2022年10月に発売されたIntelのディスクリートGPU「Arc A770」と「Arc A750」。GPUの激戦区であるミドルレンジ帯の製品ということで注目を集めたが、ライバルのGeForce RTX 3060とよい勝負ができるゲームがある一方で、おもにDirectX 9対応のゲームを中心にパフォーマンスが十分出ないケースがあり、何度か行われた特価販売以外で売り上げの上位に顔を出すことはなかった。

しかし、Intelは2023年2月にArc Aシリーズに関するアップデートを発表。新たなドライバでDirectX 9対応ゲームを中心にパフォーマンスが大幅向上したという。そこから原稿執筆の4月上旬時点までに数度のドライバアップデートが行われた。そこで、ここでは最初期のドライバ「31.0.101.3490」と原稿執筆時点の最新ドライバ「31.0.101.4255」(ベータ版は除く)でどこまでパフォーマンスが変わるのチェックする。また、比較対象としてGeForce RTX 3060も用意した。同じく原稿執筆時点での最新ドライバ「Game Ready Driver 531.41」を使用している。

  • Intel Arc A770/A750が新ドライバで性能大幅アップ? RTX 3060と改めて比較してみた

    Intel Arc A770/A750が最新ドライバでどこまでパフォーマンスが向上するかチェックする

Intel Arc A770/A750のスペックをおさらい

Intel Arc A770/A750は、DirectX 12 Ultimateに対応、つまりレイトレーシングも楽しめる最新世代のGPUだ。Intel版DLSSと言える、機械学習を活用したアップスケーラー「XeSS」に対応しているのも注目点と言える。主なスペックは下の表にまとめた。参考までに下位モデルのA380も含めている。

Intel Arc Aシリーズのスペック
仕様 Intel Arc A770 Intel Arc A750 Intel Arc A380
Xe Core 32基 28基 8基
Xe Matrix Extension(XMX) 512基 448基 128基
シェーダー(FP 32 Core) 4096基 3584基 1024基
GPUクロック 最大2100MHz 最大2050MHz 最大2000MHz
GPUメモリ GDDR6 8GB or 16GB GDDR6 8GB GDDR6 6GB
メモリバス幅 256bit 256bit 96bit
メモリ速度 16Gbps(8GB) or 17.5Gbps(16GB) 16Gbps 15.5Gbps
接続インタフェース PCI Express 4.0 x16 PCI Express 4.0 x16 PCI Express 4.0 x8
消費電力(TBP) 225W 225W 75W
  • 「インテル Arc コントロール」アプリもアップデートされており、全画面表示から一般的なアプリと同じウィンドウ表示に変わった

テストしたゲームすべてで性能向上を確認

ここからは実際のテストに移ろう。テスト環境は以下の通りだ。

【検証環境】
CPU Intel Core i9-13900K(24コア32スレッド)
マザーボード MSI MPG Z790 CARBON WIFI(Intel Z690)
メモリ Kingston FURY Beast DDR5 KF556C36BBEK2-32(PC5-44800 DDR5 SDRAM16GB×2)
ビデオカード ・Intel Arc A770 Limited Edition
・Intel Arc A750 Limited Edition
・NVIDIA GeForce RTX 3060
システムSSD Western Digital WD_BLACK SN850X NVMe SSD WDS200T2X0E(PCI Express 4.0 x4、2TB)
CPUクーラー Corsair iCUE H150i RGB PRO XT(簡易水冷、36cmクラス)
電源 Super Flower LEADEX V G130X 1000W(1,000W、80PLUS Gold)
OS Windows 11 Pro(22H2)

まずは定番3Dベンチマークの「3DMark」から見ていこう。DirectX 11ベースのFire Strike、DirectX 12ベースのTime Spy、レイトレーシングのPort Royalのすべてで新ドライバにすることでスコアアップが確認できた。3DMarkではRTX 3060を大きく上回るのは従来通りだ。3DMarkのスコアだけならRTX 3070級と言ってよい。

