20代編集者が自身の経験から気付いた「睡眠」の重要さ

「最先端の知見を分かりやすく伝えようという内容は、翻訳書だからこそ得られるもの」─ 海外の本を翻訳する面白みをこのように語るのは、ダイヤモンド社 書籍編集局 第一編集部の山下覚氏。20代の若手編集者である同氏は、睡眠に関する新たな翻訳書『SLEEP 最高の脳と身体をつくる睡眠の技術』を手がけた。

• ダイヤモンド社 書籍編集局 第一編集部の山下覚氏。『現役東大生が教える「ゲーム式」暗記術』などを担当した、新時代を担う編集者だ

これまでの睡眠関連書籍とどのように違うのか、なぜこの本を翻訳しようと思ったのか。睡眠に関する新たな定番の一冊となりそうな同書について、ビジネスプロデューサー・書評ブロガーの徳本昌大が聞いた。

一冊で最高の睡眠を実現する技術が身につく

今回話題に上った翻訳書籍は、ショーン・スティーブンソン著『SLEEP 最高の脳と身体をつくる睡眠の技術』。睡眠のための衣食住を網羅した、まさに最高の睡眠を実現する技術が書かれた書籍。山下氏は「食事の仕方はもちろん、ベッド・枕・パジャマの選び方、部屋の間取り、植物の置き方、照明の色、電化製品の選び方など、睡眠環境全てをカバーした本はこの一冊くらいでしょう」と本書を端的に説明する。

具体的な内容は、例えば「ブルーライトは睡眠に良くないので、寝室にスマートフォンを持っていくことをやめよう」「朝目覚めたらカーテンを開けて、日光を全身で浴びよう」といったもの。こういったアドバイスがエビデンスとともに全21章で紹介されている。全ての章で実用的な方法が紹介されているため、即効性を求める方にもピッタリ。その網羅性ゆえに、いろいろな睡眠関連書籍を読んだ人からも「この一冊さえあればいい」と言われたこともあるという。

スマートフォンへの依存が進むビジネスパーソン

現代の若いビジネスパーソンは、スマートフォンをはじめとしたデジタルメディアに強く依存した生活を送っている。ベッドでも常にスマートフォンを手放せないが、一方でそのような生活スタイルに疑問を感じ始めている人も多いはず。近年、わずかな睡眠不足が蓄積し、結果的に徹夜を繰り返しているのと変わらない状態に陥る「睡眠負債」が話題となっているが、若いうちからそのような生活を繰り返すことで、どんどん体に悪い影響がたまっていってしまうのだ。

山下氏はダイヤモンド社の健康関連の本を増やしたいと考え、『SLEEP 最高の脳と身体をつくる睡眠の技術』の翻訳を検討。実際に本を読んでその内容に強く引き込まれたそうだ。山下氏は「私もスマートフォンへの依存が大きく、寝る前にSNSをチェックしてしまい、眠れなくなることがたびたびありました」と語る。どうしてそのような状態に陥ってしまうのか、その謎を解明してくれたのが本書だったという。

• この本を執筆したショーン・スティーブンソンはアスリート出身。「スポーツの世界で挫折した経験があるからこそ、一般読者にもわかりやすい説明ができるのでは」と山下氏は分析する

若い方にこそいまから睡眠の重要性を知ってほしい

20代の編集者である山下氏は、どのように翻訳する書籍を選んでいるのだろうか。同氏は「装丁の文言で権威性や科学的分析をどれだけ打ち出せるか、エビデンスに基づいたメッセージを打ち出せる本を選んでいます。欧米では一流の学者さんが一般向けの本を書く文化があります。それが書き下しの本とは差別化しやすいポイントなのではないでしょうか。翻訳書では、日本人の著者ではなかなか書けない(書いてくれない)内容の本を出せるんです」と語る。

例えば、今回の主題となった「睡眠」のような分野の研究は日々進んでおり、10年前の内容を読んでも意味がない。最新のエビデンスを知ってこそ意味があり、本書のような翻訳書はまさにそういった知見を得ることができるものだ。

山下氏は、本書の内容を踏まえて、若いビジネスパーソンに次のようなアドバイスを送る。

「午後10時くらいに、眼が冴えて活動的になるという経験をしている方は少なくないでしょう。ですが、午後10時から午前2時のエネルギーは睡眠に使われるべきものなのです。このエネルギーを睡眠に使うことで、睡眠の質を上げることができます。私自身にも言えることなのですが、この時間にしっかりと睡眠を取るという事を心に留めておいてもらえればなと思います」(山下氏)。

『SLEEP 最高の脳と身体をつくる睡眠の技術』は、睡眠という毎日の生活に1つの気付きを与えてくれるものだ。睡眠に関しての数々の所見が書かれているが、現実的には全てを実践するのは難しいだろう。だが、細かな改善を積み重ねることで、確実に睡眠の質を上げることができる方法が解説されている。若い方もそうでないかたも、まずはこの本で睡眠というものの価値を改めて考えてみてはいかがだろうか。