今年も大盛況のうちに幕を閉じた「第10回マイナビキャリア甲子園」。3月9日には「Creation部門」の決勝大会が開催され、J-POWER(電源開発)代表「クローバー・ジャーニー」(千葉県立幕張総合高等学校/東京工業大学附属科学技術高等学校)の2人が見事、審査員特別賞に輝いた。今回は、その輝かしい実績の舞台裏を探るべく、J-POWERで伴走者役を務めた金谷隆広さん、中野優香さんに話をうかがった。

  • 「第10回マイナビキャリア甲子園」Creation部門 決勝大会で審査員特別賞に輝いたJ-POWER(電源開発)代表「クローバー・ジャーニー」(中央)とJ-POWER担当者

BtoB企業「J-POWER」の認知度を若年層にも広げたい

ーーまず、簡単な自己紹介をよろしくお願いします。

金谷 金谷と申します。現在は広報部広報室で働いているのですが、私が広報部に異動してきた2022年からマイナビキャリア甲子園に参加するようになって、一昨年、去年と2年連続で高校生たちと伴走しています。普段は中野と一緒にPRや企画制作に携わり、J-POWERの認知度向上に努めています。

中野 私も2022年、金谷の約3ヶ月後に広報部に異動してきて、普段は社外向けの広報施策を担当しています。マイナビキャリア甲子園では企業紹介用の動画を撮影したり、テーマの選定に直接携わったりしました。

ーーマイナビキャリア甲子園に参画した理由について教えてください。

中野 J-POWERはBtoBの企業なので、認知度があまり高くないと感じています。特に若年層に知ってもらえる機会がないということが大きな課題のひとつです。この「若年層」のなかでも高校生はかなり若い部類に入りますし、そこにアプローチするための施策を模索していたときにこの大会とご縁をいただき、新しいチャレンジとして参加しました。

金谷 マイナビキャリア甲子園は、高校生の教育の一環として実施しているイベントですから、弊社の事業を理解してもらいながら、社会問題についても知ってもらいたいという気持ちがありました。ただ、伴走しているうちに、若者たちのチャレンジを応援したいという気持ちも生まれてきて、この大会に継続的に参加するようになったという感じですね。

  • 「クローバー・ジャーニー」がJ-POWERの磯子火力発電所(神奈川県)を訪問したときの様子

ーー参加者の高校生たちに、どんなことを期待していたのでしょうか?

中野 やはり高校生ならではの柔軟な発想やひらめきですね。大人ではなかなか創出できない新しいひらめきや、実現可能性のある新たなビジネスアイデアなども得られたらいいな、と思っていました。

金谷 我々は5年前くらいからスタートアップと協業し、イノベーション推進の新規事業にも力を入れ始めるようになりました。でも、未だに「J-POWER=BtoBのお堅い企業」というイメージがあるように感じています。高校生のみなさんには、その挑戦する姿を見せてもらうことで、我々が未来を拓き続ける企業として未知にチャレンジするための勇気をもらえたらいいな、とも思うようになりました。

クローバージャー二ーの持つセンス、優れた情報収集力

ーーJ-POWERが設定した、「10年後の地域社会の姿を自由にデザインし、その実現に貢献するJ-POWERグループの新たなビジネスを提案せよ」というテーマに込めた想いを教えてください。

中野 我々は日本全国に発電所などを保有していますが、その多くは地方に集中しています。今は少子高齢化や都心への人口流出による過疎化が全国的に問題視されていますが、こうした問題は我々のビジネスにもダイレクトにのしかかっています。今後もエネルギーの安定供給を続けていくうえで過疎化は無視できない課題ですから、高校生ならではの視点で斬新なアイデアを出してほしいな、と考えた次第です。

金谷 ちょっと付け足すとすれば、初参加のときに「カーボンニュートラルに向けた新事業の提案」という難しいテーマを設定してしまったので、もっと高校生が”自分事”として考えやすいテーマにすべきだったと反省し、今回の設定に至ったという経緯もあります。

  • J-POWERが設定したテーマは「10年後の地域社会の姿を自由にデザインし、その実現に貢献するJ-POWERグループの新たなビジネスを提案せよ」

ーー実際に出てきた高校生たちのアイデアはいかがでしたか?

中野 地方の過疎化と少子高齢化の問題を解決しつつ、新ビジネスの提案にもなっていたので、うまくひとつのアイデアに落とし込んでくれたなと感じました。

金谷 準決勝ではいろんなチームのプレゼンを拝見し、どのチームも素晴らしい提案をしてくれました。その中でもクローバージャー二ーは特によかった点が多くありました。物事を深堀りする力や情報収集力が優れていたし、データも非常に精緻にまとまっていました。ゴルフ場に着目したセンスもいいし、具体的な数値を示してロジカルに提案してくれるところもすごいなと思いました。

ーーアイデアはどのようにブラッシュアップしていったのでしょう?

