今、テレビ番組をリアルタイムで見るには、3つの方法がある。ひとつは地デジで、もうひとつはアナログ、さらにワンセグでも同じ番組を見ることができる。しかし、これに疑問を感じている人もいるだろう。せっかく、テレビが見られる機器が増えているのに、どれをつけても同じ番組しかやっていない。地デジは地デジの番組、ワンセグはワンセグの番組をしてくれた方が楽しいじゃないかというものだ。

このような同時放送は、サイマル放送と呼ばれる。本来は、NHKの紅白歌合戦などで、総合チャンネル、教育チャンネル、衛星チャンネルで同時放送していたようなものを指す。しかし、これはNHKの使命が全国どこにでも番組を届けるということにあるので、紅白歌合戦や重大ニュースなどの場合は、難視聴地域などで見られないことがあってはならないというための措置だ。実際、NHKでは震度6弱以上の地震か津波警報が発令された場合は、すべてのチャンネルで通常放送を中断して、災害情報をサイマル放送する取り決めになっているという。

ところが、地デジ、アナログ、ワンセグは現在のところ、ほぼ同じ番組編成で、全日サイマル放送が行われている状況だ。これから地デジを普及するためには「地デジでしか見られない番組」があった方が、普及が促されると思うのだが、なかなかそういった試みは行われていない。

現在、サイマル放送が義務づけられているのは、すべての国民がまだデジタル受信設備をもっていないため、不公平があってはいけないということから、サイマル放送をしなければならない義務が求められている。地デジ放送局の免許を取得する際に、サイマル放送をするという条件がつけられているのだ。しかし、24時間全日サイマル放送をしなければならないとはどこにも書かれていない。正確には「1日の放送時間中、2/3以上でサイマル放送をしなければならない」というもので、逆にいえば1/3は異なった内容の番組を編成してもかまわないのだ。

また、ワンセグではサイマル放送をする必要性は低いため、昨年4月にサイマル放送の義務が解除され、テレビ局は自由にワンセグ独自の番組を放送できるようになった。それでも、野球放送でスーパーを大きくするとか、サッカーなどの国民的なイベントの際に特別な番組編成をするといった程度で、相変わらずサイマル放送状態が続いている。

その原因は、視聴率だ。テレビの視聴率はアナログ放送と地デジ放送は合計で計算されてしまう。つまり、アナログ放送と地デジ放送で別の番組を放送しても合算されてしまうのだ。また、ワンセグでは本格的な視聴率調査は行われていない。視聴率がわからないということは、広告スポンサーも広告を出しづらいということだ。テレビメディアの広告出稿量は決して安くない。そこに、どのくらいの人が見てくれるかもわからない、つまりは広告効果がわからない広告を出すほど、企業は甘くはない。テレビ局としても、利益の出ない番組をわざわざ予算を使って制作するほど余裕はない。こういった事情で、地デジの1/3、ワンセグのすべてで独自番組を編成してかまわない状況にあるのに、独自番組がほとんどない状態になっているのだ。

視聴率の調査を行っているビデオリサーチ社も、2011年7月に目標を定めて、テレビパソコンでの視聴率、録画機の録画率、ワンセグの視聴率などを補足できるように、技術開発を行っているが、間に合うかどうかは不透明だ。テレビ放送は、今や日本の基幹産業といっても過言ではなく、制作、広告などの裾野は広い。地デジ化というのは、ただテレビとアンテナを替えれば済むというものではなく、産業として成立するようにスムーズに移行することが求められている。いろいろな意味で、2011年7月24日までに、地デジへの完全移行はできるのだろうか。

このコラムでは、地デジにまつわるみなさまの疑問を解決していきます。深刻な疑問からくだらない疑問まで、ぜひお寄せください。(なお、いただいた疑問に個々にお答えすることはできませんので、ご了承ください)。