福島県の奥会津地域(柳津町、三島町、金山町、昭和村、只見町、南会津町、檜枝岐村)は、広大なブナの原生林や尾瀬国立公園等の豊富な森林資源に只見川沿いの優美な景観を有し、またそこで歴史とともに育まれてきた様々な伝統文化や工芸を継承している地域として知られる。

奥会津地域の5町2村が構成する広域振興協議会である只見川電源流域振興協議会では、そうした豊かな伝統文化や観光資源など地域の魅力を全国に発信したり、さまざまなイベントを開催したりなど、地域おこしを積極的に展開。今回は、カーシェアリングの実証事業をはじめとした奥会津地域の取り組みについて話を聞いた。

  • (左から)NTT東日本 福島支店 ビジネスイノベーション部長の佐藤 武史氏、NTT東日本 福島支店 ビジネスイノベーション部 まちづくりコーディネート担当の阿部 有希氏、只見川電源流域振興協議会 事務局次長の渡部 雅広氏、只見川電源流域振興協議会 主任事務局員の鈴木 徹氏

■日本の原風景が広がる奥会津の魅力を伝えたい

同協議会の事務局次長、渡部 雅広氏は地域の魅力についてこう語る。「奥会津の大きな魅力は何と言っても手付かずの自然とそこに佇む伝統的な住宅、そしてそこで暮らす人々が継承し続ける文化にあります。まさに日本の原風景と言えるでしょう」

  • 只見川電源流域振興協議会 事務局次長の渡部 雅広氏

同じく協議会の主任事務局員、鈴木 徹氏も次のように続ける。「冬になると日本有数の豪雪地帯となりますが、だからこその圧巻の冬山の景色が広がり、そこには昔ながらの生活が残っています。そうした奥会津だからこそ、ありきたりな箱物施策に頼るのではなく、地域特性を活かしながら地域の魅力をどう発信していくべきなのか、日々模索しています」

■観光のための二次交通手段としてのカーシェアリングの可能性

関東地方と会津地域を結ぶ会津鉄道や、2022年に11年ぶりに全線運転再開をした只見線といった、地域を通る鉄道もまた奥会津地域の魅力での1つとなっている。とりわけJR只見線の全線運転再開以降は、沿線に多くの観光客が訪れており、一部区間においては再開直前の利用客数を上回るなど、往時の賑わいを取り戻しつつある。

一方、全線運転再開が全国ニュースで取り上げられるなど、奥会津地域の知名度が上がったことで、想定を超えた観光客が訪れることとなり、駅から先の移動手段が課題として浮上することとなった。只見線の多くの駅では、バスやタクシーなど二次交通手段が十分に行き届いていないのである。

そうした課題を踏まえて、只見川電源流域振興協議会とNTT東日本 福島支店(以下、NTT東日本)、NTTル・パルク、KCSの4組織の協力により、奥会津地域におけるカーシェアリングの実証事業が、2023年7月1日から12月17日にかけて実施された。鉄道を使って奥会津を訪れた観光客などが気軽に利用できる交通手段を確保し、駅からの観光周遊性を高めることを目指した取り組みである。

実証事業では、カーシェアリング車両6台(コンパクトカー5台、ミニバンタイプ1台)が只見線沿線駅周辺に配置された。観光客が奥会津エリアを周遊しやすい利用方法として、指定のカーステーションで車を借りたら同じステーションに返却するラウンドトリップ方式を採用。車両の予約はアプリで実施できるため人を介す手間は不要な上、事前に予約を実施することで、鉄道を降車後すぐに車に乗っての移動を可能とした。

利用のピークは紅葉シーズンの10月半ばから11月始めにかけてであり、合計35件中の10件ほどがこの期間に集中しておりが使われているほどの状況であった。利用者へのアンケート調査からも、満足度の高さが示されている。

「皆さん観光での利用であり、目的地が駅から離れていて当初はそこまでの足がなかったけれど、カーシェアリングにより行くことができた、といった状況がアンケート結果から読み取れます。このような効果をうまく各地域やレンタカー事業者等に知ってもらえれば、フルシーズンでの本格実施も可能ではと考えています」(鈴木氏)

  • 只見川電源流域振興協議会 主任事務局員の鈴木 徹氏

こうして実証事業で得られた稼働データやアンケート調査などから、二次交通として有効活用されるか等を確認し、二次交通体系の拡充につながるかが検証されているのである。

■NTT東日本グループとの包括連携協定へと発展

今回のカーシェアリングの実証事業をはじめとした、只見川電源流域振興協議会とNTT東日本グループとの協業関係のきっかけは、2023年3月のことであった。電話回線契約の内容の見直しについて鈴木氏が問い合わせたところ、NTT東日本 福島支店 ビジネスイノベーション部 まちづくりコーディネート担当の阿部 有希氏が訪れて対応。対話をするうちにNTT東日本グループでもカーシェアリングをはじめ、同協議会のニーズに合いそうな取り組みを行っているのを知ったという。