中野 準決勝の段階でかなり仕上がっている内容ではあったのですが、高齢者施設を作るなら利用者の方からヒアリングしたり、ゴルフ場の土地のオーナーに納得してもらえるかどうかという目線も必要だよ、ということをお伝えしました。フィールドワークを重ねながら、自分たちだけではなく、周りの意見も柔軟に聞いてみるといいかもね、という感じですね。

金谷 アドバイスとしては、「ゴルフ場、太陽光、高齢者施設のような、既存の事業を1ヶ所にまとめ上げて提案するだけだと目新しさという意味で弱くなっちゃうかもね」と話した記憶があります。「空いたゴルフ場に既存の施設を詰め込みました」というバラバラ感が解消できるよう、ビジネス上の価値をロジカルに筋立てたほうがいいんじゃないか、とお話させていただきました。

中野 そういうアドバイスはお話ししましたが、基本的には彼らが自分たちの力で主体的にビジネスプランを考えていて、特に私たちが一から指示をしたということはありませんでした。

ーー高校生とのやり取りの中で、印象的だったエピソードがあれば教えてください。

中野 2人ともすごく熱意があって、我々の話も真剣に聞いてくれました。初回の打ち合わせでも1時間近く話したのですが、ちょっと私たちが内容的に大風呂敷を広げてしまったというか、いろんなインプットをしすぎてしまったせいで、そのすべてをひとつのアイデアに丸め込もうと頑張りすぎてしまったということがありました。

金谷 それは印象的でしたね。もともと、2人とも電気が好きな子たちで、我々の事業内容を調べていくにあたり、「J-POWERの社員ってスゴい!」という想いが芽生えていたようです。だから、我々が言ったことを100%全部受け止めなきゃいけないと思ってしまったみたいで、我々が「こういう方法もいいよね」「ああいう考え方もできるね」と何気なく言ったことをすべて汲み取ろうとしてくれたのですが、結果的に惑わせてしまったなぁ、という反省はあります。

「我々にも高校生のような柔軟な思考が必要だ」

ーー高校生のみなさんに期待した、「アイデアの斬新さ」という点ではいかがでしたか?

中野 荒廃したゴルフ場を使って事業を行う、という仕組み自体はすでにあるものなので、「新規事業性は入れてほしい」とは伝えていました。そのうえで、ゴルフ場の跡地に高齢者施設の入った複合施設を作るというビジネスプランを出していただいたわけですが、複合施設内にカフェや遊具なども付けて集客につなげていくという発想がやはり高校生ならではですし、すごく柔軟な考えだなと感じました。大人になると、斬新なアイデアに対してどうしても保守的になってしまいますが、我々もそういった柔軟な思考が必要なんだろうなと学ばせていただきました。

金谷 実際にJ-POWERの発電所周辺でも、空いている土地の有効活用に関する議論はよくされているんですよ。地域活性化と合わせて何かできることがないかと検討する機会も増えていくので、彼らの自由なアイデアはとても良いヒントになったと思います。

ーーそれでは最後に、コンテストをすべて終えたまとめの感想をいただけますか?

中野 多くの高校生からいろんなアイデアを応募していただきましたが、そのどれもが創意工夫に富んでいて、テーマ発表から決勝大会本番までとても刺激的な半年間になりました。クローバージャーニーが審査員特別賞というかたちで努力を評価してもらえたことはありがたかったですし、彼らもきっと今後の自信につながったと思います。彼らも含め、本大会を通じてJ-POWERに興味を持ち、真剣にテーマに取り組んでくださった高校生の皆さん全員に改めて感謝の思いを伝えたいです。

金谷 前回大会では、「くまちゃんとリベロ」というJ-POWER代表チームとして出場してくれたメンバーに悔し涙を流させちゃったので、今回は審査員特別賞を獲って喜んでもらえたことがすごく嬉しかったですね。我々の会社の認知度向上も大事なんですけど、やっぱり高校生たちが全身全霊をかけて勝負しにきているところを間近で見て、応援することができたのが本当に楽しかったです。実は先日、その「くまちゃんとリベロ」のメンバーたちから「無事、全員が大学に進学することになりました」というメールが届いて、そこに「クローバージャーニーも見ましたよ」「私たちもマイナビキャリア甲子園の思い出はずっと残っています」って書かれていたんですよ。この大会の思い出を胸に、高校生たちが新しい世界に旅立っていく。これもマイナビキャリア甲子園ならではの魅力なのかなと思いましたね。