大河ドラマ『どうする家康』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)の第31回「史上最大の決戦」は、豊臣秀吉(ムロツヨシ)対徳川家康(松本潤)、日ノ本を二分する重大な戦いのはじまりが緊張感たっぷりに描かれた。

  • 『どうする家康』豊臣秀吉役のムロツヨシ

■品性下劣な感じに描かれ好感度は高くない『どうする家康』の秀吉

強敵・池田恒興(徳重聡)や、鬼武蔵こと森長可(城田優)が現れ、酒井忠次(大森南朋)が前線に出る。羽黒にて、槍を振り回して戦う城田演じる森長可はまるで『戦国BASARA』のキャラクターのようで無双に見えた。が、結果は酒井軍の勝ち。史実だから仕方ない。それでも、森長可の存在感は短いながら大きく、ひととき戦国ドラマ感を味わえた。ここで負けたとはいえ森長可の出番はまだある。

城田の出演は事前に公表されておらず、サプライズ感も加わり大いに盛り上がった。城田は、大河ドラマには『天地人』(09年)の真田幸村以来の出演。大柄な身体、彫りの深い顔立ち、ミュージカルを中心に大舞台で活躍しているので身体表現や発声も大きく力強く、戦国武将に合う。今後は時代劇にも出ることを期待したい。

さて。「秀吉を討つ」と宣言した家康。ベテランの酒井忠次が活躍し、次世代の本多忠勝(山田裕貴)、榊原康政(杉野遥亮)、井伊直政(板垣李光人)もたのもしくなり、小牧・長久手の戦いに向かう。戦況は順調で、家康も貫禄が出てきたが、当人は相変わらずあまり何もしてない印象。もっとも名君主とは何もせず、部下にいい働きをさせるものとも言われる。ところが、何もしないと悪く言う者も現れるもので……。江戸時代に匿名の人物が残したとされる「織田がつき羽柴がこねし天下餅 座りしままに食ふは徳川」という批判的な言葉があるように、家康は何もしないで天下をとったと思った人も世の中には存在していたのである。捉え方は人それぞれ。『どうする家康』はもしかしたら、江戸時代の民衆の一部が感じる思いを反映した描写をしているのかもしれない。

『どうする家康』では「こねし秀吉」もこれまであまりいい印象に描かれてはいない。が、第30回では勝家が秀吉は昔から「底知れなかった」と言い、第31回で石川数正(松重豊)は「得体がしれん」と言って徐々にその凄さが表に出てきている。多くの戦国物語の秀吉は、はなから才気煥発な人物として描かれることが多く、それゆえ人気キャラになるが、『どうする家康』では、気は回るもののとにかく品性下劣な感じに描かれ好感度は高くなかった。逆にそれゆえ、誰もが軽視していた農民出身の秀吉が次第に頭角を現してきて、とてつもない脅威になるというスリルを作り出す。

■深みが増してきたムロツヨシ 『大恋愛』で二枚目役も好演

古沢良太氏の描き出す秀吉像は、どこか演じているムロツヨシと重なる。それは意外性である。ムロツヨシは喜劇俳優と自ら名乗り、主としてコメディを演じてきた。軽妙なバイプレイヤーとして認識されていた彼が、あるとき突如として、恋愛ドラマの相手役に抜擢され、見事に素敵なラブストーリーを演じたのは、2018年、『大恋愛~僕を忘れる君と』(TBS)である。『大恋愛』以前のムロのパブリックイメージは三枚目。福田雄一作品で佐藤二朗と並ぶコメディリリーフとして活躍し、毒のある、道化的な印象だった(道化は例えばシェイクスピアでは巧い俳優が担当するものとされる)。それが一転して『大恋愛』では二枚目。知的な作家で、戸田恵梨香演じるヒロインのよき理解者、記憶を失っていく彼女にやさしく寄り添い続け、こんな恋人がいたら素敵と見事に視聴者に夢を見せてくれたのだ。

TBSの金曜ドラマ、大メジャーな枠で一躍注目されたムロツヨシは、インタビュー番組によく出るようになり、生い立ちが語られていく。子供のとき、両親と離れ祖父母に育てられ、いろいろ苦労を経験しているというもので。役でも、本人のトークでも、基本、陽気な印象と、その陰のある生い立ちとのギャップに、そう言われたら、この人、目は笑っていない気がする……と、隠された孤独や乾きのようなものを勝手に想像し、いつしかムロツヨシの存在が深みを増しているのである。本人にとって本当につらい経験なのだと思うが、彼は実人生も演技に役立てているように感じる。

『どうする家康』でも、泣いたり笑ったり、大げさに振る舞い道化のようでいて、瞬間、真顔になったときの瞳には感情がないという、つかみどころがない薄気味悪さが、ドラマのいいスパイスになっている。第31回、織田信雄(浜野謙太)がずかずかと上座に上がってきたとき、己の器を知ることが大事と説き、「にー」「にー」と言いながら前進し、強烈な圧を発し「二度と天下に伸ばすに及ばず」と宣言し、上座から退かせる場面の迫力は見事だった(ムロツヨシの芝居を受ける浜野謙太も巧い)。

喜劇俳優として徹底的に同じイメージを守っていくのもひとつのやり方だが、笑いだけでなく、悪さや暗さも表現できるということも俳優としては魅力的だ。第31回ではぼさぼさ髪だった秀吉も月代をそり、後半はやたらと派手な陣羽織を着て戦場に現れる。成金風の金の羽織もそれらしいが、いろいろな派手な色が組み合わさった陣羽織は、あれもこれもと欲が深い秀吉らしい。

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