今回のテーマは「居酒屋」である。
私は今となっては、部屋にこもって「ギャンブルの借金で困ってる人とかのブログを見ながら食うペペロソチーノこそが至上」と譲らず、家人に誘われるか、家が燃えたなどの特殊な事情がない限りは外食をすることがない状態だ。

よって居酒屋も打ち合わせのついでに年に数回行く程度なのだが、20代前半ごろは居酒屋が大好きだったし、ことあるごとに行こうとしていた。

これは酒が好きというわけではなく、酔っぱらうのが好きだったからだ、何より酒を飲むと人と楽しく話せたからである。

つまり典型的「アルコール依存症に陥りがちな人」だったわけだが、この「酒さえ飲めば人と楽しく話せる」というのも今思えば錯覚であり、ただ自分だけが「愉快な人物になれてる」と思っていただけで、実際はクソつまらない話をしていたか、同じ話を10秒に1回していただけだろう。

面白い話どころか、客に「何か面白い話して」とのたまうキャバ嬢すらいる世の中で、素人が酒の席でクソつまらないトークをして何が悪いという話だが、話せないコミュ障は「こんなクソつまらない話をしたら相手に不快な思いをさせてしまう」と思い込み、つまらない話どころか一言も話すことができなくなるのだ。

それが酒を飲むことにより「喋れるコミュ障」になれてしまうため、「楽しく喋れてる自分」という虚像を求めて酒にハマりがちなのである。

では何故、私が今この原稿をアルコール依存症治療病棟で書いていないかというと、それは「酒に強くなかった」からである。

実際、アルコール依存症になりやすい人の特徴には「人並み以上にアルコールに強い」というのがあるらしい。

20代前半ごろの私は、中二病も完治しておらず、酒を飲んだ時の万能感に加え「酒豪キャラ」にも憧れており、「メニューにある酒全部飲む」とかやっていた。

しかしこの「全部」はカシスオレンジとか「ジュースみたいなのに限る」であり、この時点で酒豪ではない。酒に強くないばかりか酒の味も良くわかっていないのである。

こういう事をするとどうなるかというと、毎回地獄のような二日酔いになるのだ。

二日酔いの話になると「あれは、そりゃもう辛いよ? 」と、まるで親知らずを抜いたことがある奴が今から抜こうとする奴に先輩風を吹かすようなことを言ってしまいがちだが、二日酔いは経験したことがない奴のほうが圧倒的に賢いのである。

バカは風邪を引かない、の逆で二日酔いはバカしかならないのだ。

二日酔いの主な症状は「死にはしないが死ぬほど苦しい吐き気と頭痛」であり、たまにオプションとして下痢もついてくる。

二日酔いに対しては薬なども出ているが、結局は「時間」という心の傷と同じ対処法をするしかない、つまりアルコールが抜けるまで、布団と便所を反復横飛びするしかできることはないのだ。

もうひとつできるとしたら「神に祈る」である。

人は二日酔いの時だけ敬けんな信仰心を持ち、便器に顔を突っ込みながら「二度と酒は飲まないので我を救いたまえ」と祈るのである。

トイレには神様がいるというので、祈る場所は間違えてないが、トイレの神様が救うのはトイレを綺麗にする奴だけであり、ゲロで汚すヤツなど絶対助けないだろう。

このように「一日中神に祈りを捧げてました」という日が何回もあり、それがあまりに苦しかったので「酒はほどほど」になった。

これがもし酒に強く、酒の味自体が好きだったら、この原稿は今ごろ閉鎖病棟で書かれているだろうし、それも「コラムの連載をしている妄想に取りつかれている人」としてだろう。

そんなわけでここ10年近く、酒は機会があった時にほどほど飲むぐらいで、二日酔いも滅多にすることがなくなった(ゼロではない)。

しかし先日、好奇心から今流行りの「ストロングゼロ」に手を出したことにより、久々に「酒による楽しい気分」にハマってしまった。

しかも当時は「人と楽しく話している幻覚を見るため」に酒を飲んでいたが、今回は「部屋で一人悦に入るため」にストゼロを飲むという、ますますヤバい方向でのスタートだった。

アルコール依存症の人も、病状が進むと人前では飲まずに隠れて飲むようになるというから、私も「次の段階」に進んでいたと言える。

しかし、やはり私はアルコールに強くないため、ストゼロにより楽しい気持ちにもなれたが、同時に身体が「吐き気のち頭痛、時々下痢」という天気を100%の確率で記録することにもなった。それが辛かったため、やはりストゼロ生活も続かなかった。

逆に、この苦しみに耐えて頑張る根性を酒に対して持っていなくてよかったと思う。

世の中には「酒が飲めないなんて人生の半分損してるよ」などと、飲めない人にアルハラをする人がいるというが、飲める側だったら今ごろ、私の人生は半分どころか自損事故により全壊している。

よって「ストゼロ飲んでみたけど半分も飲めなかった」という人には「ラッキーですね」と返すようにしている。

筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。