Google検索では以前から「AIによる概要(AI Overview)」として、複数のサイトに掲載された情報をまとめて表示するようになっている。その前のように単に検索結果が並ぶだけではなく、いかにももっともらしいダイジェストになっているのが特徴だ。

しかも、従来の検索結果一覧より前に表示されるため、検索しているユーザーのスキルによっては、それをそのまま鵜呑みにしてしまう可能性もあるが、最初の数件のクリックで検索という用事の用が足りてしまう大多数のユーザーにとっては、それさえしなくてよいラクチン機能でもある。

Google I/Oで発表、「AIモード」が新たな検索体験を提供

AIによる概要は、いろいろな情報ソースに散在する知りたいことの概要をすばやく知るにはとても有効だ。概要にはそれぞれ、その情報を補完するリソースへのリンクも表示されるので、そこからより詳しい情報を知るために深掘りしていくこともできる。

さらに、5月に開催されたGoogleの開発者向けイベントGoogle I/Oでは、新たな検索体験を提供するモードとして「AIモード」が提供されることが発表された。

このモードでは検索結果が一般的な自然言語で表示される。また、検索体験のきっかけとなる検索ワードの入力を自然言語で行うことも想定されているようだ。そのため、検索語を入力するボックスも少し大きなサイズになるみたいだ。

「ラーメン 渋谷」はもう古い? 検索はAIとの対話になる

これまでの検索サイトで「ラーメン」と入力すると、検索エンジンはユーザーが知りたいのはラーメンの作り方なのか、うまい店なのか、歴史なのかがわからないため、検索サイトは雑多な情報をまず表示する。

その表示結果に満足できないユーザーは、「ラーメン」に追加して「渋谷」などと街の名前を追加したり、「歴史」「作り方」など、より具体的な検索ワードを追加して、知りたい情報にたどりつこうとする。いわばしぼりこみの操作を追加でやってきたわけだ。

  • 通常のGoogle検索で「ラーメン 渋谷」で検索した結果。まずは地図でGoogleがおすすめするラーメン店が表示される

だが、AIモードでは自然語としてAIと会話するような建て付けで知りたい情報を収集することができるようになる。まさにchatだ。ここでの検索語は、スペースで区切った単なる単語の羅列ではなく、相手に知りたいトピックスの細かい概要をきちんと伝えるためのものとなる。つまり、検索体験は自然語を使ったAIとの対話となるわけだ。

その体験は、すでに各社のAIが提供しているものとそう違いはない。「渋谷でラーメンを食べたいのだが、おすすめの店を教えてほしい」という自然語プロンプトを、各社が提供するAIに対して投げれば、どれもそれなりの回答を返してくれるだろう。たとえば、これだけの質問でも、GoogleのGeminiは時間をかけてものすごい大作レポートを生成してくれた。

  • Gemini 2.5 Proを使い、「渋谷でラーメンを食べたいのだが、おすすめの店を教えてほしい」と話しかけてみたところ、Geminiがお店の特徴や営業時間などをまとめてリスト表示してくれた

人間はAIとコミュニケーションする能力が必要になる

今現在のGoogle検索でも自然語検索はできる。実際にこの自然語を検索ワードとして入力すれば、渋谷の人気ラーメン店を紹介するサイトの一覧が表示される。それだけで満足してしまうユーザーも少なくないはずだ。

検索ワードといえば、単語の羅列と思いこんでいたユーザーは、知りたいことのコンテキスト、つまり、状況や検索語の関係性を具体的に詳しく伝えることで、知りたいことにより近づくことができる。AIは相手となる人間の要求を、より詳細に知りたがり、それを明確に伝えられる能力が人間側に求められるというわけだ。

  • Geminiに渋谷のラーメン店を尋ねたときの「思考プロセス」も確認できた。まずはマップで渋谷エリアのラーメン店を探し、その後レビューや価格帯を考慮しておすすめ店をピックアップするようだ

そのために、人間にはAIと「ちゃんと」コミュニケーションする能力が必要になる。これまでのコンピューターとの対話は、コンピューターに人間が合わせるような面があったが、そうではなく、人間との対話のように「ちゃんと」対話することが功を奏する。

もっとも検索語を入力する従来の検索でも、ANDやOR、NOT、完全一致といった論理演算子を使う機能は提供されていた。だが、ほとんどのユーザーは、そんなものがあるとは意識さえせずに検索サービスを享受してきたにちがいない。

AIの時代には、知りたいことを知るには、何が知りたいのかを明確に相手に伝えることが求められる。相手は人間よりもはるかに論理的で合理的だ。教えてくれるAIに対して、心を開かなければ、AIは望み通りに機能してくれない。

ややこしい時代になったものだが、それは社会人に求められるコミュニケーション能力そのものだ。人との対話が得意であれば、コンピューターもうまく使えるという時代の到来ともいえる。