これからロードバイクをはじめたい。そう思っている人に、どの自転車を薦めるかというのは、簡単なようで実にむずかしい。

本当の初心者なら、どんなロードバイクを買っても、その軽快な走行感に驚くだろう。けれど、予算と目的に合っていなければ、後になって後悔することになる。

■初心者用ロードバイクの面白さとは

スペシャライズドの"Allez”(アレー)"は、1981年にファーストモデルを発売した同社でもっとも歴史のあるロードバイクの銘柄だ。アレーは2種類のアルミフレームを核に、部品のスペックが異なる4モデルがある。試乗した『アレースポーツ』は、ディスクブレーキ+10スピードコンポのシマノ・ティアグラをメインとするミックスコンポで組まれたニューモデルだ。

一般的に初心者用ロードバイクは、本格的な競技用と比べると価格が安い。ヘルメットやウエア類、鍵やライトといったアクセサリー類も必要だから、初心者用はできるだけコストがかからないように…という配慮だ。確かに新規ユーザーに対する敷居は低い方いい。

だが、コストカットが行き過ぎれば、すぐにアップグレードが必要になり、トータルコストの高いバイクになりかねない。
初心者用ロードの面白さは、このバランスをどのようにメーカーが考えたのか読み解くところにある。

新型アレースポーツのトピックはディスクブレーキの採用だろう。中上位モデルでは標準化しているが、入門用となると装着率は低い。しかも、シマノ純正の油圧方式である。そう聞いて、「そんなの当たり前だろう」と思うかもしれない。

だが、そうではない。入門用モデルではブレーキでコストカットするのが常識。優れたブレーキ専門メーカーもあるが、コストの制約が多いクラスでは、純正ブレーキに敵うものなし、と言っていい。

ブレーキのローター径は前後ともに160㎜。こちらも車重、タイヤの太さを考慮すれば、ベストチョイス。街乗りから峠まで走ってみたが、減速性、コントロール性ともに必要十分。入門用モデルでは最良の1つと言っていい。

チェーンホイール、チェーン、スプロケットなど駆動系部品でコストカットしたので、変速性能はたかがしれているが、ブレーキ周り(安全性)を最優先させたのは正しい選択だ。

フレーム素材はオリジナルアルミ合金の"プレミアムE5"。添加物の詳細は明らかになっていないが、フレーム重量は1350g。前輪を保持するフルカーボン製フロントフォークとのセットはクラス最軽量だと言う。工作面で目につくのは、ケーブル類の処理だ。

シンプルでスタイリッシュな雰囲気とメンテナンス性を両立するため、変速ケーブルとブレーキホースの内装はダウンチューブのみ、ボトムブラケットから後ろ側は内装していない。中途半端という批判もあるだろうが、入門用車としては気の利いた工作である。

  • 応力のかからないパイプ中央部の肉厚を薄くしたバテッドチューブ。

  • 裏から見ると、ダウンチューブのBB 側からケーブルが出ているのが分かる。

フレームの設計から見てとれるのは、前傾姿勢を浅く&直進安定性を高めようとしていること。

上位モデルの『アレースプリント』(54㎝)と比べて、ハンドル高を決める基準となるスタックは32㎜も大きく(ハンドル位置が高い)、ハンドルまでの距離を決めるリーチは17㎜も短い。重心位置を下げ、ホイールベースを長くするなど、徹底的に安楽に乗り出せるようにしている。

かくして、走り出したときの印象も、乗りやすさが前面に出る。前傾姿勢が浅いので景色がいいし、長時間でも乗り続けられそうな感じだ。1人でポタリングをしたり、ロングライドを目指す基礎づくりをするバイクとしてアレースポーツは最適なバイクである。

ただ、いずれは本格的なレースをしたいなら、ハンドル位置をもっと下げられ、ハンドリングの反応性も高い方がいいので、違うバイクを選択したほうがいい。

■カスタマイズすれば、さらに良くなる

アレースポーツの走行性能をアップグレードしたいなら、まずは軽量化をすること。ノーマルでも路面の細かな凹凸はタイヤが太く低圧なので気にならないが、大きめの段差や穴を通過するとドタンバターンと振動が収束するのに時間がかかる。
低速でUターンやスラローム時のダルいハンドリングも、ホイール関連を交換すると良くなる。

純正タイヤ(ロードスポーツ700✕30C)の重量は実測458g。違う銘柄の28Cにサイズダウンすれば200g近く軽くできる。インナーチューブも純正は実測145g、これも60g程度は軽量化できる。

車輪の外周部は加速感に大きな影響を及ぼす。重量の違いは50gでも体感できる。それが片方の車輪で250g、前後輪で500gも違ったらどうなるか。当たり前だが、まったく違うモノになる。予算に余裕があるなら、ホイールもアップグレードしたいが、まずはタイヤとインナーチューブだけで十分だ。

  • オリジナルタイヤのロードスポーツ。30C は完成車用のみで、タイヤのみの入手はできない。

サドル&シートピラーもコストカットの対象になっている。サドルは自分の好みが見つかるまで、いくつか試すことになるので、軽量なモデルもテストしてみよう。同時にシートポストも軽量なタイプにすると大きく軽量化できるだろう。

そして、消耗品のバーテープもアップグレードするとハンドルのグリップ感が大きく向上する。とはいえ、いずれの製品も、購入後すぐに交換する必要はない。消耗品なので、交換時期になったときにアップグレードすればいい。

そして、拡張性の高さもアレースポーツの魅力の1つだ。フレームとタイヤのクリアランスは35Cまで確保されているので、グラベル用(未舗装路)タイヤを履かせれば、ちょっとしたオフロードなら走ることもできるし、純正パーツでマッドガードやラックが用意されているのでツーリング仕様にすることも、快適通勤仕様にもできる。

ロードバイクを買ってレースをする人は全体の1割程度だと言われている。だとすれば、アレースポーツはほとんどの初心者にとって悪くない選択である。

先に挙げた軽量化の他にも、チェーンやスプロケットなども交換時期が来たらシマノの純正に変えてみよう。乗りながら、自転車を育てていくつもりで付き合えば、いい自転車に仕上がる素地があると言えるだろう。

  • サンレース製のスプロケットは11~32T の10 スピード。チェーンはKMC。シマノ純正に交換すれば変速レスポンスは向上する。

  • スペシャライズド『アレースポーツ』。25 万3000 円

文・写真/菊地武洋