Googleは8月30日、生成AIによる検索体験「Search Generative Experience」(以下、SGE)の日本語版を発表しました。Google検索の新たな取り組みを実験する「Search Labs」にて、同日から試験運用を開始します。
Search Generative Experienceとは?
SGEはWeb検索に際し、自然言語の文章をAIが理解してユーザーが効率的に必要な情報を得られるよう、回答を生成します。使用している生成AIはGoogleのBardではなく、非公開とのこと。
5月10日に開催した開発者カンファレンス「Google I/O 2023」で披露された機能で、もともとSearch Labs自体は多言語展開が予定されていましたが、これまでは米国でしか使用できず、米国以外では日本が初の提供国となります。
SGEが提供する「新しい検索体験」とは?
現在のGoogle検索では調べ物をするとき、ひとつの質問を噛み砕き、単語を組み合わせて検索。出てきた複数の情報源を整理してつなぎ合わせ、理解しなければいけません。
新たに提供されるSGEは人に尋ねるような自然な質問文を受け付け、“正確性の高い情報源”をベースに、回答の概要を生成して表示します。例えば、「人前でうまく話すコツ」と入力した場合、そのポイントを箇条書きで挙げてくれます。
生成した回答の基となったWebサイトも同時に表示し、詳細な情報を得たい場合は1クリックで遷移できます。
また、「ロボット掃除機の選び方」といった商品やサービスの購入を検討する質問には、商品選びのポイントや注意点を提供。生成された概要の右上にあるボタンを押すと表示が切り替わり、概要に書かれた内容がどのWebサイトからきているのか、情報の裏付けとなったWebサイトの確認が簡単にできるようになっています。
加えて、概要の下には、最初の質問をフォローアップする「追加で聞く」ボタンを用意。このボタンを押すと会話モードになり、Googleの「Bard」あるいはOpenAIの「ChatGPT」のように、人と会話するように質問を続けていけ、前の質問を引き継いでいるため新たに同じことを聞く手間も省けます。
このほか、想定されるフォローアップの質問も表示されます。例えば最初に「残暑見舞いはいつ頃送る?」と聞いた場合、追加で聞くボタンの隣に「残暑見舞いのマナーは?」といった質問ボタンが並び、タップするだけで知りたい情報を深掘りできます。
なお、SGEによる概要の生成は、従来のWeb検索結果にアドオンされるため、強調スぺニットとSGEによる概要の両方が検索結果に出てくる可能性があります。
基本的には米国版のSGEと同等の機能となるため、SGEを紹介したニュース記事「生成AIを取り入れたGoogle検索の実験プログラム、米国で提供開始」もぜひご参照ください。
SGEを試してみるには?
利用はSearch LabsにGoogleアカウントを登録するだけで、無料で使用できます。
SGEが使えるツールは、デスクトップのChromeブラウザと、スマートフォンのGoogleアプリ最新版(Android/iOS)。8月30日から順次ロールアウトされるため、Googleによると提供はChromeブラウザの方が早く、Googleアプリでは2~3日遅れる可能性もあるとのことです。
生成AIが自然に語る「嘘」は信じられやすい
GoogleでSGE日本語版を担当した、検索担当の村上臣ゼネラルマネージャーは、SGE日本語版の開発にあたり「情報ニーズ」「情報の品質」「安全上の制約」「エコシステムの機会」「広告エクスペリエンス」の6つを中心に、社内で議論を進めたと話しました。
中でも「情報の品質」と「安全上の制約」については、「これまでの培ったすべての専門性を投入し、慎重に検討した」と強調。
この背景には、現在の生成AIやLLM(Large Language Model、大規模言語モデル)に存在する既知の課題があります。例えば、ハルシネーション(Hallucination)と呼ばれるものがその1つ。
ハルシネーションは、人工知能が事実に基づかない情報を生成する現象のことで、LLMや生成AIは、もっともらしい嘘や存在しない出来事・場所などを、実際のデータのように出力してしまうことがあります。
また、生成AIによる回答が自然であればあるほど、たとえハルシネーションであったとしても、ユーザーが情報を信じてしまう可能性があることが、Googleの実験でわかったといいます。
このためSGE日本語版については「事実に基づいた、情報の正確性を重視した表現に重きを置いた」といいます。「(回答の)表現に硬さが残ることがあるかもしれないが、試験運用のためユーザーから幅広いフィードバックを得ながら改善を重ねていきたい」とのことで、サムズアップ・ダウンボタンを設け、ユーザーからの手軽なフィードバックを集めて改善に役立てる予定です(試験運用しているGoogleのBardも同じ仕組みを取り入れています)。
安全でないトピックにはどう対応する?
また、村上氏は検索サービスを提供する責任として、「安全性の確保」「トレーニングと評価」の2つを挙げました。
情報の「安全性の確保」に関しては、ハルシネーションが起こる可能性を、Web上にある正確性の高い情報を基にすることで軽減させたとしました。また、SGEの検索結果を表示するトピックを制限することで、信頼度が低かったり、アウトプットが適切ではない可能性があるトピックについては、SGEによる概要の生成は表示されないとのことです。
「トレーニングと評価」に関しては、大規模言語モデルのチューニングや、生成AIからの回答を、人間によるフィードバックを通じて微調整するなど、生成される回答の品質を改善し続けているとしました。また、Google社内では専門のチームが、敵対的な質問をして回答を確認し、バイアスや安全の懸念がないかをチェックする「敵対的テスト」も取り入れているとのことです。
SGEで広告はどう表示される?
Googleが重視しているWeb検索の「広告」は、SGEでも専用枠に表示。Googleにとって広告は当然収益の大きな柱ですが、「ユーザーが関連するサービスや製品を見つけるために役立つもの」という位置づけでもあります。
SGEの広告部分には「スポンサー」の文字を掲示し、生成AIの結果とは明確に区別を付けて表示されます。村上氏は「広告主が潜在顧客にリーチできるよう、体験を継続的にテストしながら、フィードバックを通じて進化させていきたい」と話しました。