ビートルズの「ナウ・アンド・ゼン」がリリースされた。日本時間では2023年11月2日23時にデジタル配信が開始され、翌日に、YouTubeで公開だ。

まず、同グループ最後の新曲としてアナログ盤が発売された。当初はアナログ盤だけの予定だったが日本盤CDシングルも12月1日に発売されることになったという。

  • ビートルズ(THE BEATLES)のメンバー

AIの技術で生まれたビートルズの「新曲」

これは、1970年代にジョン・レノンが書いた曲を、ジョン自身が1978年にカセットテープにピアノ弾き語りで録音したデモレコーディングを素材に、1995年に作品化しようとしたが、彼のピアノとボーカルを分離することができずに断念、2022年になってから現代のAI技術でそれがかなってリリースに至ったということだ。

この「新曲」の発売によって、ビートルズ前期と後期のベストアルバム、いわゆる赤盤と靑盤が2023エディションとして更新され、曲の追加もあり、赤盤の最初は「ラヴ・ミー・ドゥ」(1962年)から始まり、靑盤の最後は「ナウ・アンド・ゼン」(2023年)になった。

2023ミックスで新たに構成されたり、新たなトラックが追加されたりといった変更が加えられ、新規ミックスの中には、ドルビーアトモスでの空間オーディオ対応ミックスも含まれている。

  • 「ナウ・アンド・ゼン」の日本盤CD

45年間封印されていたボブ・ディランのマスターテープ

直近にはローリングストーンズの新譜が出たばかりだ。こちらは18年ぶりのオリジナルアルバム「ハックニー・ダイアモンズ」となる。

さらに、ボブ・ディランも11月15日、武道館ライブの完全版がリリースされた。1978年に初来日したディランの日本武道館での伝説のライブ2日間、2月28日と3月1日のセットリストパフォーマンスがコンプリートに収録されている。ここにも未発表曲が含まれている。

24チャンネルアナログマルチのマスターテープ20本は、ライブの30年後に日本で発見された。結果としてコンサートからそのテープは45年間封印されていたが、そのテープの音源を元に、2022年に新たなプロジェクトとしてスタートしたということだ。

ディランのこの武道館ライブは2枚組ライブとして、コンサートのあった1978年11月にすでに発売済みだったが、当時のエンジニアとデザイナーが再び集結しすべてをやり直した。すべてが日本人の手で創られたという。

これはもう、復刻といったレベルを超えている。今、双方のライブを最新のオーディオセットで聞き比べるのもおもしろい。サブスクの時代にはそういうことが簡単にできる。

Bob Dylan - The Man in Me (Live At Budokan 1978 - Official Audio)。1978年のオリジナル版には収録されなかった未発表ライブ「ザ・マン・イン・ミー」

生き続けてきた音源が最新技術で生まれ変わる

とにもかくにも、今、何年だっけと、2023年であることを再確認して苦笑してしまうくらいの新譜だ。なにしろビートルズの活動開始は1960年、ローリングストーンズとボブ・ディランは1962年だとされている。デビューはざっくり60年前なのだから。

ローリングストーンズは今、ミック・ジャガーが80歳、キース・リチャーズ79歳、ロン・ウッド76歳というのもびっくりで、それでも現役バリバリの新レコーディングということに驚くが、ビートルズとボブ・ディランは、現代のテクノロジーが過去の録音を、今という時代に蘇らせた。蘇生術のようでそうではなく、半世紀近い時の流れの中で、連綿と生き続けてきた音源が、最新のテクノロジーで生まれ変わってわれわれの手元に届いたわけだ。

そこには、当時のエンジニアがやりたくてもできなかったことが、今、最新のテクノロジーでできるようになったという経緯がある。ただ、今は亡きジョン・レノン自身がその曲を本当に世に出したかったのかどうかはわからない。

過去のアナログ音源名演奏もAIで復活できるか

今後、生成AIが、さらに進化していくと、2チャンネルの最終ミックスダウンしか残っていない、どころかモノラル録音で、ろくな周波数特性を持たない一発撮りのような過去のアナログ音源名演奏からノイズを抜き去り、多チャンネルのマスターを再構成して、新規ミックスダウンするようなことが簡単にできるようになるのだろう。まさに「なんちゃってハイファイ」の極みだ。

そして、新たな技術を身につけたサウンドエンジニアの好奇心をくすぐるようになるだろう。そして、過去の名曲、名コンサートが現代に蘇る。生成AIによる音楽の再定義だ。半世紀前にできなかったことが今ならできる。

半世紀以上前の音楽シーンが現代に蘇生するとき、当時の音楽シーンに夢中で青春を過ごした青年たちは、今、高齢者となって社会に居座っている。演る側も聴く側もだ。

彼らの時代を盛り上げた音楽の数々に、老いた彼らは投資を惜しまないのか、そうでもないのか。生成AIは、ミュージックシーンにも大きな影響を与えようとしている。いや、すでに与えているというべきか。賛否両論ありそううだが、AIがもたらす未来、何が起こるかさっぱりわからない。