連載コラム『知らないと損をする「お金と法律」の話』では、アディーレ法律事務所の法律専門家が、具体的な相談事例をもとに、「お金」が絡む法的問題について解説します。


【相談内容】
わたしはよくインターネットショッピングを利用するのですが、先日ちょっと奮発して憧れのブランドバッグを注文しました。商品が届き、友人に自慢をしたら、「これは偽物だよ!」と言われてしまいました。ブランドに詳しい友人で「本物にはバッグの内側にブランドマークのタグが付いているはずだ」と言われ、調べたところ、実際、本物にはタグが付いていました。わたしのバッグには付いていません。確かに、本物の割には安かったのですが…騙されました。ネットショッピングでの購入ですが、返品できますか?

【プロからの回答です】

本物として購入したものが、実際は偽物だった場合、法律上、返品はできます。ただし、偽物を本物と偽って売るようなサイトであれば、なかなか返金に応じてくれないでしょうし、急に連絡がつかなくなったりして、結局、返品手続きができないおそれもあります。

"クーリングオフ"制度とは?

今回のように、「商品を購入したけれどやっぱり取り消したい」という場合、まず思いつくのがクーリングオフでしょうか。クーリングオフというのは、「消費者が訪問販売などの不意打ち的な取引で契約したり、マルチ商法などの複雑でリスクが高い取引で契約したりした場合に、一定期間であれば無条件で、一方的に契約を解除できる」という制度です。

訪問販売や電話勧誘などの契約においては、消費者側が冷静な判断ができないままに思わず購入してしまうケースも多く、「考え直して、やっぱり契約を取り消したい」という場合にこれを取り消せるようにしたものです。いわゆる消費者保護のための制度ですね。

このような趣旨から、クーリングオフ対象の取引については、「消費者側の判断が難しい」取引に限定がされており、「騙された」など特段の理由がなくとも「やっぱりやめた」という理由のみで、売買契約を取り消すことができます。

クーリングオフをするためには、「所定の書面の交付を受けてから8日(取引によっては20日)以内」に、「書面で取り消しの意思表示」をすることが必要です。

この8日という期間は、「書面到達時」ではなく、「書面の発送時」を基準とします。したがって、はがきや手紙などでクーリングオフの意思表示をする場合には、「消印」が、所定の8日以内となっていればよいことになります。

クーリングオフは時間との勝負ですし、対象取引にあたるかどうかも微妙なケースがありますので、不明な点があればすぐに弁護士に相談するようにしてください。

ネット注文などの通信販売については、「クーリングオフの適用外」とされています。訪問販売や電話勧誘等は、「売り手側からの勧誘によって思わず契約に至るという側面を重視し、冷静な判断ができなくなる消費者を保護しよう」という理由でクーリングオフの対象となっています。一方、通信販売は、買い手側が自らの意思によって商品を選択し、購入の意思表示をしている以上、比較的冷静な判断が可能といえそうですね。ですので、通信販売の場合にまで、一方的な取り消しを認める必要性は低いと考えられており、クーリングオフの対象からは外されています。

通信販売やネット注文に"クーリングオフ"の類似の制度がある?

クーリングオフそのものではありませんが、類似の制度があることは知っておいていただければと思います。

通信販売については、クーリングオフ適用外となっています。ただ、通信販売においても、店舗での購入とは異なり、実物を確認できないという事情はありますし、「購入したらイメージが全然違った」等のトラブルを一定程度防ぐ必要はあるといえます。そういった事情から、2009年12月以降は法律が改正され、通信販売についても、「クーリングオフに類似した制度」が取り入れられています。

具体的に、ネットショッピングなどの通販においては「返品特約(返品の可否・期間・送料負担に関する事項等の返品に関する条件)」を明示することが義務付けられ、これらの返品特約が記載されていない場合には、商品の受け取り後、8日以内に返品(契約の解除)ができるとされています(商品の返品に関する送料は、消費者側が負担します。)。

この法改正を受けて、多くのネット通販サイトでは、返品特約をしっかり設けているところがほとんどです。返品特約として、「返品不可」としていたり、たとえば、返品期限を3日とするなど「返品に関する諸条件を独自に設けて」いたりします。そのため、通販に関しては、基本的にはこの返品に関する記載に従うこととなり、返品特約が一切記載されていなかった場合に限り、商品受け取り後8日以内であれば、契約解除可能=返品可能ということになります。

8日間以降でも解約できる場合がある!