阿部氏は、「色々とお話を伺う中で、当社グループで行っている中でも関連しそうな取り組みをピックアップしてご提案しました」と振り返る。

  • NTT東日本 福島支店 ビジネスイノベーション部 まちづくりコーディネート担当の阿部 有希氏

そこからカーシェアリングの取り組みについて話が進んでいくとともに、8月1日には只見川電源流域振興協議会とNTT東日本グループとの間で「奥会津地域における価値の創造と地域活性化に関する協定」も締結された。この包括連携協定は、両社が連携しながら、デジタルを活用した奥会津地域特有の伝統文化や観光資源等の価値創造及び新たな地域活力の創出により持続的な地域づくりを推進することを目的としている。協定に含まれる連携協力事項は以下の7つとなっている。

(1)奥会津らしさの整理・継承に関すること
(2)奥会津のブランディング推進に関すること
(3)地域内外との連携・交流の促進に関すること
(4)グローカルな人財の育成に関すること
(5)地域イノベーションの推進に関すること
(6)地域づくりとしての広域観光の推進に関すること
(7)二次交通体系の拡充に関すること

10月30日から31日にかけて、この協定に基づいたフィールドリサーチ事業が実施された。これは、自然、伝統、文化など多角的な視点から、奥会津地域の魅力を再発見するための取り組みである。フィールドリサーチでは、地域の文化や伝統が残る場所や自然、観光地などを実際に訪問し、奥会津ならではの自然、伝統、文化などの魅力について調査、記録が行われた。

そして3日目となる11月1日にはワークショップを開催。参加者全員でリサーチ結果を整理・分析し、「100年後まで残したい、さらに発展させたい魅力」がストーリーとして描き出された。

フィールドリサーチについて鈴木氏は、「我々としても地域で活躍している人々は把握しているつもりでいましたが、改めてこんなバックボーンがあったのかなど新発見もあったりして、今後のよりお付き合いを深くするためにも参考になりました」と評価する。

また、9月23日には“日本一秘境な音楽フェス”を謳った音楽イベント「奥会津フェス2023」が開催されたが、ここでもNTT東日本グループとして一部協力している。

■本当に地域に資するICT活用のあり方をともに模索していきたい

NTT東日本 福島支店 ビジネスイノベーション部長の佐藤 武史氏は、只見川電源流域振興協議会とのパートナーシップについてこうコメントする。「この1年ともに実施してきた様々な取り組みを通じて、地域の課題感やその解決に向けた方向性についての共通認識ができたのが一番の成果だと感じています。それがあってこそ、これから地域のためになる事業を一緒に展開していけるのではないでしょうか。大企業的なスタンスではなく、地域に密着して寄り添いながら伴走していくことを目指したいですね。ICTの利活用についても押し付けがましい内容では定着しないと考えているので、地域の現場視点での課題の認識は大切であり、我々としてもそこが強みであると自負しております」

  • NTT東日本 福島支店 ビジネスイノベーション部長の佐藤 武史氏

「奥会津地域で顕在化している課題は日本の縮図でもあると感じています。正解やゴールはないかもしれませんが、そこから逃げないでどうすればいいのか地域の皆さんと考え続け、走り続けていくことが大事なのではないでしょうか。そして私自身も、地域の企業で働く者として、地域に何かしらのかたちで貢献できていると実感できるような活動を目指していきたいですね」(阿部氏)

今後について鈴木氏はこう話す。「奥会津地域は人口減少と高齢化が国内でもトップレベルに進んでおり、雇用や事業承継の問題が現実として出てきています。ただ、私は人口減少というのは必ずしも悪いことではないと考えています。もはや人口減少を食い止めるのは不可能なので、それを前提として社会のシステムが維持できるような仕組みを地域につくっていく、それこそが我々の使命であると思います。そのためにも、デジタルやICTの利活用は人的リソース削減に非常に効果があるので期待しています。ただし、高齢化が進む中でデジタルと無縁の生活を送っている人々も多いので、そこもNTT東日本グループの知見を得ながらうまく解決していきたいです」

そして最後に渡部氏は、今後のICT活用に対してこう期待を示す。「奥会津地域の広さはそれ自体が課題でもありますが、ICTを活用することでこの距離を越えて、教育や観光などをもっと“近く”に感じてもらえるようにできるはずです。情報発信のあり方をはじめ、本当に地域活性化のためになるICTの活用方法ついて、そこに強みのあるNTT東日本グループと一緒に考え、実行していきながら、同様の課題を抱える全国の地域のための先進モデルがつくれればと期待しています」