注目のスーパーファイトが目前に迫ってきた。5月6日、東京ドームで行われる4団体(WBA、WBC、IBF、WBO)世界スーパーバンタム級タイトルマッチ、井上尚弥(王者/大橋、31歳)vs.ルイス・ネリ(挑戦者/メキシコ、29歳)─。

  • 5月6日、東京ドームで4団体統一スーパーバンタム級王座の初防衛戦に挑む井上尚弥(写真:藤村ノゾミ)

34年ぶりとなる東京ドームでのプロボクシング興行は超満員必至。激闘にファンの期待は膨らむばかりだが不安要素もある。それは”悪童”ネリが、契約体重を守るか否か。もし体重オーバーが生じた場合、「世紀のイベント」が消滅の危機に瀕する。それを避けるべく大橋ジムの大橋秀行会長が講じた策とは?

■多大な注目を集めた公開練習

「(世界王者になって)10年目に東京ドームで試合ができるのは何かの縁、大橋ジム30周年でできるのも感慨深い。絶対に成功させなければいけないという思いはいつも以上に強く、高いモチベーションで闘えます。自分に期待したい」
「4つのベルトを持って入場するシーンを見せられるのは、自分でも深い意味合いを感じる。バンタム級でも4団体統一を果たしたが、そのベルトを持っての試合(防衛戦)はしていない。今回は4つのベルトを掲げてリングに上がる姿をファンの方に見てもらえることを嬉しく思う」
4月10日、所属ジムで練習をメディアに公開した際に、井上尚弥はそう話した。

ネリ戦に向けて、すでに100ラウンド以上のスパーリングを行っており調整は順調なようだ。
この日、驚いたのはメディアの数。100人以上の記者、カメラマンが集まりジム内は身動きが取れない状態に。『5・6東京ドーム決戦』への注目度の高さを改めて感じた。

  • 4月10日に行われた井上尚弥の公開練習。100人を超える報道陣で大橋ジム内はすし詰め状態に(写真:SLAM JAM)

■ネリは体重超過の常習犯

ただ、このビッグマッチには不安がつき纏っていた。
それは、ネリがこれまで複数回にわたり体重オーバーを犯していることである。
2019年11月、彼はWBC世界バンタム級王座次期挑戦者決定戦をエマニュエル・ロドリゲス(プエルトリコ)と行うはずだった。しかし、体重オーバー。それでもネリは違約金で解決し体重を落とさぬままリングに上がろうとしたが、ロドリゲスに拒否され試合が中止になっている。

遡れば2018年3月、ネリvs.山中慎介(帝拳)のリマッチは忘れ難い。
前日計量でネリは、まさかの1. 3キロの体重超過。即座に彼の王座は剥奪されたが、試合は行われている。結果は、ネリの2ラウンドKO勝ち。
これには多くの批判があった。ネリの体重超過は確信犯的の可能性が高かったからである。

あの時、試合が近づく中でコンディション調整が上手く進んでいなかったネリは、減量を諦めた。無理に減量をして負けるよりも、体重は落とせなくてもコンディションを万全に整え勝つことに専念したのだ。王座を剥奪されるのは仕方がないが無敗のレコード(当時)は守るとの考えである。
すでに会場(両国国技館)を借りチケットも完売、日本テレビ系列での全国生中継の準備も整えられていた。この段階で山中サイドが試合を中止できないことも見込んでの狡猾な策だったのであろう。

  • 公開練習でマススパーリングを披露する井上尚弥。『5・6東京ドーム決戦』の模様は「Prime Video」で独占生配信される(写真:SLAM JAM)

■リザーバーが用意された

同じことをネリがしないとは限らない。
3月、東京ドームホテルでの対戦発表記者会見の後、大橋会長は言った。
「もしネリが1ポンドでもオーバーしたら試合はやりません」
直後に、こんな声が多く聞かれた。
「いや、そうはいかないだろう。東京ドームという舞台での大興行が前日に中止となれば損失額は計り知れない。ネリが体重オーバーをしても結局は試合を決行することになるのではないか」

もちろん大橋ジムサイドは大会を中止にはしたくない。だが、井上尚弥を公平さが保てないリングに上げるつもりも毛頭ない。
そのため大橋会長は、イベント、井上の両方を守る策を講じた。
「ネリが契約体重を守れなかった時に備えてリザーバー(代役)を用意する」
そうメディアに公表したのである。

すでにリザーバーは決定している。
元IBF世界スーパーバンタム級王者で、現在はWBO世界同級王者のT・J・ドヘニー(アイルランド、37歳)。
戦績25勝(19KO)4敗で、日本でのファイト経験も豊富な選手。IBF王座奪取は2018年8月に後楽園ホールのリングで岩佐亮佑(セレス)を3-0の判定で破り果たしており、昨年も2度日本で闘い連勝した。

ドヘニーは井上のスパーリングパートナーを務めたこともあり、その縁で大橋プロモーションが主催するイベントに幾度も出場している。実は『5・6東京ドーム』でも第1試合でフィリピンの22歳のホープ、ブリル・バヨネスとの試合が決まっており「ネリの体重超過」が生じた場合のみ井上と闘う形だ。
現在、ドヘニーはスーパーバンタム級でWBO3位、IBF7位、WBCでも11位にランクされており王座挑戦権は有している。そして、ネリと同じサウスポー。

この策により、もしネリが契約体重を守らないようなことがあったとしても、井上尚弥の世界戦は行われ『5・6東京ドーム』は中止にはならない。
だが、これは念には念を入れての措置。ネリが今回、体重超過を犯すことはないだろう。キャリア最高額のファイトマネーをフイにするとは思えない。
悪童も万全のコンディションでアップセットを目論みリングに上がるはずだ。
熱き闘いに期待─。

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文/近藤隆夫