僕は今年33歳になる独身B型男子である。ちなみに、いまだに「自分はまだまだ20代に見えるはずだ」なんて図々しいことを本気で思っており、根拠のない若さへの執着心とドラマティックな恋愛結婚への甘い夢を捨てることができずにいる。

そんなピーターパンを百発ぐらい殴ったような脳細胞を誇る僕ではあるが、だからといって年齢がまったく気にならないというわけではない。

いくら「年齢なんて関係ない」とか「実年齢よりも見た目年齢のほうが大事だ」などと主張しようが、現実に積み重ねてきた32年余りの歳月を否定することはできない。年齢を甘んじて受け止めないという行為は自分の人生そのものを前後裁断するぐらいナンセンスであり、言わば思考停止、現実逃避みたいなものである。

実際、最近の僕はオジサン化を異常に気にかけている。例えば昔は朝起きて最初にすることといえばタバコを吸うことだった。しかし、今は違う。

真っ先に枕の臭いをクンクンかいでしまうのだ。

もちろん気になるのは加齢臭という名のまだ見ぬ悪魔である。正直まだ大丈夫だと思うのだが、そろそろ奴の襲来を気にかける年齢になってきたのは確かだ。

従って、僕の必需品はリセッシュのような消臭剤である。僕なんか枕や布団、玄関だけじゃなく、近頃は自分自身にもリセッシュしてるもん。昔みたいに香水がどうこうとか、そんなレベルじゃない。匂いをつけるということより、臭いを消すということのほうが大切なのだ。

さらに枕元の抜け毛チェックも朝の日課である。抜け毛の本数はもちろんだが、それ以上に僕が気にしているのは抜け毛に毛根があるかないかだ。

そう、毛根である。

抜け毛の根元についている球根のような白い半透明の物質。奴を見ると僕は暗い気持ちになる。一本の毛髪の生命活動が完全に御臨終したと思えてならないのだ。

抜け毛を手の平にのせてみるとよくわかる。毛根がない抜け毛はまるで鰹節のようにピンピン飛び跳ねるのだが、毛根を失った抜け毛は小松菜のお浸しみたいにシナっとしている。まさに「お前はもう死んでいる」といった情けない状態である。

とにかく、そんな抜け毛が日ごとに増えているのだ。白髪も増えているし、髪に艶や腰がまったくない。それに最近、寝癖がつかなくなってきた。もともと僕は剛毛で強い癖のある硬い髪質だった。20代の頃なんか寝起きは「ルネサンス期の芸術家かっ」っていうぐらい頭髪が爆発しており、一旦水で濡らさないとセットできないぐらいエキサイティングだった。

しかし、最近は爆発しないのだ。それどころかペチャンコになるぐらい。おかげで朝のブローはあっという間に終わるのだが、なんだか寂しいったらありゃしない。僕の頭髪はいつの間に社会への反抗をやめてしまったのだろう。禿げてはいないが、禿げかけてはいるということなのか。

従って、そんな僕にとって海水浴やプールは危険極まりないデートである。

「あら、山田さんって水に濡れたら意外に前髪が枯れかけの月見草みたいになっちゃうのね。普段はボリューム出してるみたいだけど本当は苦労してるんだねぇ」

そうやって薄ら笑いを浮かべる女子の顔を想像すると僕は泣きたくなる。

ああ、恐ろしい。海水浴なんて百害あって一理なしだ。あれほど毛髪のボリュームをスタイリングで誤魔化せないデートスポットを僕は他に知らない。ますますモテなくなるじゃないか!

そんなことを考えていると、つい最近まで「まだまだ20代に見えるはずだ」と信じていたはずの僕は、途端に無性な不安に襲われる。実際は他人から見たらすでにオジサンと思われているんじゃないか。今まさに一分一秒の時を刻むごとに、僕の体内では着実に老化が進行しているんじゃないか。このまま結婚できないんじゃないか。

初夏の宵、かような不安を掻き消すように僕は独り酒に逃げてしまう。挙句、独身男の不毛な感傷に浸ってしまうのは、草木が茂り始める小満の曙である。

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