前回までのあらすじ

超マイペース且つ大雑把なB型男子である僕の彼女は、あろうことか超几帳面なA型女子だった――。このエッセイは独身B型作家・山田隆道が気ままに綴る、A型彼女・チーとの愛と喧嘩のウェディングロードです。

犬を飼っている。体重が2キロしかない白いポメラニアンだ。ただでさえ長毛種のポメの中でもかなり白毛がフサフサしている部類らしく、遠目では白い毛玉が歩いているように見える。まるでケセランパサラン。いや、動く綿菓子だ。背中あたりの毛がちょっと茶色くなっているところなんか、特に時間を置いた綿菓子っぽい。

もともとはチーが飼っていた愛犬だ。それが僕と付き合うようになり、ごくごく自然にチーと愛犬が僕の部屋に移住した。性別はオス。年齢は3歳とちょっと。名前はポンポン丸という。名付け親は、もちろんチーである。

さて、そんなポンポン(丸を省略します)だが、これが当然僕よりチーになついている。特に付き合い始めた頃は、僕のことを見知らぬ危険人物とでも思ったのか、僕がチーに近づくたびに小さい体で一丁前に邪魔をしてくるのだ。

「ポンポンはきっとママのことを守ろうとしているんだよね」とチー。

確かにそうだと思う。体重2キロの小動物のくせに60キロの人間相手に番犬を気取るとは、飼い主に対する忠誠心以外の何者でもないだろう。

しかし、僕にとっては大問題だ。ポンポンが僕よりチーになつくのは仕方ないとして、その次ぐらいに僕にもなついてもらわないと、今後の二人にとって何かと不都合が生じてくるだろう。なにしろ僕らが夜寝ていると、ポンポンは必ずといっていいほど、僕とチーの間に無理やり身体を押し込め、「どこの誰だか知らねえけど、俺のママには指一本触れさせねーよ」とでも言いたげな視線を僕に向けてくる。……ほら、つまりそういうことですよ。愛の営みの邪魔になるじゃないですか。

かくして僕はポンポンの気を引こうとあらゆる手段に打って出た。まずはポンポンに餌係りを僕が引き受け、たんまり飴を与える一方で、僕との優位関係をはっきりさせるため、時々厳しく怒ったりもした。僕も実家で子供の頃からずっと犬を飼ってきた経験があるため、犬の可愛がり方はそれなりに知っているつもりだ。

そんな努力の甲斐もあってか、やがてポンポンの僕への態度が少しずつ変化していった。服従のポーズと言われる「腹見せ」も僕の前で見せるようになり、手の甲を差し出すと愛情深く舐めてくれるようにもなった。いやはや、本当に嬉しかった。ポンポンにやっと認められたという喜びはもちろん、これでチーとの付き合いも順調に進むだろうという安堵が胸の奥から同時に湧き起こり、僕は感無量になった。

しかし、ある出来事以降、僕はポンポンに不信感を抱くようになった。

それは先日の夜のことだ。いつものように僕が寝ていると、このところすっかり僕になつきだしたポンポンがいつになく上機嫌で、僕の指や腕、そして顔を嬉しそうにペロペロと舐めてきた。最初、僕がそれを好意的に受け止めた。ムツゴロウさんじゃないが、「よーしよーし」の気分でポンポンの舐め舐め攻撃に相好を崩した。

ところが、その夜のポンポンはちょっと異様なテンションだった。御主人様への親愛の証というより、何か別の特異な感情を僕に向けているかのような、そんな爛々とした瞳で、激しく息を切らしながら僕に迫ってくるのだ。

「ポ、ポンポンッ! どうした!? なんかあったのかっ」

僕は戸惑いながらポンポンを宥めようとした。しかし、ポンポンのテンションは一向におさまらない。それどころか、ますます興奮の度合いを強くして、僕のすべてを食べ尽くさんばかりの勢いでペロペロ攻撃を仕掛けてくる。途中、「ふんっふんっ、ぐおっ」という、およそ愛らしさとはかけ離れた野生の呻き声を発した。

次の瞬間、ポンポンは僕の腕に全身でしがみつき、腰を猛スピードで振った。

「ポンポン!?」僕は思わずたじろいだ。しかし、普段のポンポンからは考えられないような強い力だったため、僕はなかなか腕を振り払うことができなかった。

「はっはっはっ!」ポンポンは腰のスピードをますます上げた。

「やめろ!」さすがに危険を感じた僕は、全力でポンポンを腕から引き離した。するとその瞬間、僕の顔面に何かが飛び散った。冷たい――っ。液体だった。

ちなみにチーに聞いたところによると、今までポンポンがチーに発情したことは一度もないという。それどころか射精自体もチーの知る限りでは初めてだとか。

かくして僕はポンポンにとって初めての相手となった。それ以来、ポンポンは確かに僕になついたようで、たびたび夜のお供を求めてくるのだが、僕は少し複雑だ。

まさかポンポン丸くんたら、僕の体だけが目当てなんじゃないでしょうね――。いずれにせよ、だんだん顔射にも慣れてきた今日のこの頃である。

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