今回のショッピングについて、さらに検討を加えてみましょう。今回のケースであれば、クーリングオフの適用がなくとも、サイトに「返品不可」と記載されていても、返品可能な期間を過ぎてしまっていたとしても、「偽物を本物と偽って売った」ことを理由に返品が可能となる可能性があります。

今回の取引では、サイト運営者が「本物」と偽って売却している行為が「詐欺」にあたります。法律上、「詐欺に基づいて申し込んだ契約」は取り消せることになっています(民法96条)。この詐欺取り消しができる期間は、原則として、「詐欺に気づいてから5年」とされていますので、返品期間を過ぎてしまっていたとしても、「詐欺による契約なので取り消します」という意思表示をし、契約を取り消すことができます。

マルチ商法や継続したサービスの解約って?

その他、マルチ商法などと言われる連鎖販売取引については、契約書面交付後20日間はクーリングオフができること、さらに、20日経過後も一定の中途解約金(たとえば商品を手元に残さない形態であれば商品の販売価格の1/10に相当する額)を支払えば、解約することができるとされています。

また、エステや英会話レッスンなど、継続してサービスの提供を受ける契約=特定継続的役務提供契約については、サービスの提供が始まった後でも、法律で定められた解約料の上限(たとえばエステであれば2万円かサービスの残額の10%のいずれか低い方)を支払うなど一定の要件を満たせば、中途解約が可能とされています。

相手から、「契約の取り消しに応じない」と言われたり、法外な違約金を取られたりするトラブルも多発していますが、こういった「解約に関する知識」をしっかり備えておくことが大事ですね。

まとめ(メッセージ)

ネットショッピングについては、利用者が急増していることもあり、これに伴うトラブルも後を絶ちません。これまで述べたように、クーリングオフや詐欺取り消し等の法的手段は用意されていますが、実際には、「偽物だと証明することが難しい」、「なかなか返金に応じてくれない」、「そうこうしているうちに連絡不通になってしまう」等の事情で、法的手段が功を奏しない場合も多く見られます。しかも、そのような悪質な業者に対し、住所・氏名・カード情報といった個人情報を取得されてしまうわけですから、カードの不正利用等の二次被害のおそれもあります。

騙されてしまった場合の被害金回復は困難であるということ、怪しいサイトには危険が潜んでいるということを今一度認識していただき、まずは「騙されないこと」がとても重要ということになります。

たとえば、「ブランド品なのに安すぎる」場合は、偽物である可能性も疑われますね。その場合は、ネット上の口コミでサイトの評価を確認したり、住所や連絡先がしっかり記載されているか等も確認したりすることが重要です。「安心できるサイトで、慎重に買い物をする」という心がけが一番大事といえるでしょう。

(※写真画像は本文とは関係ありません)

<著者プロフィール>

篠田 恵里香(しのだ えりか)

東京弁護士会所属。東京を拠点に活動。債務整理をはじめ、男女トラブル、交通事故問題などを得意分野として多く扱う。また、離婚等に関する豊富な知識を持つことを証明する夫婦カウンセラー(JADP認定)の資格も保有している。外資系ホテル勤務を経て、新司法試験に合格した経験から、独自に考案した勉強法をまとめた『ふつうのOLだった私が2年で弁護士になれた夢がかなう勉強法』(あさ出版)が発売中。『Kis-My-Ft2 presentsOLくらぶ』(テレビ朝日)や『ロンドンブーツ1号2号田村淳のNewsCLUB』(文化放送)ほか、多数のメディア番組に出演中。 ブログ「弁護士篠田恵里香の弁護道