『デスノート』『デスノート the Last name』(06年)、スピンオフ作『L change the WorLd』(08年)で大成功を収めた実写『デスノート』シリーズ。誕生から10年の時を経て、映画『デスノート Light up the NEW world』(10月29日公開)で、まさかの続編として復活を遂げる。果たして、その"最終ページ"には一体何が書き込まれたのか。

マイナビニュースでは「独占スクープ 映画『デスノート』の最終ページ」と銘打ち、すべての作品を企画・プロデュースしてきた日本テレビ・佐藤貴博プロデューサーの「今だから語れる」証言を中心に、全20回にわたってその歴史を掘り下げていく。インタビューは合計約5時間、4万字近くにも及んだ。第12回は、元AKB48で女優の川栄李奈が演じた愉快犯・青井さくらの話。デスノートを無造作に使い、繁華街で人々を恐怖に陥れる。

川栄李奈演じる青井さくら

続編の"つかみ"を担う役

――あえて「青井さくら」という無差別凶悪犯を登場させる狙いは?

あのキャラクターを出すことは、かなり早い段階から決まっていました。6冊のデスノートが登場する続編なので、これまでのデスノートには登場しなかった「デスノート所有者」を出したかった。映画オリジナルストーリーなので、映画の"つかみ"となるような映像的に派手なシーンが欲しかったので、そこを「青井さくら」に担ってもらおうと。思想を持たない「バカがデスノートを使うとどうなるか」という今までにないパターンで引き込みを狙いました。派手なシーンという意味で、渋谷での大パニックも、早い段階から考えていたシーンでした。渋谷のスクランブル交差点での撮影は警察の許可が絶対下りないので、全国をロケハンして、渋谷に見せることができて、かつ警察など街が全面協力してくれる場所を見つけました。そこが神戸元町の中心街にあるスクランブル交差点でした。

東京は世界でも有数のロケが難しい場所です(警察の許可が下りないという意味で)。パニックシーンを神戸で撮影することが決まり、大きな撮影隊を神戸まで動かすならば、できるだけそのまま神戸で撮影する方が効率的なので、それ以外のシーンも神戸周辺で撮影しています。デスノート対策本部は、神戸ポートアイランド水処理場の地下にコンクリート打ちっぱなしの巨大な空間があったのでそこにセットを組んだものです。廃ホテルも麻耶山だったり、パイルトンネルでも撮影しています。佐藤信介組としては『GANTZ』も1か月以上に渡る大規模ロケを神戸で撮影しています。私としては、『GANTZ』以外にも何作も神戸で撮影してまして、ロケハン手配や撮影協力を仕切ってくれる神戸フィルムオフィスには本当に感謝しています。

――ロケをやっていて、一般の人に気づかれなかったんですか? 最近は情報解禁前に、ツイッターなどで目撃情報が話題になることもあります。

スクランブル交差点の撮影は基本夜中でしたが、繁華街ではあるので、もちろん気づかれることも。なぜか東出(昌大)くんを松ケン(松山ケンイチ)と勘違いしたのか、デマがツイッターで拡散されていました。その場に松ケンはいなかったんですけどね(笑)。菅田(将暉)くんはすぐに女子高校生に気づかれていましたね。ただ、死神の目を持つデスノート所有者から見られないように顔を隠している設定なので、そういった意味で丁度良かったです。池松(壮亮)くんの竜崎なんて、ひょっとこのお面ですからね(笑)。誰だか全く分からなかったでしょうね。

"アイドルではない顔"を持つ役者

――川栄さんの出演が発表された時は、かなり話題になりました。

無差別殺戮を行う所有者とのギャップがある女優がいいなと思っていました。「渋谷にいそうな普通の女の子の凶行」を描きたかったので、AKB48の頃から役者として注目していた彼女にオファーしました。当時から「アイドルでありながら、アイドルではない顔」を持っていたので。その役が本当に存在しているように見せられる、素晴らしい役者だと思います。

これは映画では結果使われなかったカットですが、池松くん演じる竜崎が青井を蹴る場面がありました。池松が信介監督に提案し事前に本人にも確認を取っていたみたいで、川栄も「全然大丈夫です」としっかり覚悟を決めていました。本番で微動だにしなかったのを見て、池松は「すごいですね」と女優魂を褒めていました。自分が蹴ったくせに(笑)。

"テロの恐怖"を表現できる世界観と歴史

――映画『デスノート』から10年、現実世界ではこの青井さくらのように突発的な凶行やテロなどが、大変悲しいことですが珍しくなくなってしまいました。

そうですね。とても怖いシーンなのですが、そこがデスノートという作品ならではというか。「ノートに名前を書いて人が死ぬ」というのは現実ではあり得ないこと。だからこそ、エンターテイメント作品として見せやすい。本来フィクションの映画であれば、銃を乱射して大量に人が死ぬシーンを入れることは可能なことです。でも現在はそのようなことが起こりうるかもしれないので、銃の乱射や人が殺されるシーンの表現には規制がかかりやすい。「デスノート」はあきらかに「フィクション」なので、見せやすい。人が死ぬといっても血が流れるわけではないので。

『デスノート』は、過剰な表現で人が死ぬところを見せる話ではありません。「デスノート」という明らかにファンタジーな存在が、作品のフィクション度を上げて、それで表現の規制を気にしなくていいというのは素晴らしいことですね。

――メディアミックスとしての盛り上がりがあるのもうなずけます。

そうですね。ただ、『デスノート』も10年前と今とではそういうことでも人々の印象にはだいぶ変化があると思います。10年前は映画でありながら、日テレ社内の考査部にいろいろ確認を取らざるを得ませんでした。今では映画が大ヒットして、さらにテレビ放送しても一切苦情のようなものはこなかったので10年前のような基本的なところまでの確認する必要はなくなりました。「デスノート」も時間がかかって、あくまでフィクションであり、エンターテイメントであるという認識が広まったんです。

■プロフィール
佐藤貴博(さとう・たかひろ)
1970年4月26日生まれ。山梨県出身。1994年、日本テレビに入社。営業職を経て、2003年に念願の映画事業部に異動する。映画プロデューサーとして、『デスノート』シリーズ、『GANTZ』シリーズ、『桐島、部活やめるってよ』などヒット作話題作を数多く手がける。今年公開作品は、『デスノート Light up the NEW world』(10月29日公開)、『海賊とよばれた男』(12月10日公開)。

(C)大場つぐみ・小畑健/集英社 (C)2016「DEATH NOTE」FILM PARTNERS