JR北海道が留萌本線の廃止を検討し、沿線の一部自治体にその意向を伝えたと報じられた。留萌本線といえば、終点の増毛駅のきっぷが「増毛のお守り」として人気に。1981年に公開された高倉健主演の映画『駅 -STATION-』のロケ地でもあった。スクリーンに映し出された増毛駅、留萌駅の周辺はにぎわっていた。この映画の撮影は1980年頃。当時と現在の留萌本線のダイヤを比べてみよう。

まずは現在の留萌本線のダイヤ。平日と土休日の区別はない。休日は深川駅20時12分発の増毛行が留萌止まりに短縮される。その影響で、増毛駅で折り返す21時49分発留萌行が運休となる。

留萌本線列車ダイヤ(2015年6月)

普通列車しかないため、黒い太線だけのダイヤになった。運行本数が少なく、いかにも地方のローカル線といった様子だ。午前中と夕方は1時間から2時間おき。日中は3時間おき。必要なときしか走らせない、という信念すら感じる。ちなみに深川と留萌を結ぶバスは1日11往復。留萌本線よりちょっとだけ多い。留萌と増毛を結ぶバスは1日10往復。こちらは列車の1.5倍だ。

都市間を結ぶ区間ではバスも便利だ。線路と並行して国道が整備されており、深川~留萌間の一部に自動車専用の有料道路もある。廃止されてもバスで補えそうだ。ただし、恵比島駅と真布駅は国道から離れている。筆者が訪れたとき、午前中の上り列車におばあさんがひとり乗った。2つ隣の駅へ買い物に行くという。運行本数の少ないローカル線では、列車を上手に使いこなす人をよく見かける。大切な交通手段だ。

余談だけど、恵比島駅は1999年に放送されたNHKの朝ドラ『すずらん』のロケ地。現在もロケで使われた駅舎や駅長の官舎などのセットが残っている。駅舎の待合室には、少女時代の主人公の人形が座っていて、事情を知らないで外から駅舎内部をのぞき込むとびっくりする。

留萌本線は全長66.8kmの全線単線非電化路線だ。所要時間は約1時間半。運行間隔が1~2時間だと、1回はすれ違いが起きる。そのすれ違い場所はほぼ峠下駅に統一されている。例外は朝の留萌駅。列車のすれ違い設備がある駅は、これら峠下駅と留萌駅だけだ。

朝の留萌駅ですれ違う上り列車は増毛駅始発だけど、増毛駅の最終列車は21時49分発の留萌行。つまり、増毛駅で夜明かしする列車はない。じつは、増毛駅発の1番列車は留萌駅から増毛駅まで回送列車として運行している。筆者が増毛に行ったとき、この回送列車を目撃したことがある。運行しても、普段は利用者がいないのだろう。

映画『駅 -STATION-』が撮影された時期に近い時刻表として、電子書籍で復刻されている『国鉄監修 交通公社の時刻表 1978年10月号』を参考にした。「ゴオサントオ」ダイヤ改正として知られている時刻表だ。留萌本線のページは、留萌駅から分岐していた羽幌線を組み込んだ形で掲載されていた。その時刻を参考に列車ダイヤを描いてみた。

留萌本線列車ダイヤ (1978年10月改正)

青い線の急行列車が目立つ。当時、留萌本線は急行が4往復も走っていた。「るもい」(旭川~留萌間)が2往復、急行「ましけ」(小樽~増毛間、一部区間普通列車)が1往復、「はぼろ」(札幌~幌延間、留萌駅から羽幌線経由)1往復だ。留萌本線内の追い越しはなかったけれど、札幌や旭川から直通する列車は便利だったはず。普通列車も現在に比べると少し多い。急行列車と普通列車の多さのおかげで、当時の列車ダイヤはにぎやかだ。

ただし、普通列車に限れば当時に比べて大幅に減便されたわけではない。廃止を検討する理由は、運行本数を維持しても利用者がそれ以上に減ってしまったからといえそうだ。自動車の普及で乗客が減り、大都市へ直通する急行の廃止で不便になり、ますます乗客が減っていく。その悪循環の結果だろう。

駅の欄に注目してみよう。現在掲載されている駅の中で、1978年の時刻表には掲載されていない駅名がある。これは駅を増やしたわけではない。ほとんどの駅は当時から仮乗降場、あるいは臨時駅として存在していた。仮乗降場とは、駅ではない場所で一般利用者の乗降を認めた場所だ。北海道は広いから、駅間距離も長い。そこで、駅未満の扱いの仮乗降場を設置したという。

国鉄時代の北海道には、仮乗降場がたくさんあった。駅ではないから、乗車して仮乗降場に降りる場合は、その仮乗降場の先にある駅までの乗車券を購入する必要がある。仮乗降場から乗車する場合は、逆方向のひとつ隣の駅から乗ったとして運賃を精算した。仮乗降場は正式な駅ではなかったから、全国版の時刻表には掲載されなかった。ただし、北海道で販売されている『道内時刻表』は仮乗降場を網羅していたため、北海道の鉄道旅行のバイブル的な存在だった。

北海道の仮乗降場のほとんどが、国鉄からJRへ移行したときに廃止、または駅に昇格された。留萌本線の仮乗降場は駅に格上げされたため、現在の大型時刻表には全駅が掲載されている。

増毛駅、恵比島駅の他にも魅力的な佇まいの駅がある留萌本線。本当に廃止されるとしたら残念だけど、しかたない面もある。いまのうちに乗車計画を立てておいたほうが良さそうだ。