前回までのあらすじ

33歳独身B型男子である僕、山田隆道は現在絶賛婚活中。未来の花嫁となる素敵な女子との"自然な"出会いを果たすべく、自宅の近所に馴染みの居酒屋を作ろうと日夜奔走しているのだが、先日ついに女性客が多そうな店を発見して……。

ついに女性客が多く通っていそうな"出会いに最適"の居酒屋を発見した。

Mという名のその居酒屋に通うこと、早数週間。……そうです。最初に見つけた夜から、ほぼ毎日通っているんです。(暇すぎるっ)

ちなみに今やすっかり一人で通うようになった。初回に帯同してくれた友人はそもそも彼女がいる野郎のため、そうそう僕の低俗な目論見に付き合ってくれない。「山ちゃんもさっさと彼女見つけろよ」などと上から目線で冷やかすばかりなのだ。

居酒屋Mに通ううちに、わかったことがいくつかあった。マスターは35歳の既婚者で、27歳の女性店員が奥様だという。結婚二年目。まだ子供はおらず、新婚気分を満喫しているらしい。へえ、羨ましい限りですね。

「こいつ、女のくせに大雑把だから嫌んなっちゃいますよ」とマスター。

奥様は「あんたが細かすぎるんだって」と口を尖らせている。なんでもマスターの血液型はA型で、奥様はO型らしい。几帳面なマスターにしてみれば、奥様の「おおらか、大雑把、おっとり」な性格にときどきイライラしてしまうとか。

「おおらか、大雑把、おっとりの頭文字をとってO型なのかもしれませんね」

僕が何気なくそんなことを口にすると、奥様は「そうそう。山田さんっていつもうまいこと言いますよねえ。頭の回転が速いのかしら?」と感心したような笑顔を見せた。簡単に気分が良くなる。褒められるのが大好きなB型男子の僕である。

結論から言うと、僕の「居酒屋常連大作戦」は完全に成功した。今じゃマスターとメル友になり、ボトルキープまでしている。マスターが自分より二歳年上なのも気に入った。そのほうが見栄を張らずに済むというか、子分肌でいるほうが楽なのだ。

ここまで来たら、いよいよ作戦は第二段階である。僕のほうからマスターに恋愛相談を持ちかけ、独身男子の婚活の心強い援軍になってもらおうというわけだ。

「マスター、最近ほんと出会いがないんですよ。このままだったら一生独身で、いつのまにか女にも興味がなくなったりして、妖精みたいなオジサンになっちゃうかもしれないって、マジでびびってるんです」

僕はそんな偽らざる悩みをマスターにぶつける。

「そうなんだ。そりゃ心配だねえ」とマスター。奥様も「山田さんなら、いい人見つかりそうなのに」と嬉しいことを後押してくれる。

「いやあ、文筆業って一人仕事なんでね。恋の予感どころか、出会いすらない。誰かいい人いませんかね?」

僕は早くも大胆なリクエストに打って出た。

少々展開が早すぎるかなという懸念もあったが、たいていの飲食店業者は常連客のことを大切に思ってくれるため、これぐらい「恋に飢えているイメージ」を訴えるのもありだろう。今やマスター&奥様は、僕の恋路を何とか応援してあげたい、手助けしてあげたいという気持ちに駆られているはずなのだ。

すると、マスターは言った。

「うちのお客さんでいい人いないかな? どんな女性がタイプですか?」

来た来た、来た――! これを待っていたんですよ、これを!!

けど、あんまり取り乱すのはみっともないので、僕はなるべく平静を装いつつ、

「そりゃあ容姿はかわいいにこしたことないですけど、やっぱり話していて楽しい人が一番ですよね」と月並な返事をしておいた。ここで贅沢な条件を細かくリクエストするのはKYってやつだろう。

ちなみに最近の僕は「自分みたいな女性」が理想だと思うようになっている。自分とまったく正反対のタイプというより、自分と価値観や美意識が驚くほど似ている双子の女の子みたいな感じ。容姿まで自分に似ていて、鼻がペチャンコだとかなり困るのだが、僕みたいな偏屈でマイノリティな男は、互いに共感しあえる異性というものに無性な魅力を感じてしまう。たぶん、仲間意識でしょうね。

「わかりました。ちょっと探ってみますよ。もし、良さそうな女性客がいたらこっそり山田さんに教えますから」

マスターはそう言って、頼もしい笑顔を見せた。

神だ――。髪は薄いけど、この人は恋愛の神だ。心の中で手を合わせた。

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