幼少期から熱血ドラマオタクというエッセイスト、編集者の小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第129回は俳優の岡部たかしさんについて。多くの人が彼に釘付けになった『エルピス −希望、あるいは災い−』(2022年)の村井役。翌年の2023年を駆け抜けて、2024年はさらに飛躍となること間違いなし! の岡部さん。俳優の吉田鋼太郎さんが、50代でブレイクを果たした以来の快挙が見られるかもしれない。そんな期待を込めたコラムをどうぞ。

朝ドラ、6回目出演の快挙にして……

岡部たかし

おそらく『あまちゃん』(2013年)以来の、朝ドラボルテージが高まっている『虎に翼』。私の周囲もほぼ見ていて、打ち合わせでは必ず話題が出て、SNSには寅の絵文字が舞っている。作品の魅力は多くあるけれど、まずは現在との時代背景のリンク。それから居場所を作ろうと奮闘する寅子を演じる伊藤沙莉の訴求力。これらには目を背けることができない、訴求力がある。この話だけで5000文字くらい書けそうだけど、いけない。今回の主役は岡部たかしさんだ。

岡部さんが演じているのは寅子の父親・直言(なおこと)。銀行員という職業柄、おそらく当時のエリートだろう。妻のはる(石田ゆり子)には頭は上がらない。そのぶん(?)優しさに溢れていて、子どもたちの味方になってくれる。当初、寅子の大学進学を後押ししてくれたのは直言だった。

『虎に翼』あらすじ

日本初の女性弁護士となった三淵嘉子がモチーフの『虎に翼』。舞台は昭和初期。女性ならば結婚をして夫に尽くすことが最良と言われているけれど、どうにも納得ができない猪爪寅子(伊藤沙莉)。娘の結婚を願う母の反対を押し切り、寅子が選んだのは法曹界で働くこと。その一歩として大学に進学するものの、校内でも男尊女卑の風潮と女学生たちが対峙することに……

調べると岡部さんは『ひよっこ』(2017年)を皮切りにして、過去5作の朝ドラに出演している。記憶に新しいところでは『ブギウギ』(ともにNHK総合・2023年)の、アホのおっちゃん役。6作目にして主人公の父親とは満を持しての大出世だ。公式ホームページもトップだし、番宣のバラエティ番組出演だってある。これは長年に渡って、彼がもがきながらも必死で努力してきた成果だ。

冷たくもない、熱くもない、適温おじさん

岡部さんが出演した『鶴瓶の家族に乾杯』(NHK総合)でも話していたけれど、彼には長~い下積み生活がある。その間、1998年のドラマデビューから今日まで、約30年。時には役名のない時もあっただろう。それが『エルピス −希望、あるいは災い−』のブチ切れ演技で世間に見つかったわけだから、ブレイクとは何がトリガーになるのか分からない。

実は私も彼の存在が非常に気になって、昨年初頭に取材を申し込んだ。当時は私が初めてのインタビュアーだったと、岡部さんは言っていた。そんな視点も持ちつつ、改めて彼は何が魅力なのか考えてみる。

まずは一見すると、目のクマが物語る "ダメそう"、"クズっぽい"という雰囲気。あれは苦労したからこそ醸し出せるもので、普通の中年には安易に出せるものではない。そしてその雰囲気を逆手に取るように"可愛いおじさん"も持つこと。しゃべらせると一生懸命且つ、面白い人だとバラエティー班もそろそろ気づき始めている。総括すると彼はどこにいても"適温のおじさん"なれる人。熱そうでも、冷たそうでもない。でも時には沸騰する恐れのある俳優……というと、しっくり来るような。

あとは中年ブレイクであることは大きな魅力だ。途中、息切れしそうになったこともあっただろうに、ブレずに俳優を継続して日の目を見る……というストーリーには誰もが惹かれる。若いうちに大成して、大河ドラマの主役を張る魅力もあるけれど、大半の人は雲の上に存在に感じてしまう。でも岡部さんのように、実直さが実を結ぶパターンには多くの共感が集まる。彼こそ、暗い話題ばかりが続く高齢化社会の大きな星だ。

春ドラマでは『約束 ~16年目の真実~』(読売テレビ・日本テレビ系)にも出演中の岡部さん。2024年末が来るまでには、テレビ東京あたりで彼の主演ドラマを拝めそうな気がする。