「InRed」2013年10月号

ananの"女子卒業"特集

「anan」の9月11日号は、「大人の女性になるために、今すべきこと。」という特集が組まれ、表紙には、「もう、"女子"は卒業です!」というコピーが躍っていました。

中身を見てみると、「"女子"と言っていいのは28.7歳まで」「いい年のコドモ女子はイタイ」「アラサーの半数近くは"女子"という言葉に違和感アリ!」などと、「女子」という言葉はけっこうな嫌われよう。

もちろん、その気分はよーく分かります。アラフォー世代の自分も、第三者を呼ぶときの総称としてだったら「女子」という言葉を使ってもいいと思うけれど、自分のことを「女子」というのは気がはばかられます。ananが言いたいのは、「女子」という言葉にしがみついて、いつまでも大人になりきれない、未成熟な人への警告であり、自分たちはそうならないようにということなのでしょう。

30代を過ぎても「女子」は未熟?

でも、30代を過ぎても実際に「女子」という言葉を使っている人は、本当に未成熟で大人になることを拒否しているコドモ女子なのでしょうか。

例えば、創刊時から「女子」という言葉を使い続けてきた「InRed」を見てみると、最新の2013年10月号でも、堂々と「30代女子は大人ボーイッシュ!」という文字が躍っています。

別に「女子」という言葉を使っているからと言って、誌面から、大人や成熟を拒否して「かわいい」に固執している感じは見てとれません。よくよく考えると、InRedにおける「女子」とは、未成熟や「かわいい」を追求することとは無関係なのかもしれません。

また、女性誌の中で女性を表す言葉には、「女子」のほかに、「女」や「オンナ」、最近の女性誌だと「メス」というものなども出てきました。女性性を強調した誌面作りをする雑誌では、「女」や「オンナ」「メス」という言葉を使いますが、InRedの場合は、ファッションを見ても、読み物ページを見ても、ジェンダー的な「女」の記号があまりない雑誌なので、こうした言葉は生々しすぎてあわないのでしょう。

そんなこともあって、InRedでは「女子」という言葉を選んだのだと思われます。そこには、いつまでも子どもでいたいという意味あいは低いのです。

「女子」への罪悪感は、世代間の微妙な心境に関係

では、「女子」という言葉には、そこまで「未成熟」という記号はなさそうなのに、なぜ若い女性たちは「女子」という言葉に拒否反応を示すのか。そして、一部の敏感なアラフォー女性は、なぜ「女子」という言葉を使うときに罪悪感を持ってしまうのか。それは、世代間の微妙な心境に関係があるのかもしれません。

例えば、お笑い芸人の世界を見ても、ものすごい数のアラフォーの芸人がひな壇の席を独占してはいるけれど、ダウンタウンのような確固たる地位にはつけていない。言い換えれば、「大人若手」がいっぱいいるせいで、20代、30代の本当の若手は頭打ちでいつまでたっても上に行けないということはあるでしょう。

しかも、「大人若手」たちは経験豊富の手練れぞろい。どんな場所でも、どんなシチュエーションでも、うまいこと立ち回ってしまいます。でも、彼らのほとんどはロスジェネ世代。これまでの人生がずっと順風満帆かというとそうではなく、長い下積み時代に、芸と、それ以外の特技やキャラクターを身に着け、アラフォーにして初めてやっとつかんだのが今の立場だったのです。

若い女性はアラフォー女性に早く大人になってほしい

この芸人の構図を女性の世界に置き換えてみると、ダウンタウンは頭ひとつ抜けて違うステージに行った理想の大人女性で、アラフォー芸人たちは、いつまでたっても「女子」の座を若い女性たちに明け渡してくれないロスジェネ世代の大人女子、そして若手芸人は、いつまでも女子だと思ってるアラフォー女性たちに早く大人になって! と願う20代、30代前半の女性であると言えそうです。

そして、若い女性たちは、早く「大人女子」に自分たちと違うステージに行ってほしいのでしょう。でも、こうした構図は今までにもあったので、無駄にあおられて対立する必要もありません。だって、今の「大人女子」であるロスジェネからすると、「バブル世代」はずっと目の上のたんこぶでした。

だから、バブル世代を象徴する存在である「美魔女」に対して、「イタい」だの「いつまでも若さにこだわるなんてみともない」と言っていたのです。これって、若い世代から「大人女子」に投げかけられる言葉とまったく一緒じゃないですか!

つまり、ロスジェネも、その下の世代にとっては、目の上のたんこぶになったんだということが「女子」という言葉を嫌がる心理から見えてくるのです。それって矛盾しているけれど、実は、ロスジェネも「大人になった」「やっと社会に認められた」ってことじゃないのかなあ……。

<著者プロフィール>
西森路代
ライター。地方のOLを経て上京。派遣社員、編集プロダクション勤務を経てフリーに。香港、台湾、韓国、日本などアジアのエンターテイメントと、女性の生き方について執筆中。現在、TBS RADIO「文化系トーラジオLIFE」にも出演中。著書に『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)、共著に『女子会2.0』(NHK出版)などがある。