで気ままに乗降りできて、いい感じです。

木島神社(最寄り駅は蚕ノ社駅)は特異な形の三柱鳥居で知られる

さて、木島神社(通称「蚕ノ社」)もまた、かなり不思議な感じの気が満ちたスポットです。なんといっても境内の左奥にある、珍しい三柱鳥居(三本足の鳥居)が神秘とロマンに満ちあふれてるんですね。蚕ノ社駅の隣、太秦広隆寺駅は京都最古の寺院である広隆寺への最寄り駅。広隆寺は京都の3大奇祭のひとつ「牛祭」でも知られていました。現在は不定期開催、しかも10年ほど前から絶えてしまってますが……。

北野線が分岐する「帷子ノ辻(かたびらのつじ)」という駅名もまた、いかにもいわくありそうな名前です。ここで北野線に乗り換え、北野白梅町方面へ向かいます。途中、鳴滝~宇多野間の「桜のトンネル」は、当連載第13回でも紹介しましたね。いまは桜の葉が少し赤くなっていて、この先もうちょっと経つと、たぶんきれいになると思います。

北野線の沿線風景は、京都市内とはいえ、どことなくローカルな雰囲気でいい感じ……、と思っていたら、終点の北野白梅町駅は意外にも普通の京都の街中でした。駅舎は少し古い建物ですが、とりたてて絵になるというようなものでもなく、神秘やロマンも感じなかったので、さくっと折り返すことにします。

北野白梅町駅。モボ21形(27号車)が折り返していった

再びキャタピラ……もとい帷子ノ辻駅で乗り換え、今度は嵐山方面へ向かいます。嵐電はその名の通りといいますか、やはり嵐山をメインに考えているのでしょう。駅としてのつくりも、嵐山駅が一番立派です。着物の生地を取り入れた円柱がたくさん並ぶ中、電車は静々とホームに着きます。改札を出ると、そこはもう嵐山。

いうまでもなく、嵐山は京都の一大観光スポットです。秋のシーズン、休日ともなると、ものすごい人出でにぎわいます。筆者が訪れたのはまったくの平日だったのですが、それでも嵐山のメインストリートは、リタイヤ世代の人たちや外国からのお客さんを中心にたいへん混雑していました。

嵐山の定番紅葉スポットといえば宝厳院。ここは夜間にライトアップもされ、妖しいほどに美しいです。嵯峨野に向けて歩けば、化野念仏寺、清滝トンネルなど、当たり前に異界につながってそうな魅惑のスポットもたくさんあります。さすがは京都と、ここでも感じます。異界や魔界の香りがしない都市なんて、魅力が薄い気さえするんですよね、本当に。

嵐山本線の終着駅、嵐山駅は「はんなり・ほっこりスクエア」として整備された

冬には雪の金閣寺、春にはあまたの桜の名所、夏は絢爛豪華な祇園祭、そしていまは紅葉真っ盛り。嵐山以外にも、清水寺、南禅寺、東福寺と、全国レベルの有名紅葉スポットがそこここにあります。そんな京都に、大阪からだと片道400円程度で来られるんです。

とにかく京都は一度来たらハマる街。油照りの真夏や底冷えの真冬の京都はエキスパート(何のや?)向けですが、秋の京都はどなたにもおすすめいたします。京都に来たら嵐電に乗って、異界を感じさせる魅惑のスポット巡りなんていかがでしょう?