東京・上野の国立科学博物館で開催中の特別展「大哺乳類展 3-わけてつなげて大行進」に、5月21日から新たに「ニホンオオカミ」の標本の展示が加わりました。これまでヤマイヌの一種として国立科学博物館に収蔵されていた謎の標本を、2020年に当時小学4年生だった小森日菜子さんが「これはニホンオオカミではないか」と気づき、同展監修者の川田伸一郎先生と共同研究・論文を発表し、今年2月に正式にニホンオオカミの標本として認定されたもの。日本で4体目、世界で6体目となる貴重な標本で、認定以来一般向けに公開されるのは初めてです。

  • 国立科学博物館で開催中の特別展「大哺乳類展3」に、新たに日本で4体目となる「ニホンオオカミ」の標本が加わった

    特別展「大哺乳類展 3-わけてつなげて大行進」の目玉、哺乳類の剝製標本約200点が行進する「哺乳類大行進」

同展は、「分類(=わける)」と「系統(=つなぐ)」をテーマに“似ているけれど違う、似ていないけれど同じ”という哺乳類の進化の不思議に、500点を超える標本を通して迫る大スケール展。特に、哺乳類の剝製標本約200点が行進する「哺乳類大行進」は圧巻の迫力です。今回、新たにニホンオオカミの標本が展示されることになった第2会場で、中学生になった小森さんと監修者の川田先生にお話を伺うことができました。

  • 【写真】科博の収蔵庫にあった“謎の剥製”を「ニホンオオカミ」と直感、熱心な調査で解明につなげた小森さん(当時小学4年生)と、同展監修も務める川田伸一郎先生

    国立科学博物館 動物研究部 脊椎動物研究グループ 研究主幹の川田伸一郎先生(左)と小森日菜子さん

この標本は、1888年に東京都恩賜上野動物園の前身機関に来園した個体で、1889年には東京国立博物館の前身機関に存在していました。1924年に国立科学博物館に移管されてからは、同館の収蔵庫に保管。台座の裏面に「和名:ヤマイヌの一種」と記載された標本ラベルが貼付されていたことから、長年“謎のオオカミ標本”とされてきたこの標本に小森さんが出会ったのは、2020年に開催された「科博オープンラボ2020」でした。科博の研究施設と標本収蔵施設のある国立科学博物館筑波地区で年に一回だけ、普段は公開していない研究スペースを特別に公開するイベントに家族で訪れた、当時小学4年生の小森さんは、キャプションも何もついていないこの剥製を見かけて「これはニホンオオカミだ!」と直感。ただ、研究員になんの剥製かを尋ねても、「わからない」という返事だったそう。

  • 同標本の台座の裏に貼付された標本ラベル(提供:国立科学博物館)

「私のイメージするニホンオオカミの特徴を持っていたので、脳にビビッとくるように、ひとめで『あ、これはニホンオオカミだ!』と思いました。踊りだしたいような感じでしたね」と小森さん。小学校2年生のときに自由研究をしてからニホンオオカミが大好きになり、それまでに国内にあるニホンオオカミの剝製標本3体を見学したことはあったそうですが、謎の標本を見た瞬間に「これは!」と見抜いた洞察力はすごい! そして「この剥製の正体を知りたい」という強い思いを原動力に、自力で調査を開始。科博に送った剥製について質問するメールが川田先生に届いたことが、今回の共同研究につながりました。

  • 小森さんの直感と熱心な調査研究が「ニホンオオカミ」の特定につながった

「最初はここまで本気だと思わなかったので、小森さんからメールで質問を頂いてから、しばらく時間をおいて返事をした」という川田先生。それでも「あ、この子は本気で興味を持っているな」と感じ、一回見に来たらどうですかと誘い、こんな人に聞いてみたらどうですか、などのアドバイスもしたそうですが、「彼女のほうが色々調べてよく知っていて、僕の方が教えてもらったくらい」と笑います。また、普段は見えるところに置いていないこの標本が、たまたまその年だけ導線の変更で見える場所に置かれ、ニホンオオカミ好きの小森さんの目に留まったという幸運な偶然も重なりました。

そうして今年2月、川田先生と山階鳥類学研究所の小林さやか研究員とともに、この剝製が「ニホンオオカミ」であることを発表。分類学のフィールドでは DNA解析が主流となりつつありますが、今回の発見は、頭部の形や背中の毛の色など、形態学的特徴(見た目の特徴)の分析で明らかになりました。

  • 日本で4体目、世界では6体目となる貴重な「ニホンオオカミ」の標本

「この標本は僕も何者なのかよくわかっていなかったもので、小森さんと小林さんの緻密な文書資料の調査によって素性が判明しました。科博には明治時代から伝えられる標本がたくさんありましたが、その多くは関東大震災や戦争により、廃棄されたりして行方不明になっています。ものを残し続けると、100年以上あとでも思わぬ発見につながる。世代を通じて標本を継承することの大切さを再認識しました」(川田先生)

かつては本州、四国、九州に広く生息していたものの、1905年に採集された個体を最後の確実な記録として、20世紀初頭に絶滅したとされているニホンオオカミ。今回の追加展示は、これまで国内に3体、世界には5体しかないとされてきたニホンオオカミの剝製の貴重な6体目を目撃する貴重な機会。特別展「大哺乳類展3-わけてつなげて大行進」は、6月16日まで、国立科学博物館で開催です。

■information
特別展「大哺乳類展3-わけてつなげて大行進」
会場:国立科学博物館
期間:3月16日~6月16日(9:30~17:00、ただし土曜および4/28~5/6は19時まで延長)/月曜休、祝日の場合は火曜休※ただし3/25、4/1、4/29、5/6、6/10は開館
観覧料:一般・大学生2,100円、小中高生600円、未就学児、心身に障害のある方及び付添者1名は無料