  • グラフ1: 3DMark

次は大幅にスコアが向上するというDirectX 9ベースのゲームを試そう。Counter-Strike: Global Offensive(CS:GO)とドラゴンクエストXベンチマークを用意した。CS:GOは、ワークショップのFPS Benchmarkを実行してフレームレートを測定している。

  • グラフ2: Counter-Strike: Global Offensive

  • グラフ3: ドラゴンクエストXベンチマーク

CS:GOは、A770とA750のどちらもフルHDで約15%のフレームレート向上を確認できた。新ドライバによる性能向上がよく分かる結果だ。ドラゴンクエストXベンチマークでもフルHDで約22~27%のスコアアップが確認できる。ただ、どちらのゲームもRTX 3060のほうが優秀だ。ドライバ更新でパフォーマンスは確かにアップしたが、DirectX 9に対する最適化はRTX 3060がまだまだ上と言ってよいだろう。

次はDirectX 11ベースのレインボーシックス シージ(APIをDirectX 11に設定)とApex Legendsを実行する。とくにレインボーシックス シージは初期ドライバでは最適化不足のためかフレームレートが伸びなかっただけに新ドライバの威力が気になるところだ。レインボーシックス シージはゲーム内のベンチマーク機能を実行、Apex Legendsはトレーニングモードの一定コースを移動した際のフレームレートを「CapFrameX」で測定した。

  • グラフ4: レインボーシックス シージ

  • グラフ5: Apex Legends

レインボーシックス シージは本来の性能が出るようになったとみてよいだろう。フルHDでは新ドライバでA770/A750とも約2.9倍もフレームレートがアップしている。それでもRTX 3060に勝てないのはちょっと寂しいところではあるが。Apex Legendsは初期ドライバのころから高いフレームレートを出していたが、新ドライバでさらに微増した。このゲームに関してはRTX 3060を大きく上回っている。

続いて、VulkanとDirectX 12ベースのゲームを見てみよう。レインボーシックス シージ(APIをVulkanに設定)、サイバーパンク2077、エルデンリングを用意した。レインボーシックス シージとサイバーパンク2077はゲーム内のベンチマーク機能を実行、エルデンリングはリムグレイブ周辺の一定コースを移動した際のフレームレートを「CapFrameX」で測定した。エルデンリングに関しては、2023年3月23日のアップデートでレイトレーシングに対応し、A770/A750でどれほどのフレームレートが出るのか試してみたいという興味で入れている。ドライバ更新による性能差が目的ではない点はご了承いただきたい。

  • グラフ6: Vulkan レインボーシックス シージ

  • グラフ7: DirectX 12 サイバーパンク2077

  • グラフ8: DirectX 12 エルデンリング

レインボーシックス シージについては初期ドライバでもVulkan設定では高フレームレートが出ていたので微増にとどまっている。A770ならRTX 3060とほぼ同性能と言ってよいだろう。サイバーパンク2077も微増だ。Arc Aシリーズは、VulkanやDirectX 12など新しいAPIに関しては元から強かったので大きくは変わらないようだ。なお、エルデンリングはフレームレートが最大60fpsしか出ないゲーム。そこにいかに近づけるかがポイントだが、A770/A750ともフルHDならなんとか遊べるフレームレートを出している。平均60fpsを狙うなら画質をもう少し落とすべきだろう。なお、RTX 3060に対しては若干フレームレートを上回った。

特にDX9性能が大幅アップ、ドライバ更新は忘れずに

今回の検証はここまでだ。Intelが2023年2月に発表した通り、新ドライバによってDirectX 9対応のゲームに関しては大幅な性能向上が確認できた。それ以外のゲームでもすべて性能アップしており、最適化が進んでいるのが分かる。幅広いユーザーが安心してArc Aシリーズを購入できるようになるためには、“どのゲームも安定して動作するドライバの完成度”が当たり前ではあるが重要だ。Arc A770/A750はミドルレンジGPUとして十分魅力的なポテンシャルを持っているだけに、今後もドライバ更新による性能向上と最新ゲームへの最適化を期待したい。